優しい物語

30歳の女性――付き合いの長い彼氏と同棲している――の生活が丁寧に描かれます。
この丁寧な、またしっとりとした書き方は本当に素敵だと思います。
ただ、この主人公は常にどこか自身と距離をおいて外から自身を見つめているような書きぶりが不思議な感じもかきたてます。
もちろん、この不思議な距離感の理由は少しずつ作中でにおわされていき、そこがまたとても魅力的な書きぶりでした。
ゆるやかな虐待めいたものを母から受けてきた結果、人との距離感がつかめなくなり、最終的には自分の身体との距離感もうまくつかめなくなる。
積もり積もって自己評価は低くなり、自分自身に対して、どこか外から見ているような突き放した感じになっているわけです。
結果として、自分が自分でありながら自分でないような感覚を常に漂わせている。このつかみようのないところがなんともいえず惹き込まれるところでした。
この小説の中で、主人公にふりかかる話は端から見れば、ものすごい悲劇なのですが、つかみようのない主人公と主人公自身の身体の距離感めいたもののおかげか、あまりきついものではなく、最終的にはかすかに救われる話であるあたりの優しい書きかたで、読んでいる私自身も救われたような気になりました。
大変、素敵なものを読ませていただきました。