宇宙人かく語りき

 イベント会場のビルの屋上に三人の宇宙人はやって来た。鍵はザクシーが便利な宇宙人技術で開けた。

「単刀直入に言うけどザクシー、お前が戦ってるアレ、ヤラセだろ」

 開口一番ど真ん中ストレートを、真正面から目を見て言われたザクシー。

 言ったエイホは笑うでもなく真剣な顔である。

「弁解は必要ない。あんなものは見ればわかる。お前がやっているのは組手だ。相手がどう動くかわかっている同士のアクションだ。地球人でもわかるやつはわかるだろう」

「…………」

 ザクシーが言葉につまり、エイホがさらに畳み掛ける。

「何度か別のパターンもあったが、プロレスごっこや人形遊びだな。なんにせよ地球人にバレるのも時間の問題だ。やめておいたほうがいい」

 言葉に詰まるザクシー。さっきも動き方で地球人に特定されるという失態を犯したばかりだ。ユーシーには無かった技術だ。そんなことをする必要が無かったから。

「で、そんな自作自演をしてる本当の目的は何なの? 地球人の前では黙っててあげたんだから教えてくれる?」

 トオナが腕組みをして仁王立ちでザクシーに詰め寄る。

 トオナも身長は小さい方だが、それでもザクシーよりは大きい。グイッと来られると圧を感じる。

「わかった。借りがあるというわけだな」

 ザクシーはユーシー星人らしく合理的に了承した。

「弱みを握られたとも言う」

 エイホがザクシーの頭を鷲掴みにする。

 ため息をついてそれを受け入れるザクシー。頭を掴まれたまま顔を上げた。

「まずは本当の姿を」

 と言ってエイホの手をどけて、ザクシーにしか見えない視界コンソールを操作する。

「コレが本当の私だ」

 なんの音もなくパッと姿が変わった。

「色が変わっただけじゃん」

 銀髪に水色の肌。

「それでも地球人にとってはかなり異質に見えるだろう。余計な警戒は与えたくない」

「なぜ?」

 トオナが首を傾げる。

「私達は今まで自分達以外の知的生命体に出会ったことが無かった。地球人のように仲間同士で争ったりすることも無かった。協力して発展してきたからこそ、母星の壊滅から逃れる事が出来たんだ」

「壊滅?」

「天体衝突だ。早い段階で察知していたからかなりの数が脱出できた」

「全員では無いのね」

「流石に無理だった。できる限りの手は尽くして、能力の高い者を選別して脱出した」

「合理的だね」

「そうだな。そうするべきだと、残された者達もわかっていた」

「モメなかったんだ」

「……そうだ。だが残された者達を忘れた事はない。死の星と化してもなお、あそこには生き残りがいるのではないかと思いたい。だから私達は新天地を探すだけでなく、星を治す技術を求めて宇宙を旅してきた」

「合理的じゃないね」

「そうだ……。ユーシー星人らしくない決定を、ユーシー星人はした。我々はそれを誇りに思う。そして旅を続け、ついに地球を見つけた」

「どう思った?」

「初めは好戦的で野蛮な奴らだと思った。いや、今でもそれは変わらないが……、それだけではない種族だ」

 ザクシーはそう言いながら、千村からもらったグッズを見つめる。

「バラバラだからこそ、その多様性は見ていて面白くもある。可能性を感じる。侵略なんてするつもりは最初から無い。かといって馴れ合うのも危険だ。だから我々の中で一番警戒心のある私が来た。ひと芝居打って程よく友好関係を築き、技術や資源の調査をするのが目的だ」

「そして欺くための手段としての自作自演、マッチポンプがいつしか目的になりつつあり、今日の失態を招いたワケだ」

 トオナがフフンと鼻で笑った。

「ああ、地球人ウケする事ばかり考えていたよ」

「なら協力しよう」

「え?」

 トオナの突然の申し出にザクシーは狼狽える。

「私達はぐれ宇宙海賊コンビは地球で暮らす為に地球を害悪宇宙人から守りたい」

 自分を親指で指す。

「お前は地球人に疑惑を抱かせない様に活動したい」

 ザクシーを人さし指で指す。

「協力すれば簡単になると思わないか?」

「思う」

「じゃあ協力しよう」

「わかった」

「話が早くて助かるよ」

 トオナが差し出した手をザクシーが握り返した。

「宇宙人同盟といったところかな」

「そうだな。よろしく頼む」

 頷き合う2人。

「よし、すぐダイオーを返せ。もう一回勝負だチビ」

 ザクシーの頭をワシャワシャと乱暴に撫で付けてエイホが凶悪な笑みを浮かべる。

「私達と宇宙海賊以外の宇宙人がどう動くかもまだわからないしな。ダイオーは使える状態にしておきたい」

 トオナもエイホの提案に同調する。

「ん? お前たち以外にも宇宙人がいるのか?」

「なんだお前、地球に来て色々調べてるんじゃないのか? グレイとかトカゲ野郎とか知らないか?」

「アレは本当に居るのか!?」

「居る。何度か遭遇してるがお互いに静観だ。まあ直接戦闘なら問題なく勝てると思うが奴らは人間社会に深く結びついている。グレイは主にA国。C国は把握しきれないくらい雑多に取り込んでるらしい」

「まさかあんな気持ち悪い奴が本当に居るなんて」

 信じられない、といったようすで腕を組んで首を傾げるザクシー。

「宇宙人も様々だよ。お前も相当変わってるぞ。技術力は今まで見たことがない次元だし」

「うーん、そうなのか。だが我々には技術力以外の物が足りないのだな。腹の探り合い等は我々ユーシー星人には向かないようだ」

「そこを私達がカバーするって事さ」

 トオナがザクシーと肩を組んでポンポンと叩く。

「うーん……トオナは良いとして、このエイホにそんな事が出来るのか?」

 ザクシーが眉を顰めてエイホをジロジロと見る。

「あ? 見くびるなよ、私は」

「エイホにはエイホに向いた事をしてもらうさ」

 エイホの抗議を遮ってトオナが間に入る。

「なんにせよひとまずは仲良くしようじゃないか。はい、みんな手を乗せて」

 トオナがザクシーの前にしゃがんで手のひらを下にして差し出した。言われた通りにエイホが、戸惑いながらザクシーが手を重ねる。

「それじゃあいくよー、宇宙人ファイトー!」

『オー!』

 トオナとエイホに促されてザクシーも少し遅れて「おー」と叫んでみたが、何をさせられているのかはわからなかった。

「アッハッハッハ、じゃあ私は帰るね。買い物して」

 そう言ってエイホはさっさと屋上から屋内へ戻っていった。

「じゃあザクシー、鍵はちゃんと締めて来てね。また会おう」

 トオナも鼻歌交じりに去っていった。

 ザクシーは最期の儀式が何なのかわからず混乱して、もう一度一人で「ファイト、オー」と小さくやって見たがやはり何なのかわからなかった。

「疲れた……」

 今日の出来事を報告書にどう書くべきか、気が重くなるザクシーだった。

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マッチポンプ宇宙人 つねひろ @tunehiro

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