第40話「悪役貴族、王女と共同作業する」

「散々人を食い物にしてきたんだろ?」



 王族に取り入る過程で様々な人間を排除して、レジネリスの父は弟を殺し、妹は犯した。

 そこまでしてやりたかったことは自分が事実上のトップに立つ傀儡政権。

 寄生虫どころか、木の内部を食い尽くして空っぽにする害虫ではないか。



「だったら、食い物扱いされても文句は言えないよな?」



 山羊が舐める塩や血のように、あるいはケバブのように削がれて削られていったとしても、因果応報ではないかと、アルバルゴは思うのだ。



「じゃあ、はじめようか」

「はい、終わらせましょう。私と貴方で」



 アルバルゴとレジネリスは剣を持ち。

 ゆっくり振り上げて。



「ぎいっ」



 宰相の足の皮をそいだ。



「い、あ、いぎぎぎぎぎぎぎ」



 皮をそいだ後は当然肉だ。

 包丁で肉をスライスするように、丁寧に切っていく。

 イメージとしては本当に料理に近い。

 肉を切るときも分厚く切りすぎると噛み切れないとか火が通りにくいというか不都合があるのでなるべく薄く切ることが求められる。



「あうっ」

「あー、ちょっと厚く切りすぎたな」

「があああああああああああああああああああああああああああっ!」

「ごめんなさい、私が角度を間違えました」

「気にするな。まだ足の大部分は残っている。ゆっくり焦らず落ち着いてやっていこう」

「はい、頑張りましょう」

「おごおおおおおおおおおおおおおお!」

「これは結構うまくできたんじゃないでしょうか!」

「いい感じだな、かなり薄く削げている」

「じゃあ、今度は舌の代理だな。剣で傷口を傷めつけよう」

「はい、やりましょう!切っ先でほじくり返せばいいですか?」

「それがいいかもしれないな」



 恐怖と痛み、そして失血ゆえの低体温で体を震わせている宰相の足をさらに削り取る。



「んんっ、んがあ、あああああああああああああああああああっ!」



 悲鳴がこだまする。

 しかし、アルバルゴは心地よさそうに、レジエネリスは感情のない瞳で宰相を一瞥し、視線を剣に戻す。

 絨毯に、宰相の血とその他の体液がしみこんでいく。



「さて、まだ八分の一くらいしか斬り終わってないけど……大丈夫かなレジネリスは、そして持つかね宰相は?」

「は、はち」

「がんばります!」

「も」



 宰相は、全力で息を吸い込む、叫ぶ。



「もう、殺してくれえええええええええええっ!」



 彼が死んだのは、それから一時間後のことである。



 ◇



「さてと、レジネリス、お疲れ様」

「え、ええ」



 アルバルゴとともに宰相を痛めつけ殺した後、レジネリスは糸が切れたようにへたり込んでしまった。

 それが剣を使って長く重労働を行ったからか、それとも



「人をどう思った?」

「気分が重いわ」



 レジネリスは、重い重いため息をついた。

 それは、当然かもしれない。

 アルバルゴとて、自覚している。

 アルバルゴは、異常者である。

 人を殺すことにためらいも罪悪感もない。

 あるいは、アルバルゴは殺すべきと定めたものを「人」として認識できないのかもしれない。

 


「レジネリス、まだやるべきことはあるはずだよ」

「そうですわね」



 アルバルゴに言われて、レジネリスは特に反発もせずに首肯する。

 宰相の言葉が正しければ、まだレジネリスの家族は生きている。

 ならば、立たねばならない。

 ふと、アルバルゴが、レジネリスに手を伸ばしていることに彼女は気づいた。

 レジネリスは、アルバルゴの手を取り、おもむろに立ち上がった。

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