第27話
受付の女性は、まず冒険者ギルドについての解説を始める。
「冒険者、なんて言っているんだけど、現状は『なんでもよろずやります』ってお仕事ね。昔はなんでも、学者とか貴族の依頼で未踏の地に入って珍しい物を手に入れたりする職業だったらしいんだけど、今はそういう依頼は無くて、最も多いのは魔物の討伐、旅の道中での護衛……あと誰でも出来そうなところだと、掃除や荷物の配達なんかが多いかしら。そういったお仕事をここで斡旋しています」
トザンはふむ、とうなずいた。
『冒険者』というのは昔の名残で呼んでいるだけで、今の冒険者ギルドは『よろず屋』ということだ。
トザンが理解したようなので、受付の女性は続けて解説する。
「登録すると、『冒険者』という職業に就くことになります。ギルドは世界規模だから、どこのギルドでも依頼を受けられるわよ。あ、ただし、冒険者ギルドがある国では、ね。たとえば……ヤーナ教国には冒険者ギルドはないから、冒険者っていう職業は通用しないのよ。よーく覚えておいてね!」
それを聞いた三人は目を見開いた。
そして、受付の女性がヤーナ教国と言ったときに軽く眉をひそめたのにも気が付いた。
「……あとで、冒険者ギルドのない国をすべて教えていただけますか?」
「えぇ。いいわよ」
トザンがお願いすると受付の女性は快くうなずいてくれた。
「じゃあ、続きね。――冒険者にはランクがあります。初級、下級、中級、上級。さらには特級ね。さらに、特級以外はそれぞれの級の中で上下があるの。冒険者に登録した最初なら、『初級の下』から始まるわ」
受付の女性の解説に、三人がうなずいた。
トザンは、初級、って聴こえるけれど、恐らく現地語では違う言葉を言っているのだろうなと考えながら聞いていた。
受付の女性は、奥にあるボードを指さした。
「依頼は、あそこにある掲示板に貼り付けてあります。斜め下に書いてあるのは推奨ランクよ。『これくらいの実力があれば出来るでしょう』という感じね。別に推奨ランク以外のランクでもやれるんだけど、推奨ランクより下の依頼ばかりを受けていると、ランクが下がるから気をつけてね」
トザンはボードを見てから顔を戻し、
「依頼は複数個受けられますか?」
と、尋ねた。
「受けられるけど、依頼には期限があるわよ。初級は特に期限が短いわ。たとえば、荷物の配達。受けたら当日中にこなさないといけないのが多いわね。中には無茶な依頼もあるから、よく依頼内容を確認してね。依頼を失敗すると、依頼者から罰金を取られることもあるから」
掲示板には要点のみしか書かれていないということだった。詳しい依頼内容は受付で頼んで依頼書を読み、受けるかどうかを決めるらしい。
「あとは、そうねぇ……。まだ早いかもしれないけど、もしも魔物を倒したら、買い取りするわ。これは、依頼じゃなくてもいいの。弱い魔物はたいした値段はつかないけれど、でも、ないよりはましでしょう? だから、どんどん持ってきてね……え?」
受付の女性の声がフェードアウトした。
なぜなら、トザンが膝から崩れ落ち、両手を床につけてガックリとうなだれたからだ。
「……アイテムボックスがほしい……! 道中、あんなに魔物を狩ったのに、持ってこられなかった……!」
ホーリーと受付の女性は目が点になって、血を吐くように慟哭したトザンを見下ろした。
さきほどまで見せていた理知的な姿はどこに飛んでいった? と、受付の女性は内心で考えてしまった。
「アイテムボックス、ッスか? どういうのです?」
トザンの醜態を気にせずサチが問う。
トザンはノロノロと顔を上げてサチを見て、説明する。
「ステータスオープンが唱えられるなら知ってるだろ。無限収納だよ。亜空間収納とも言うのか。ゲームで言う、道具や武器をこう、名前で表示するだろ? アレを現実でやる感じ」
サチは斜め上を見て何やら思案し、そして、ポージングを決めて詠唱した。
「出でよ、アイテムボックス!」
トザンは、そんなんで出るかよ、と思っていたが……。
「なんか出ました!」
「マジかよ! でもいったん閉じろ!」
とサチとトザンが叫びあった。
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