第19話
道中、トザンがセレネに話を振り、いろいろと聞き出した。
どうやらセレネのいた環境は、生活水準が高くなさそうだった。
上下水道の概念はなく、ゴミは放置。
紙幣はなく硬貨のみだが、これは帝国も同じかわからない。
魔術は全員使えるわけではなく、使える者もだいたい一つだそうだ。二つ以上使える者はかなり優秀という評価だそうだが、これもセレネのいた環境だけがそうなのかもしれない。
セレネは聖属性のみだそうだ。
トザンはサチに尋ねた。
「サチ。お前、どのくらい魔術を使えるようになった?」
「わりといい感じですよ! あの【鑑定】が使えるようになったッス! あ、スキルは弓の他に細剣術が解放されましたね」
何気なく聞いただけなのに、サチの回答にショックを受けた。
どうやらトザンがダウンしていたときにいろいろ試したらしい。
いろいろ試した結果があの異形の死体の山だったんだろうが……。
「んーと、戦ったせいなのかわかんないんですけど、徐々にステータスが上がってるんですよねー。魔術とスキルは使えたら解放されるっぽいけど、基本ステータスは戦わないとダメっぽいッス」
そう言うと、「ステータスオープン!」とサチがまたポーズを決めながら唱えた。
「えぇ!?」
セレネが驚く。
サチの目の前に、急に板状のものが現れたからだ。
トザンがサチの背中に跳び乗って確認する。
「ホントだ……。上がってる……」
トザンが震える声でつぶやいた。
ショックを受けているトザンに気付かないまま、サチは呑気にセレネを振り返った。
「あ、そういえば。この、読めない文字のところ、セレネさんは読めません? たぶん現地文字だと思うんですけど」
呆気にとられていたセレネが我に返った。
「はいっ! えっと、急に現れたこの板は……?」
「これは、自分の現在の状態を知る魔術です。……あれ? セレネさんはご存じないんですか?」
トザンが驚いたように尋ねた。
セレネは首を横に振った。
「そもそも、聖属性の魔術以外をほとんど知りませんから。ですが、恐らく私のいたヤーナ教国にはない魔術だと思います」
そう言うと、改めてステータスの書いてあるパネルに目を落とす。
「…………。えーと、名前……ですね。……この名前……。間違いが無ければ、私も知っている方です……」
サチとトザンは驚いた。
「え!? 知人ですか!?」
「いえ、そうではなくて……これは、かつて勇者様とともに戦ったエルフの賢者、センシュリニィ・ラトゥヌール様と同じ名前です」
サチとトザンがポカンと口を開けた。
――千年ほど前、この世界は戦争に明け暮れていた。特に魔王率いる魔族は強く、その勢力は全世界を覆い尽くすほどだった。
魔族は残虐で、このままでは魔族以外の種族が根絶やしにされると危惧し、教国出身の一人の若者が他の種族にも呼びかけ、打倒魔王を掲げて魔族に挑んだ。
集まったのは種族代表者。人族の勇者と聖女の他に、エルフ族の賢者、ドワーフ族の戦士、獣族の荷物持ち。
たった数名だが、この数名が協力し合うと魔族はまるで歯が立たず、魔族軍はどんどん追い込まれていった。
そして、とうとう魔王を倒すことに成功した。
……だが、その代償として、勇者と聖女以外は魔王の兇刃に斃れた。
勇者と聖女も深手を負い、それでもなんとか戻ってきた。
二人は故郷に戻り、訪れた平穏の中で静養したという。
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