第41話「悪役貴族、検討する」

「さて、宰相が死んだことはいずれ帝国の連中にも知られてしまうと思う」

「まあ、そうですね」



 処刑と、味方の救助を済ませて。

 サトゥーゴ公爵邸の応接室には、三人の人物がいた。

 アルバルゴとレジネリス、そして。



「あ、あのお」

「どうかしたのか?」

「いえ、あの、すみません。私、お邪魔ではありませんか?」



 そして三人目は執事服を身にまとった呪術師、ピオナである。

 第一王女とアルバルゴとたった三人だけで萎縮してしまっている。

 まあこれは無理もない。

 先ほどまではまだレジネリス側の侍従もいたから耐えられたのだろうが、主と王族のみという異様な空間に萎縮してしまっているのだろう。



「この場にいるのは、俺が信頼できると思った仲間だけだ。臆することはないぞ」

「別に、まだあなたを信用したわけじゃありませんよ」

「そうなのか?」

「…………」



 レジネリスは、それはそうだろう、という顔をした。

 自分も加担しておいてなんだが、彼の暴力性は異常だ。

 人を殺すことに一切の躊躇がない。

 

「まあいいや。どのみち、君も今すぐ僕と殺し合うつもりはないだろ?」

「それはもちろん」



 何しろ、彼女の立場は実態はともかく、対外的には非常にまずい。

 彼女は他の王族と宰相を皆殺しにした、ということになっている。

 そして、帝国がそれを口実に王国に攻め込んでくることは十分に考えられた。



「ならいいんだよ。僕にとってはそれだけで十分だからさ」



 レジネリスは、ため息を吐く。

 徹頭徹尾、彼の価値観は一つだけなのだ。

 敵なら殺す。敵でなければ殺さない。



「とりあえず、改めてレジネリスには玉座についてほしい」

「言われなくても、そうするわよ」



 もはや命も心も失っていない王族はレジネリス一人だけだ。

 だから、継がないという選択肢は彼女の中には存在していない。



「そのうえで、俺を宰相に据えろ」

「正気?」

「不満か?今回のことで手柄を立てたし、家柄だって悪くないと思うが」

「……アナタ、政治がわかるの?」

「申し訳ないが、法律関係以外はさっぱり」



 それすら、アルバルゴが今のアルバルゴに憑依される前に培った知識であり、到底胸を張れるものではない。

 それでも。



「帝国は、必ず俺やレジネリスを狙ってくるだろうからね。なるべく友好的でありたいと思っている」

「だから、ワタシの部下に、ナンバーツーになりたいというわけね」

「あと、俺の立場を強固にしておきたいのもあるかな?サトゥーゴ家を潰したい人たちも、宰相に収まったとあれば手を出しづらいだろうからね」



 実際、その懸念も正しいとレジネリスは考えた。

 当主だった父親を殺害してその座を奪った血みどろの異端者。

 客観的な評価は間違いなくそういうものであり、それはサトゥーゴ家の持つ権限や土地を奪いたいものにとって大義名分となってしまう。

 だが、それも国のナンバーツーになれば話は別。

 アルバルゴを害そうとすれば、それはもはや国そのものへの反逆となる。

 最も、それをやったのがアルバルゴ本人なのだが。



「それで、どうするつもりなんですの?」

「まあいずれは帝国とやり合うことになるかもしれないなあ。その前に、色々対処するべき相手もいそうだけどね」

「?」



 レジネリスは、首をかしげた。


「宰相は本当に帝国と通じているだけだったのかと思って」

「といいますと?」



「帝国と通じていたのは間違いない。でも、逆に宰相が従えていた、あるいは宰相と組んでいた貴族だっているはずなんだよね。それがいないとしたら何でもかんでも全部一人でやったってことになる」



 それはおかしいと、アルバルゴは断じた。 

 これがもしも、宰相個人の謀反であったなら、まだわかる。

 だが、彼は帝国の傀儡だった。

 他に傀儡がないとどうして言えるのか。

 ましてや彼らが、自分達に危害を加えてこないと、どうして。



「備えないとね、俺たちで」

「……はい」

「まあ、否定できないわね」



 アルバルゴは、レジネリス、ピオナの顔を見た。

 数は少なくとも、頼もしい味方を。

 そして、これならばきっと誰が相手でも勝てると、アルバルゴは信じたのだった。

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悪厄貴族~悪役貴族に転生した少年は知識とスキルで蹂躙無双する~ 折本装置 @orihonsouchi

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