第20話
「しかし聖女様は、魔族の残党に襲われる人たちを憂い、教会へ戻り国に結界を張ったと言われます」
セレネの語りを聞き終えると、トザンは非常にうさんくさい昔話だなという感想を抱いた。
セレネに対する仕打ちを聞く限り、聖女は無理やり連れ戻されて結界を張らされたとしか思えない。
もう一つ。
賢者と戦士らしき人たち、魔王と戦って死んだとされるのに、どう考えても森に寝床があったんだけど。
……死んだということにしてずっと森に潜んでいた? 千年も?
それにしては、荷物も服装もちゃんとしているし、しかも金貨がザクザク出てきたし。
単に同姓同名なのかもしれない。どう考えても、死体は千年前のものじゃない。
情報が不正確だし千年前のことを考えてもわからないが……少なくとも、ヤーナ教国に行ってはいけないというのはわかった。それと……。
「セレネさん。今見たことは秘密にしてもらえますか?」
「「え?」」
セレネだけでなくサチもキョトンとした。
トザンは深刻な顔をしてセレネに告げた。
「とても嫌な予感がします。セレネさんも、出来るならこれからは偽名を使うことをおすすめします。なぜ千年前に亡くなった賢者と英雄に憑依したのか、そして二人はなぜ森に潜んでいたのか、なぜ亡くなったのか、これらがわかりません。わかったほうがいいのかすらわかりません。……とにかく、今は身を隠し、安全を確保したいと思います」
トザンは次に、サチに向き直る。
「――サチ、お前もこれからはむやみやたらにステータスを見るな、見せるな。そして、お前は『サチ』だ。誰がなんと言おうと『サチ』。人族の手で育てられて田舎から出てきたことにしろ。俺もそうする。お前と二人で田舎から出てきたことにしておく。ガワは男でも女として育てられたし女だと思っている、って言え。むしろお前のその素のキャラなら誰も千年前に死んだはずの賢者だと思わないだろう」
サチはぽかーんと口を開けてトザンを見ていた。
「……なんか失礼なことを言われたような言われてないような? でもまぁいっか! 了解しました!」
最後はトザンに敬礼してみせた。
トザンはセレネにもう一度語りかける。
「セレネさんも、田舎から出てきたことにしてください。ヤーナ教国も貴女のいた教会も、貴女が思っている以上にうさんくさく危険な気がします」
「は、はい!」
セレネはしっかりと返事をした。それから少し考える。
「では、私の名は『ホーリー』としてください」
「「了解しました」」
トザンとサチはうなずいた。
――ホーリーは、教会に引き取られる前の名前だ。セレネが教会に引き取られる際、『俗世から離れるために昔の名を捨てる』という名目で名前を変えされられた。そしてホーリーは死んだことになっている。だから、この名前は誰も知らないだろう。
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