第17話

 翌日、朝食を食べると、トザンは持ち物を検品し、三人で分けて出立しようと提案した。

「でも、私……」

 セレネが申し訳なさそうに言い淀むので、トザンはキッパリと言った。

「遠慮しないでください。そもそもこれらの持ち物は、正確には私の持ち物でもサチの持ち物でもありません」

 サチもうなずく。

「でも、憑依しちゃってるんで、遠慮なく使いましょう! ってことですよ!」

 セレネは目をパチクリさせている。

「……確かにそう言われればそうなんですが……。あれ?」

 セレネが混乱しているのをいいことに、二人はテキパキと持ち物を検品して分け合う。


 折よくバッグはそれぞれ二つ持っていて、そちらにも道具が入っている。

「じゃあ、セレネさんはこのバッグを持っていてください。……これ、どうも俺のじゃないような気がするんですよね……。サイズの違う服が入ってるんです」

 サチが茶化す。

「もしかして、私のガワの人に女装趣味あったかもですよ?」

「今のサチに女装趣味があったとしても、セレネさんに譲ってやれ」

 トザンがツッコむと、サチが笑う。

「あるいは、先生のガワの人が、変身魔術の遣い手だったとかかもですねー。ロリババアが嫌で、大人の女性に変身したとか!」

「どっちみち、俺もお前も着ないってことだな。……ということです」

 後半をセレネに伝え、トザンはセレネにバッグを押しつけた。

 セレネは戸惑いながらも受け取った。

 中を見て、あぁ、とうなずく。

「確かに、サイズが合わなそうですね……」

 セレネが中の服を取りだしてかざした。

 それは、どう考えても幼女には長く、青年には短いであろうワンピースだった。

 昨日までは何をするにも遠慮がちだったセレネだったが、さきほどの会話で吹っ切れたのだろう。頭を下げ、中に入っているものを検品していった。

「……下着まで入っていますね。コレ、使っていいんでしょうか?」

「セレネさんが嫌じゃなければどうぞ。俺ももう気にしてません」

「もちろん私も気にしてません!」

 トザンとサチが口々に言ったので、セレネは苦笑した。

「私も気にしないことにします! 持ち主が見つかったら、弁償します!」

 トザンが笑った。

「そういうことです。今は困っているので、ガンガン使わせてもらいましょう」


 持っているバッグはどれもマジックバッグだった。

 中を覗くと、驚くばかりに広い。そして、いくらでも入る。

 それがこの世界のスタンダードなのか、このガワの持ち主たちが金持ちなのかがわからない。

 トザンはセレネに尋ねたが、

「……少なくとも、ヤーナ教国にはなかったような……。マジックバッグというモノ自体を知りません。……ですが、私に知識が無いだけかもしれません」

 という答えだった。

 トザンは考えつつ、

「じゃあ、秘密にしておきましょう。大物は人のいない場所で取り出すようにし、人前ではバッグに入りそうなものだけ取り出すようにしてください。……どうも、この服装といい、金持ちっぽいんですよね。……って言ってる間に金貨がザクザク出てきた!」

 袋があったので開けてみたら、金貨がたくさん入っていたので、慌てて再度紐で縛る。

「十中八九、金持ちッスね。私のも出てきました」

「……すみません、私のからも出ました」

 サチとセレネが挙手をして報告した。

「よし、荷物の奥深くに埋めましょう」

 トザンが促すと、二人も真剣に頷いた。

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