第18話

 サチの持っているバッグには、どちらも男物が入っていた。

 だか、一つのほうはサイズが違う。

 サチの憑依した男性も背が高いが、それよりもひとまわりほどサイズが大きい。

「…………? こっちもサイズの違う男物が出てきましたよ、先生」

「えぇ? ……うーん、もしかして連れがいたのか? いや、でもなぁ……」


 一番怖い予想は『四人いて、残りの二人も死んでいる』だ。

 憑依したのはサチとトザンのみ。残りの二人は死体のまま。

 ……だが、この辺りはずっと散策していた。死体があったらいくらなんでも気付くだろう。

 特にサチは、食材を採取するためあちこちを細かく見ているはずだ。人間の死体があったら絶対に気がつくだろう。

 魔物に持ち去られた、という可能性もなくはないが……。

 それにしては、寝床が二人用だった、というのがおかしい。


 バッグは四人分、だけれど、寝床は二人。

 つまりは、誰かいたとしても、亡くなっていたのは二人だけ。

 残りの二人が誰かを呼びに行ったのかもしれないとも考えられるが、それだったら荷物を置いていくわけがない。


 結論としては、もし誰か他に連れがいたとして、生きているにしろ死んでいるにしろこの荷物はいらなくなった、ということだ。

 結局はありがたく使わせてもらう、という最初の決定からぶれない。

「よし、気にしないことにしよう。荷物は俺たち二人が寝床に抱えていて、俺たちがここで暮らして数日経つ。たとえ持ち主がいたとしても戻ってこられないかいらないという状況だ。なら、使わせてもらったほうがいい」

 サチに言うと、サチは、

「了解です! 気にしないッス!」

 と、親指を立ててきた。


 荷物の仕分けが終わり、最後にセレネが薄汚れたボロボロの修道服から中に入っていた服に着替えた。

 ハイネックのインナー、短めのAラインワンピースにパンツと登山用ブーツ、護身用にと腰に短剣を吊しマントを羽織ると、どこからどう見ても旅人だった。

「おぉ~。格好いいッス!」

 サチが拍手する。

「似合ってますよ」

 トザンが言うと、セレネは頭を下げる。

「ありがとうございます。……なんか、生まれ変わった気分です」

 セレネは顔を上げると、脱ぎ捨てた修道服を持ち、

「これ、どうしましょう?」

 と、尋ねた。

 トザンは埋めたほうが無難かな、と思って言おうとしたら、

「燃やしましょう!」

 とサチがキッパリ言った。

「そういう、足かせみたいのは燃やすに限ります! 燃やして灰を川に流して、跡形もなく消し去りましょう!」

「うっわー。俺が考えていたよりも過激だった」

 とトザンはつぶやいたが、聖女召喚に関してはサチも被害者だ。

 何か残しておいてまた縛られるのは嫌なのかもしれないな、と思い、トザンも賛同した。


 サチが大声で、

「ファイヤ━━━━ッ!!」

 と、叫ん……唱えると、ボワッと勢いよく燃えた。

 その勢いにトザンは引く。

 そうとう怨みがあるらしい。

 トザンは、服とはいえ燃やされているのはセレネの着ていた服だ。気分を害していないか……とチラッと見たら、とてもいい笑顔で燃えさかる服を見ていた。

 こちらもまた、そうとう怨みがあるらしい。

 燃え尽き、元がなんだかわからないほどの灰になると、サチとセレネは自然と顔を見合わせた。

 そして二人で笑顔を交わすと、ウンウンと力強くうなずいている。

 何やら通じ合っているらしい……。

 と、トザンは考えながら、灰を集めて川に流した。


 野営の痕跡も出来る限り消しておく。

 なんとなく、ここを嗅ぎつけられたら困るな、という気持ちが働いたのだ。たぶん、トザンの感覚ではなくこの身体の持ち主の感覚だと思う。

 後始末も終わり、いよいよ旅立つことになった。


 トザンは、パンパンと手を叩いて汚れを落とすと二人を振り返り、声をかけた。

「では、行きましょう」

 サチは手を上げて返事をする。

「おー!」

 セレネは頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 そして、三人で帝国のある方へ、歩き始めた。

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