第26話
「親切なお兄さんでしたね!」
「……さすがトザンさんです。私、緊張して頭が真っ白になりました」
「ハハハ。これでも中身は二十八歳、そこそこベテランにさしかかった教師ですから。人にものを尋ねるくらいは出来ますよ」
サチも出来そうだが、サチは中身と見た目があまりにもチグハグなため、相手が驚くのが予想できてしまう。
トザンも人のことは言えないのだが、生意気そうな見た目のロリが腰を低く丁寧に話すと、好感度が上がるようだった。
「じゃあ、当面は冒険者ギルドで冒険者登録をして、適当に稼ぎつつ旅を続けましょう。ホーリーさんも、もう少し離れた方がいいですよね?」
「え? ……そうですね、確かに」
この町はまだ教国との境目だ。
「先立つものは金なので、金を工面します。正直、どんなものだかわからないのですが……。役人から聞いた話の限りでは、薬草摘みか魔物駆除のようですね。それなら道中さんざんやってきましたし、私たち三人ならそこそこいけそうです。あまり稼げなかったとしても、肉は食えます」
トザンの語りに、サチが思いっきりうなずいた。
「金をある程度稼いだら、私は鍛冶職人と会ってみます。……この体の持ち主は鍛冶のスキルを持っています。なので、そこからこの体の持ち主の正体や家族がわかるかもしれません。芋づる式に、サチの体の持ち主もわかるでしょう。一緒に行動していたと考えられますからね。もしもわかったらそこへ赴き、事情を説明します。もしそこが安全そうなら、ホーリーさんもそこに住むのはいかがでしょう? 道中一緒になったご縁もありますし」
「え! ……でも、ご迷惑では……」
ホーリーが驚いた。
「わかりませんので、安全そうなら、っていう条件付きです。正直なところ、右も左もわからないこの状況では、行き当たりばったりで行動するしかありません」
ホーリーは、キリッと顔を引き締めてトザンに返事をした。
「はい、それでかまいません。……足手まといにならないよう、全力を尽くしますのでよろしくお願いします」
トザンは苦笑し、サチは目をパチクリさせた。
「いえいえ、こちらこそ足手まといにならないよう、全力を尽くします。何しろ、文字が読めません。なぜか会話は出来ていますが、それ以外の基礎中の基礎がわからないんです。ホーリーさんがわかることがあればぜひ頼らせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
トザンも頭を下げたので、ホーリーが慌てる。
サチがクスリと笑い、二人の肩をポンポンと叩いた。
「つまりはです。二人の言いたいことは『みんなでがんばろー!』ってことですよ! がんばろー!」
サチが満面の笑みで拳を突き上げたので、トザンとホーリーは顔を見合わせた後、笑った。
関所の役人に教えられたとおりに歩くと、どうやらギルドらしき建物があった。
建物の前に立つと、全員が歓声を上げる。
「おぉー! ファンタジー!」
「いいな!」
「心が躍りますね!」
見るからに田舎から出てきた者たちだ。
周りからは温かい目で見られている。
はしゃぐ三人が中に入った。
中は木造で、非常に温かみがあった。
ホーリーは、強面が多くてビクビクしている。
サチは興味深そうにキョロキョロしていて、唯一落ち着いているのは幼女にしか見えないトザンだ。
「……ホーリーさん、すみません。何が書いてあるのか教えていただければ……」
「あっ、す、すみません! えぇと……。あっ! あそこに『受付』って書いてあります!」
ホーリーが慌てて説明する。
トザンはふむ、とうなずき、
「では、あそこで尋ねてみましょう。……サチ、あんまりキョロキョロして迷子になるなよ! ここは今までいたところとは違うんだ、はぐれたら大ごとになるぞ」
ホーリーに返しつつ、サチを叱る。
「はーい」
サチはのんびりと返事をした。
受付に向かい、トザンがそこに座る女性に向かって話しかけた。
「すみません、関所に立っている役人の方から、こちらでは誰でも登録ができると伺ったのですが」
受付の女性は、生意気そうな幼女から思いもよらないほどに丁寧に話しかけられ、数秒間自失した。
「……え、えぇ。そうです。登録ですか?」
受付の女性に尋ねられたトザンはうなずく。
「はい。私を含めたこの三人が登録します。そして、この仕事について詳しく教えていただきたいのですが可能でしょうか?」
トザンが尋ねると、受付の女性は笑顔でうなずいた。
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