第29話

 三人はさっそく登録した。

 そして、掲示板に向かった。

 少しでも金を稼がないと、鞄の奥底に眠っている使えるかわからない金貨を使うことになるからだ。


「あっ! 生薬、ありました! カエロン持ってます! クケキもありますよ! タラエも!」

 ホーリーが依頼を見て興奮し、依頼票を指さす。

「うわー、さっぱり読めない。そしてホーリーさんの言っている単語がわからない」

「ていうか、ホーリーさんくらいの知識が無いと採ってこれない生薬の採取が、なんで下級ランク推奨なんですかねぇ? 私にも先生にも無理っしょ」

 トザンとサチが諦めた顔で会話した。

「……あと、気付いたことが一つ。冒険者の識字率の高さだ。……正直、誰でも登録できるっていうから舐めてたよ。いわゆる学校も出てない、文字も読めないような連中の集まりなんじゃないか、ってさ。みろサチ、あっちこっちに文字が書いてあって、俺たちは読めない。俺たちはこの世界じゃ、無教養もいいところだ」

 トザンが気落ちしたように言った。

 教師としては、文字すら読めない自分が情けなく感じてしまう。


 ホーリーはハッとしたように辺りを見回した。

「……確かにそうですね。恐らくここが帝国だからだと思います。……ヤーナ教国は、識字率が高くないですから。現に私も、単なる孤児だったときは文字が読めませんでした」

 ホーリーが声をひそめながらトザンに教えた。

 続いてサチも言う。

「文字は教えてもらえばいいですよ! シックスセンスと組み合わせれば、なんとなく読めますし!」

 それでトザンが気を取り直す。

「シックスセンスはともかく、ホーリーさん、教えていただけますか?」

「喜んで! 道中お世話になったご恩返しをぜひさせてください!」

 ホーリーが、ようやく役に立てると張り切って答えた。


 張り切ったホーリーが、さっそく納品しようと依頼票を取り、受付に向かった。

「あら? もしかして生薬を採取していたんですか?」

「えぇ! 私、薬を作るので、道中見つけては採取していました」

 依頼票と生薬を出すと、受付の女性は鑑定に回す。

「でしたら……薬も売ってみてはいかがでしょう? ただし、ギルド内の販売になりますから一定価格になります。市場では時価で販売しているので物によってはそちらの方が儲けられますが」


 ホーリーは、トザンを見た。

 自分では判断できない。

「……どうしましょう?」

「そうですね。私としては、ホーリーさんが薬屋を開くのでなければこちらに卸した方がいいかなと思います。商売を始めるとなると、やはり、先に商売をされている薬師の方への配慮や、競合相手とのやり取り等が発生するかもしれません。面倒でしょうし、ならば、多少安くなっても冒険者ギルドにすべてお任せした方がトラブルがなさそうです。もしも本腰を入れて薬を作って売りたくなったら、またそのときに考えればいいのではないでしょうか」

「では、そうします!」

 トザンの意見を聞いてホーリーは即答した。

 トザンは苦笑する。

 意見があるようでないサチと、生い立ちからきている自主性のないホーリー。

 正直、サチはもちろんだがホーリーも自分と別れてしまったら大丈夫なのかと心配だ。

 トザンは、ホーリーは今後どうするつもりなのだろうと考えた。


 ホーリーが売った生薬と薬は、けっこうな金額になった。

「最初ですから多少のおまけが入りますが」

 と言われたが、金貨二枚を稼ぎ出したのだ。

「登録したてで、こんなに稼いだ方はいませんよ」

 と、受付の女性もニコニコしていた。

「私はステラと申します。次回いらっしゃった際、私がいたらぜひ受け付けさせてくださいね」

 と名乗られたので、トザンも社交的に、

「ステラさんですね。ぜひともよろしくお願いします」

 と、答えて、宿屋に向かった。


 稼いだ金はホーリーのものだとトザンとサチは主張したが、

「お二人にも採取に協力していただきました、というか採取はお二人がメインでした。私は薬を作りましたが、その道具もお二人から借りました。そして! お二人には多大な借りがあります! 私が無事ここまでたどり着いたのは、お二人のおかげなんです! ですから、これは三人の稼ぎとなります!」

 と、自主性のなさはいったいどこへ飛んでいったのかと思うほど激しく主張して譲らないホーリーに、二人が負けたのだった。


 宿屋に着くと、トザンはどうしようかと悩んだが、

「えー……。三人部屋を一つ借りたいんですが」

 と頼んだ。


 ガワは男のサチだが中身はJK、そして二十八歳独身男性のトザンだが、どうみてもロリ、但しババァ。

 一人一部屋にした方がいいかとも思ったが、さんざん三人で野営してきていまさらかな、と開き直った。

 サチもホーリーも、まったく何も思うことなく同意するようにうなずいている。

 そういやサチも、ガワはジジィだからいいのか、ジジィとババァと若い女性じゃ間違いが起きようもないな! と、考えて安心した。


 部屋に入ると、サチがベッドにダイブした。

「ベッド、お初です!」

「へぇ、布団だったのか。俺もだよ」

「……私もです。床に藁と布を敷いて寝ていました……」

 ホーリーが言ったので、サチとトザンが顔を見合わせた。

「じゃあ、三人ともお初ベッドですね!」

 と、サチが笑顔で言う。

 ホーリーも笑顔で返した。

「です! 寝るのが楽しみです!」

 トザンが笑うと、

「あ、でも寝るのはちょっと待ってくれ。今後の話をしたいんだ」

 と、顔を引き締めて言った。

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