第24話

 道中、三人はかなりステータスを上げた。

 サチに負けじとトザンが鍛え、それに触発されてホーリーもひそかに訓練をしたらいろいろ覚え始めたのだ。

 現在、サチとトザンの魔力ははMAXの五分の一程度。

 サチは弓術と細剣術のスキルが解放されているが錬金術のスキルがグレーアウト。トザンは鎚術のスキルが解放されているが、鍛冶のスキルはグレーアウト。

 魔術に関しては、サチとトザン双方とも変わらず上級魔術が使えない。

 ただし、サチは聖魔術が使えるようになった。

 ホーリーが使っているのを見ていたら、できるようになったのだ。

 だが、ホーリーより効果が弱いので、練習している。

 トザンもくやしがって練習中だ。


 ホーリーは聖魔術のみなのだが、使える種類が増えた。今までは【結界】と【回復】しか使えなかったが、新たに【浄化】が使えるようになった。これは、湯をいちいち沸かすのめんどいとサチが愚痴ったのを聞いたらなぜか使えるようになったのだった。

 他、攻撃まで出来るようになった。【浄化】がどうやら魔物を弱体化させるようで、弱い敵ならそのまま衰弱死し、強い敵もかなり弱体化するので、今まで攻撃などしたことのなかったホーリーでもなんとか仕留められる。

『足手まといは嫌だ』というホーリーの想いがレベル上昇になっているようだった。


 三人はようやく森を抜け、しばらく進むと人が通る道を見つけて歓声を上げた。

「絶対に帝国への道だよなコレは!」

「はい! 間違いなくヤーナ教国ではありません!」

「やったー! 普通の道に出たー!」


 見通しが良くなると、遠方に長大な壁が見えてきた。

 全員、思った以上に帝国は大きいな、と感心した。

「もう少しだ、がんばりましょう」

 トザンは励まし、二人はうなずく。

 トザンとサチは身体強化の魔術をかけている。

 ホーリーは、その代わりに回復魔術を自らにかけながら進んでいた。

 無理はしないよう、時々休憩を挟みつつ進んでいたが、それでも目的地が見えてくるとどうしても早足になる。

 三人は、長壁を見ながらひたすら歩いた。


 帝国へ向かう道はいくつか交わり、途中から整備され広くなっていった。

 俄然歩きやすくなった道を三人は進むと、前方にポツリポツリと道行く人が見えてきた。

 それを見ていたサチが、ボソリとつぶやいた。

「定番の、『商人が賊に襲われている』イベントはなさそうですね」

 ホーリーは何を言っているんだという目でサチを見たが、トザンが「わかる」とつぶやき返したので目を白黒させた。

 トザンはホーリーの反応に気づくと苦笑し弁解した。

「いや、不謹慎ですみません。……俺たちのいた世界の娯楽冊子に、そういう話があるんですよ」

「定番ネタ、というヤツです」

 サチも付け加える。

「そうなんですか……。何しろ教会に引き取られてからは町の外はおろか中でしか過ごしていないので、町の外は物騒なのかな、と驚きました」

 ホーリーが言うと、サチは首をかしげ、トザンも考え込むようなしぐさをした。

「……いや、安心するのは早いです。俺たち三人とも知識がなさ過ぎます。道中ステータスを上げたのでそうそうやられはしないと思いますが、油断はしないようにしましょう」

 と、トザンが教師らしく説教した。


 関所が近づいてくると賑やかになってきた。ここまで賑やかだと賊の心配はない。

「テンプレだと、ここでチンピラに絡まれるんですけど」

「やめろそれはフラグだ」

 サチの言葉に即トザンがツッコむ。


 ホーリーは、ほとんど外に出たことがなかったので人が多く、非常に新鮮だった。

 ずっとキョトキョトと周りを見ている。

 周囲を行き交うのは、だいたいが大荷物を持って馬車に乗る団体だ。

 荷物の少ない三人は、容姿もあるし挙動不審さもあって目立っている。

 だが、その挙動不審さがむしろ話しかけづらい雰囲気になっていて、フラグを折っていた。


 関所の役人も、怪訝な目で三人を見つめている。

 ――関所といっても、ものものしい雰囲気ではない。大きな門は開け放たれていて、誰でも自由に行き来が可能、役人はただ立っているだけだ。

 だから、役人は三人を見つめてはいたが、特に止めるつもりはなかった。

 魔物以外の侵入を阻まない、というのが帝国のルールだった。


 そんなことは知らない三人だ。

 不審者だと思われていると、ホーリーは身を縮める。サチは何も感じていないようだが、トザンも門の前に立つ役人の自分たちを見る目が気になり、入国出来なかったら困るな、と考えた。

 トザンは咳払いをして、役人に近づく。

「すみません、私たちは山奥の田舎から見聞を広めるため出てきまして、作法も何もわかりません。ここ関所では何をすればよいでしょうか?」

 トザンは、『駅なら駅員、学校なら職員、デパートなら受付嬢に訊け!』という常識から導き出して関所の役人にいろいろ尋ねることにした。

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