第25話

 現在のトザンは、合法ロリの容姿である。

 役人は、トザンを少女と間違えて優しく答えた。

「あぁ、お兄さんとお姉さんと一緒に田舎から出てきたのか。えーと、ここは帝国という名の国だ。特に何もしなくていいよ、帝国は、自由に入国出来るから」

 トザンは驚いた。


 ホーリーから聞いた話だとかなり大きな国のようだが、それだけ出入りが活発なら関税を取ったら儲かるだろうに、と考えたからだ。

「それはすごいですね。……えーとそれで、私たちは出来れば帝国で働きながら旅を続けたいと思っています。私たちのような余所者でも働けるようなところをご存じですか?」

 トザンは、役人に質問する内容じゃないよな、と思いつつも尋ねた。

 手に職をつけて、せめて働く内容を考えてから出直してこい、と言われてもおかしくはない。


 だが、役人の目に映るトザンは、あくまでも少女だ。

 少女がする質問としてはまったくおかしくはなかった。

 役人は親切に考えてくれる。

「そうだなぁ。……お嬢ちゃんが得意なものは何かある?」

 トザンも役人のセリフを聞いて、自分の現在の容姿を思い出し内心苦笑した。

 騙していることになるかな、と考えつつも、そこには触れず質問にだけ答える。

「えーと、魔術は得意です。いろいろな魔術を使えます。……あと、もしかしたら鍛冶もやれるかもしれません」

 やったことはないが、グレーアウトしているということは知識はあるはずだ。恐らく、一通り経験すればグレーアウトが解除されると踏んでいる。

 ただし、即戦力になるかは未知数。何しろトザン自体には鍛冶の経験も知識もない。


 役人は、最後のトザンのセリフを聞いて驚いたようにトザンを見た。

「あれ? お嬢ちゃんもしかして……あぁ、そういうことか」

 連れであるサチとホーリーを見た後、納得したようにうなずくと教えてくれた。

「まず、手っ取り早く職にありつきたいなら『冒険者ギルド』ってのがある。そこは基本、誰でも登録できて誰でも働けるよ。ただ、誰でも、ってことは競争率が激しい。旨味のある依頼はまず取れない。ただ、たとえば魔物を狩ったとか薬草を採ってきたとかは、冒険者ギルドが買い取ってくれる。依頼は受けられなかったとしても、この買い取りでそこそこ稼げるよ」

 トザンは、まさしくファンタジー定番だなと考えながらうなずいた。


 役人は顎に手を当て、ちょっと考えながら続ける。

「あとは……職業斡旋所があるから、そこに登録するのもアリだ。ただ、そこは即戦力が求められるから、ちょいと厳しいかもなぁ。鍛冶がやれるかも、っていう微妙な言い回しだと難しい。どうせなら『鍛冶をやります!』ってハッキリ言い切らないとな」

「ハハハ」

 グレーアウトしているからハッキリと言い切れない。

 その辺は、お金が貯まったら考えようとトザンは思った。


 鍛冶職人との接触は、このからだの持ち主の履歴を探るためにも、必ずしなくてはならない。

 サチには〝錬金術〟というスキルがあった。錬金術がどんなものかわからないため何とも言えないのだが、トザンの持つ〝鍛冶〟というスキルは、間違いなく職人系のスキルだ。


 このからだの持ち主は、鍛冶職人だ。

 ならば、十中八九、鍛冶職人に知り合いがいるはずだ。

 千年以上生きているロリババァなら、知り合いも多いだろう。……たぶん。


 会ってどうするか、どうなるかわからない。

 ただひとつ、彼女に家族がいるのなら事情を説明し、なぜあんなところでエルフとともにキャンプにいそしんでいたのかを聞きたい。

 もしかしたら、それで自分も成仏出来るかもしれない。

  ……自分の心の奥底にくすぶる想いを見ないことにすれば。


 トザンは考えをまとめると、役人に礼を言った。

「いろいろと教えていただきありがとうございます。では、まずは冒険者ギルドに行って登録したいと思います。その後で、他に何が出来るかゆっくりと考えたいと思います」

「冒険者ギルドはこの門を通り抜けて左手にすぐある。この町のギルドは大きいからわかりやすいよ。じゃあ、がんばれよ!」

 役人に激励されたトザンたちは頭を下げ、手を振って別れた。

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