第22話

 トザンは吹っ切れた。

「残念イケメンサチを見ていたら、恥ずかしがるのがバカらしくなってきた」

「……それ、もしかして私のことけなしてます?」

 サチが首をかしげながら言うと、トザンはキッパリと言った。

「事実だ。お前は一度、鏡を見た方がいいと思う」

 ホーリーも思わずうなずいてしまった。

 少女だとしてもわりと残念な性格をしているのに、現在見とれるほどの美青年なのが、よりつらい。

 つらいが、サチが悪いわけではない。見た目と合っていないだけだ。


 ならば自分は、二十八歳男性教師というしがらみを捨て、見た目幼女の容姿を思う存分活かして痛々しいセリフを吐こうではないか! と決意したのだ。

 何より、サチに負けたくない。あと、グレーアウトを解除したい。


 サチはキョトンとしていたが、ま、いいかとあっさり流した。

「それより、焼きキノコとキノコ鍋と、どっちにしますかね?」

 トザンがニヤリと笑う。

「肉も狩って、ホイル蒸しもいいと思うぞ? アルミホイルないけど」

 サチの口元から、よだれがタラリと出た。


 その後、ウサギの耳をしているが獰猛でかわいくない魔獣が出たので、トザンが張り切って魔術を唱えた。

「ウインドカッター!」

 狙いを定めて頸動脈を切り裂く。

 そしてすぐ、

「アクアボール!」

 と、唱え、魔獣を水の中に閉じ込めた。

「ん? 先生、何してるんスか?」

「念のため、血抜き。しなくても美味しく食べられたけど、したらどうなるのかなって思って」

 水を血管の中に流し込み、押し出しているのだ。

「魚でやる方式だけど、獣だとどうなるか……」

 水が真っ赤になったので、

「アースホール!」

 と唱えて、水をそこに捨てた。

「うわー、開き直った先生が、魔術を使いこなしてるー」

 サチが感心したように言った。

「うるさい。ウォータージェット! ……サチ、解体を教えてくれ。お前にだけやらせるのは忍びない」

 合間に魔術を唱えて魔獣を洗いながらトザンが言った。

「いや別に、好きでやってるんで構わないスけど……。まぁ、やりたいんなら、教えますよ?」

 サチは美味しい肉を食べたい一心で解体しているので、むしろ率先してやっているだけだ。嫌ならやらないと思う。


 サチを講師として、トザンと、ホーリーも加わった解体教室が始まった。

 ホーリーは汚れ仕事を押しつけられていたので解体作業はある程度できるし忌避感などまるでない。

「俺だけか……」

 と、そこもトザンはショックを受けていた。

「うーんと、ここからここまで切り開いて、ここを切断すると、解体しやすいッス」

「そうなんですね! 私、独学……というか、誰も教えてくれずに試行錯誤でやっていたので、知りませんでした」

「私も知らないんですけど、このからだの持ち主は詳しいみたいなんですよねー。なんか、からだが勝手に動くんスよ」

「…………」

 キャッキャッとサチとホーリーが盛り上がる中、一人顔色を失っているトザンだった。


 解体が終わり、「血の臭いに酔って……」とつぶやきながら青い顔をしているトザンに、サチが挙手をしながら宣告した。

「結論! トザン先生は解体に向いてないッス! 血の臭いに酔ったとか言ってますけど、血抜きされてるんでぜんぜんしないッス!」

「……誠に申し上げにくいのですが、私も、驚くほど血の臭いが少ないって思いました……。あ、血抜きはすごいですね! こんなに臭いが抑えられるなら、次回もお願いしたいところです!」

 ホーリーも、無理にやらなくてもいいのでは? という顔で追撃してきた。

「…………わかった。諦める」

 ダメなものはダメらしい。

 というか、女子二人(一人はガワが男だが)はなぜ平気なのだろう。血抜きしたって言ったって、それでもけっこう出てたよね? とトザンは思う。

 二人とも、魔獣を生き物とも死体とも思っていない。食料だと思っている。

 その違いなのだろう。

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