第30話

 トザンはずっと悩んでいた。

 自分が意見を言ったら、二人は賛同するだろう。

 サチは自分に気兼ねして主体性を殺し、ホーリーは遠慮しがちな性格で主体性がない。

 二人とも、聞かれたら意見を言う。だが、自分から何かを決めたくない。

 だから、言いたくなかった。

 サチとホーリーの主体性を育てたかった。

 だが、もうタイムアウトだ。

 町までやってきてしまい、ここからの行動を決めるときが来てしまった。


 トザンは深呼吸した後、考えて来たことを話し始めた。

「……正直、ずっと言うか迷っていた。長い付き合いじゃないけど、俺は教師をやっていたから二人の性格がだいたいわかるし、俺が意見を言ったら二人は考えもせず賛同するだろうってことがわかってたからだ。だけど、もう町まで着いてしまった。今後、どうするかを決めるときが来た」

 ホーリーはトザンの話を聞いて一瞬暗くうつむき、でも、その後顔を上げた。

「…………はい」

 サチは、首をかしげた。内心、『先生は大げさッスね。いくら私でも、やりたくないことは賛同しないですし』と思ったけど、とりあえずは黙って聞こうと考えながら。

「門のところでは、あぁ言ったけど……俺、本当は旅をしたい。せっかく異世界に来たんだ。各地を巡って、この世界を知り尽くしたい。知り尽くした後、もしくはその過程で、この身体の持ち主が誰かを突き止めたい」


 ホーリーは息を呑んだ。

 それは、なんとなくわかっていて、わかっていなかった言葉だった。


 トザンは二人を見つめた。

「二人はどうしたい? これは、俺の希望だ。反対されたら一時保留にする。……正直、お前ら二人、危なっかしくて俺一人で旅に出かける、ってのは現実的じゃないから。二人の希望を聞いてどうするか考えるよ」


 ホーリーは言い淀んだが、サチは挙手した。

「はい! 私は先生に賛成! つか、男に憑依しちゃったのは残念だけど、私もせっかくの機会だから思いっきり異世界を堪能したいんですよねー! 身体の持ち主が誰かはどうでもいいけど! あと、美味しいもの食べたい! 特に肉! でもって、またキャンプとかしたいッス! ベッドもいいけど、野宿も楽しかった!」

 トザンが笑う。

「そっか。……あと、男もいいぞ? ホント……お前と俺、逆に憑依したら良かったのに、なんでロリババァの方に憑依したんだか……」

 グチグチと言っていたら、サチが呆れている。

「や、私、そこまで言ってないッスよ? あと、私もロリババァは勘弁御免です」

「お前は見た目詐欺のジジィだろうが!」


 脱線しながら二人で言い合っていたら、

「あの! 私は!」

 と、ホーリーが大声でさえぎった。

「…………わ、私、は、お二人と旅がしたいです! ……お荷物だってわかってます。お二人とは出身も違いますし……。でも、お二人と一緒に、私の知らないことをたくさん知っていきたいです!」

 真っ赤になり涙を浮かべながら大声で主張した。


 ……それは、ホーリーの人生で初めての行為で、手ひどく断られたらどうしようと思ったが、それでも言いたかった。

 言わずに、別れ別れになったら嫌だ。

 もう一人には戻れない。


 サチが明るく答えた。

「お荷物って……。ナニ言ってんスか? この宿屋に泊まれるお金を稼いだの、ホーリーさんっしょ?」

 トザンも重々しくうなずいた。

「あと、俺たち、文字読めません。……いつか読めるようにとは思いますが、現時点では依頼も受けられないんです。依頼票の文字、読めないので」

「あ」

 ホーリーが思い至った。

「……あの……じゃあ、私って、お二人にとって必要な人ですか?」

「「もちろん」」

 その回答を聞いたホーリーは、花が咲くように笑顔になった。

「では……これからも、よろしくお願いします!」

 トザンも笑顔で頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 サチは元気に返す。

「よろしくでーす!」


 トザンは晴れ晴れしたように言った。

「良かった! じゃあ、旅は続行で! 一応は、この人が誰なのかを調べることも念頭に置いて行動するよ。あと、鍛冶をどうにか習得したい。……でも、それはついでで、この世界のあちこちを見てみたい。それが目標かな」


 サチはうーんと考えつつ言う。

「えーと、私は……美味しい肉を食べたいんですよねー。なんで、魔物を狩る腕を磨きたいッス。私のシックスセンスも美味しいものを見つけるのが得意なんで、たぶんガワの人も食いしん坊キャラっぽいし。……私の旅の目標はソレですかね! この世界の美味しいものを、食べて食べ尽くす!」


 ホーリーも考えながら言った。

「……私は、今まで閉じ込められて生きてきました。だから、何もかもが新鮮なんです。……そして、一箇所にとどまることが、ちょっと怖いかもしれません。また捕まるかも……って考えて。だから、出来ればヤーナ教国から離れた場所に行きたいです。そして、見聞を広めたいです」

「おぉ! なんという優等生な回答」

 サチがホーリーの目標を聞いて拍手する。

「いや、お前も見聞を広めような。俺もだけど」

 トザンがツッコんだ。


 ホーリーは、二人のやりとりを聞きながら、この奇跡に感謝した。

 聖女の器として虐待されながら育てられ、そして殺されそうになり、でも生き返って、二人に出逢えた。

 これはきっと、神のもたらした慈悲だ。あの時、殺される間際、私の人生はなんだったのかと尋ねた答えがここにある。

 だから、私は二人とさらなる奇跡を見ていきたい。

 きっと、奇想天外なことがこれからも起きるような気がする。それにワクワクする。


「……私、不謹慎ですけど、これから何が起きるかわからない、って考えたら、心が躍ってしまいました。――誰にも縛られず、好きに生きていけるのって……とても楽しいことなんですね」

 ホーリーが祈るように両手を組み目を閉じながら言うと、サチとトザンはホーリーを見て微笑み返した。


「よーし、今後の方針も決まったことだし、サチの言う『美味い肉』でも食べに行くか!」

「いいッスね! 前祝いしましょ!」

「ぜひ!」

 トザンとサチとホーリーは立ち上がると、弾んだ足取りで部屋を出て行った。






※第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト中編部門参加作品のため、レギュレーションによりこれにて仮完結といたします。

「ここで終わるのかぁあ~!」という声が聴こえてきそうですが、これ以上書くとキリが悪くなっちゃうんですよ……申し訳ありません。

 続きを書きたいので、ぜひとも応援よろしくお願いいたします。

 (。-人-。) (。-人-。) (。-人-。)

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教師と生徒と聖女の、のんびり異世界放浪記~TS召喚転生した二人は、出会ったワケあり聖女と異世界を満喫します!(中編) サエトミユウ @shonobu

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