第21話

 三人は歩く。

 当てもなく、ではなく、トザンは持ち物に入っていた方位磁石……らしき道具で方角を確認している。

 ホーリーが来た方向と反対側に歩けば帝国、という気持ちでいるが、その反対方向をこの方位磁石は指し示している。ちなみに北とか南とかいう印はなく、指針は矢印が片方のみについているという作りだ。

「たぶん、合ってるはずだから、信じて歩くしかないな」

 トザンがぼやくと、ホーリーは笑いかけた。

「もしもヤーナ教国に戻っていたら私が分かりますから。再度反対方向に歩きましょう」

 トザンは苦笑する。

「捕まりたくないので、そのときはぜひ教えてください」

 トザンは幼女で誤魔化せるだろうが、サチは確実に耳でバレる。

 一応、人前では髪を下ろしてフードをかぶり耳を隠した方がいいと伝えているが、迂闊で残念なサチだ、すぐバレる気がする。


 ――と、考えていたら不穏な気配を察知した。

「たぶん、あちら側から何か来ます」

 トザンが指を差すと、ヒュウッとサチが口笛を吹く。

「先生のシックスセンス、パないっすね」

「マジやめて」

 トザンがつらそうに言った。


 サチは、弓をつがえようとしたが、トザンが止めた。

「待った、俺俺、俺がやりたい!」

 トザンは、少しでも開いた差を埋めたかった。


 現れたのは大きなキノコだ。

「食べられますかね?」

 サチが独り言のように尋ねると、トザンは即止めた。

「いやいやいや。野生のキノコは危ないぞ。毒キノコだったら下手すると死ぬから」

 トザンは、さてどうしようかと少し悩んだ末に風魔術を使うことにした。


「う……う……。……ウインドカッター!」

「なんですかその溜めは」

 恥ずかしがってどもるトザンに、サチは容赦なくツッコむ。

「うるさい! 二十八歳教師には、なかなかキツいんだ!」

 と、トザンが怒鳴るが、魔術は無事発動して歩くキノコをめった斬りにした。

 トザンは目を輝かせる。

「……おぉ! 効いた! 見たかサチ! やったぞ!」

 トザンが振り返り、サチを見てドヤった。

「よしよし、トザン先生、よくやりましたねー」

「子ども扱いするな! 容姿はこんなでも年齢はロリババァ、中身は教師だぞ!」

 サチがトザンを撫でるとトザンは憤慨した。


 サチはキノコを眺めながら顎に手を当てる。

「ちょっと視てみましょう」

 エヘン、と咳払いすると、またポージングしながら詠唱する。

「鑑定!」

 ポージングしたわりには、その後、キノコに近づいてまじまじと見つめ始めた。

「おい。今のかっこつけには意味があるのか? おい」

 トザンはツッコみ、セレネは思わず、

「……見た目は、賢者様と言われれば納得するほどの気高さと美しさなのに……」

 と、悲しみをこめてつぶやく。


 だが、サチは気にせずキノコをじっと見つめ、パッと顔を輝かせて二人を見た。

「鑑定結果! このキノコ、めっちゃ美味いって出ました!」

「お前の鑑定、食いものに寄りすぎだろ!」

 サチの叫びに思いっきりトザンがツッコんだ。

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