第28話
サチとトザンがワタワタと慌てているのを、受付の女性は笑顔で見つめている。
ホーリーに視線を移すと、
「面白い方々ですね」
と、言ったので、ホーリーとしては苦笑するしかない。
「一緒にいると、とても楽しいです」
と、ホーリーも無難に答えた。
トザンが立ち上がり、冷や汗を拭きつつ受付の女性に謝罪する。
「えぇと……。すみません、道中けっこうな魔物を狩りまして……。持ってこられたら売れたのかな、と考えて落ち込んでしまいました。あと、アイツのことは無視しておいてください。ちょっとばかり変わり者なんです」
サチが、「えぇえ? 自分のコト棚に上げてるー」と抗議したがトザンはスルーした。
「気にしないで。それは確かに落ち込むでしょうから」
と、にこやかに受付の女性もスルーした。
冷静になったトザンは、今までの話をまとめ、礼を言う。
「だいたいわかりました。では、登録します。……えぇと、依頼を受けずに魔物の納品ばかりを行っていたら、どうなるのでしょう?」
最後に思い出し慌てて尋ねると、受付の女性は苦笑する。
「特にどうということはありませんが、ランクアップがありません。ランクアップが無い、ということは、冒険者ギルドの評価はずっと初級の下、ということになりますよ」
トザンは別にそれでもかまわないかな、とは思ったが、もう少し突っ込んで尋ねることにした。
「冒険者ギルドでのランクの評価は、冒険者にどう還元しますか?」
笑顔で受付の女性は答える。
「ランクが上がるにつれて優遇措置を受けられるようになります。たとえば、依頼票はランクが高い冒険者ほどいいものが選べます。基本は先着順ですが、依頼がかぶった場合、ランクが高い方に優先権が発生します。とはいえ、推奨ランクがありますから、低いランクばかりをかぶせて獲る冒険者はランクが下がりますけどね。例えば、推奨ランク下級の依頼を中級の冒険者と初級の冒険者が奪い合ったら中級の冒険者に優先権が発生しますが、二度も続くと中級の冒険者は下級にランクダウンします」
「……けっこう厳しいですね……」
トザンがつぶやくと、ふふ、と受付の女性が笑った。
「中級の冒険者は、中級以上の依頼を受けてほしいですから。下級の依頼がいいなら下級のままでいいでしょう?」
という理屈らしい。
なるほどな、と三人は納得してうなずいた。
受付の女性は、ふと思いついたようにトザンたちに教えた。
「そうですね……。こういう手は使えますよ。あらかじめ魔物を狩っていて、持ってきてから該当する依頼があれば、それを受注して即納品してしまう。……生薬納品でよく使われる手です。生薬は、当日納品どころか半日納品もある上、納品依頼が多いんですよ。常に誰かしらが依頼しています」
それを聞いたホーリーがうなずいた。
ホーリーは教会で薬を作っていたので、その辺はよーく知っている。
何しろ、作っても作っても「もっと作れ」と言われるほどに作っていたので、毎日依頼が来るというのは深くうなずける話なのだ。
道中も生薬を見つけて摘んでは薬を作っていた。なんなら今も摘んだ生薬を持っている。
トザンは、ホーリーとサチに、
「二人は何か聞きたいことがあるか?」
と、尋ねる。
ホーリーとサチは顔を見合わせた。
「私は思いつかないですが……」
ホーリーは悩みつつそう答えたが、サチは、
「私は思いつきました! ……おねーさん! 安くて綺麗で安全でごはんの美味しい宿屋を教えてください!」
と、挙手をしながら尋ねた。
受付の女性は、この優美な佇まいでそのしゃべり方? と思ったが、顔には出さずに笑顔で答えた。
「え、えぇ。そうですね……。女性もいるので、アルムの宿かしら? バランスのとれたいい宿よ」
三人は顔を見合わせた。
「じゃあ、今日の宿はそこで決まりだな!」
「わーい! ひさびさに屋根のある部屋に泊まれるぞー!」
「野宿も楽しかったですけど、宿に泊まるのも楽しみです!」
三人は、ようやく宿に泊まれるという実感が湧いて浮かれた。
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