第23話
トザンが魔術で穴を掘って可食部分以外の残骸を埋めた。
「今日は、ここで野宿か」
トザンがそう言うと、二人がうなずく。
「では、結界を張っておきます」
ホーリーがひざまずき、祈るように詠唱した。
「神よ、私たちを邪なる者、害ある者からお守りください――セイクリッドウォール」
もともとホーリーは聖魔術の一番の遣い手で、過酷な環境で自身を生かしていたこともあり、魔術はかなり強力だった。
さらに、まともな食事を摂るようになったので、よりいっそう魔力が充実し、魔術も強力になったのだ。
今まで自身を包む程度しか発動できなかったホーリーウォールは、かなりの広範囲まで包めるようになっていた。
「ありがとうございます。これで安心して食事と就寝が出来ます」
トザンが礼を言う。
ラノベの知識では、野営は必ず寝ずの番が必要、とあった。
実際、元いた場所の寝床はなんらかの魔物避けが施されていたようだったし、二日目は、トザンがダウンしている間サチが延々と魔物を狩っていた。
旅の途中での心配はその寝ずの番だったが、トザンがその話をしたらホーリーが、
「三人で密集して寝るのであれば、私、魔術でなんとかできます」
と、申し出たのであった。
初日に使ったら、本人も思った以上に広範囲に結界が張れて驚いたしだいだった。
夕食は三人で調理する。
トザンは一人暮らしでしかもキャンパーだったので料理が得意だし、サチも両親が共働きで小さい頃から料理を自分で作っていたし、ホーリーは孤児院でも教会でもやらされていたので、全員料理が作れる。
ゆえに、それぞれが担当を決めて相談しつつ一品作ることにした。
「俺は宣言通り『魔獣胸肉とキノコのホイル蒸し、ただしホイルなしで』だな」
「シャレオツだかなんだかわからないタイトルっすね。……んー、私は『かわいくないウサギモモ肉のロースト~キノコソースを添えて~』に、しまーす!」
「じゃあ私はスープを担当しますね!」
それぞれ作り始めた。
ホーリーは鼻歌を歌いながらスープをかき回す。
孤児院にいるとき、この歌を歌いながら、おいしくなぁれと念じつつかき回すと本当に美味しくなるのよ、と教わった。
教会に移されてから、そのことを忘れていた。
歌なんて歌っている余裕も、おいしく作りたいという気持ちもなくしてしまったから。
でも、今は思う。
おいしくなぁれ、と。
歌いながら料理を作るホーリーを見て、サチは感心した。
「ホーリーさんって、女子度高いッスよね……」
トザンは苦笑した。
「大丈夫だサチ。お前は俺の知ってる女子高生っぽいから」
「マジですか!? でもそれ、きっと褒めてませんよね!?」
「褒めてはいない。事実を述べただけだ」
トザンの知る少女たちは、教え子たちだ。
よくわからないことで笑い、はしゃぎ、些細なことで悩んだり泣いたりしていた。皆ガサツで、コイツら大人になって大人の女性にちゃんとなれるのか、と心配になったりしていた。
ラブコメに出てきそうなお淑やか女子なんて、それこそ二次元にしかいないだろう。
だが。
「……大人になると、皆、しゃんとして女子度が高くなるのさ。ホーリーさんはこの世界の人だからか、すでに精神が大人の女性なんだよ」
と、言った後、大人になってもしゃんとしてない女性もいるなぁ、とは思ったが、まぁ一般論だからいいかと思って黙っておいた。
出来上がった料理はすべて美味しかったが、特にホーリーの作ったスープが絶品だった。
密かに料理を得意としていたトザンが悔しがるほど美味い。
「良かった! ……おまじないをして作ると、本当に美味しくなるんだなぁ」
と、両手を合わせて喜ぶホーリーは、サチだけでなくトザンも、二次元にしか存在しないかと思われた女子度の高さだなと密かに思った。
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