第四話 新しい冒険

「「冒険ぼうけんクラブ?!」」


 紫と晃牙の声が重なった。

 二人とも、とつぜん奏也から紙切れを差し出されて、サインをしろと言われたのだ。とまどうのも無理はない。

 二人がサインする理由についてたずねると、奏也は、新しく冒険クラブをつくるつもりだと答えた。


「冒険クラブって……何をするんだ?」


 晃牙がたずねた。

 奏也は、それに胸を張って答える。


「そりゃ、冒険するんだよ! まだ見つかってない宝物を見つけたり、無人島でサバイバルしたり……」

「いや、オレもう無人島はいいかな……」


 晃牙があわてて身を引く。楽しかったとは言ったものの、やはり大変な目にあったことには変わりないからだ。


「オレ、冒険がしたいんだ! 胸がわくわくするような冒険が!

 でも、オレたちは小学生で、金もなければ力もない。

 そこで思いついたんだ! クラブ活動なら、学校が金を出してくれるだろう?

 ただこまったことに、うちの学校に冒険クラブは、ない」

「冒険クラブなんて、どこの小学校にもないと思うぞ」

「だから作る! オレたちで一から作るんだ。ないなら作ればいい。だろ?」


 奏也が意味ありげな顔で、晃牙と紫に目くばせをする。

 三人は、何もない無人島で、一から物を作って五日も生きのびたのだ。


「先生に聞いたらさぁ、五人いないとクラブにしてもらえないんだ。

 だから、あと二人、クラブに入ってくれそうなやつ、いないかな?」


 紫と晃牙は、たがいに気まずい顔をした。二人とも、そんな友達はいない。


「あと二人ってことは……すでに決まってるその三人の中に、オレたちもふくまれてるってことか?」

「あたりまえだ! オレたちは、仲間なんだからな!」


 それを聞いて、晃牙が少し照れくさそうに言う。


「オレはさ、冒険よりも建築に興味があるんだよな。物を作るのって楽しいなって思って……」

「いいじゃん! 晃牙、手先が器用だもんな。

 もっといろんな場所に冒険すれば、きっといろんな建物が見れるぜ!」


 奏也の言葉に、晃牙は、まんざらでもなさそうな顔をする。

 そこへ今度は、紫が手をあげた。


「奏也が冒険家になるなら、私がスポンサーになるわ。

 今はまだ……お父様にお願いすることになるけど……もっといろんなことを学んで、自分でお金をかせげるようになってみせるんだから」

「おおっ、それいいな! 紫なら、すげぇウーマンになれるよ!」

ウーマンじゃなくて、ウーマンだろ。ネコ女じゃ、だぞ」


 そう言って笑う晃牙を、紫がきっとにらんだ。


「でも、紫の父さんかー……オレ、めちゃくちゃおこられたんだよなぁ……」


 奏也は、その時のことを思い出して、かたをふるわせた。

 無人島へ勝手に行ったことで、紫は、父親である玲一れいいちからこっぴどくしかられた。自分だけではなく、友だちの身を危険にさらすなんて無責任なことをするな、と玲一はおこったのだ。

 それを見ていた奏也は、あんまり紫がかわいそうだったので、自分が無人島へ行きたいと言ったのだ、と全ての責任を一人でかぶった。

 それを聞いた玲一は、奏也に向かって、娘を危険にさらすような男に娘はやれん、と言っておこったのだ。

 しかし、紫がくすりと笑って言う。


「ふふ、それなら大丈夫よ。あのあと私、お父様にちゃんと本当のことを話したの。杠もいっしょに話してくれたから、信じてくれたわ。

 それを聞いたらね、うちのお父様ったら、奏也のこと気に入っちゃったみたい。今度、うちへ連れて来なさいって言っていたわ」


 それを聞いた奏也は、照れくさそうに頭をかいていた。


 それから奏也は、家に帰ってからもずっと、どうやって残り二人のメンバーを見つけようかと考え続けた。明日、学校へ行ったら、クラスメイト全員に声をかけよう、と決めてねむった。


 次の日、奏也が学校の教室へ行くと、奏也が話しかけるより先に、ひとりの男の子が奏也に声をかけてきた。


「……と、富瀬くぅ〜ん……」


 カの鳴くような声で話しかけてきたのは、五年二組の井ノ原いのはら つよしだ。となりに、晃牙もいる。


「昨日は、ありがとう。先生から薬をもらって、落ち着いたよ」


 強は、先生から奏也のことを聞いて、お礼を伝えるために三組の教室まで来たようだ。


「そっか、よかったな! そうだ、井ノ原くん、部活って何か入ってる?」

「え? う、ううん……ぼく、胃腸が弱いから……運動は苦手で……」

「よし、じゃあ、ここにサインしてくれよ」

「え……これって、何のサインなの?」

「冒険クラブってのを作ろうと思うんだ。それであと二人、メンバーが必要なんだよ。井ノ原くん、部活に入ってないなら、入ってくれると助かるよ!」

「ええ……ぼくにできるかなぁ……」

「大丈夫、大丈夫! ここに自分の名前を書くだけだから。

 昨日のお礼に、ここへサインしてくれっ」

「奏也、お前なぁ……そういうの、きょうはくって言うんだぞ!」


 晃牙にするどくツッコまれて、奏也は、しかめっつらをした。

 

「なんで晃牙がいるんだよ」

「こいつに三組までついて来てくれって言われたんだよ。席、となりなんだ」


 結局、強は、少し考えさせてほしいと言って、自分の教室へもどっていった。

 その後、奏也は、同じクラスメイト全員に声をかけてみたが、みんな何かしらの部活に入っているか、塾があるからと断られてしまった。

 放課後、奏也が晃牙のいる二組の教室へ行くと、井ノ原 強が自分の名前を書いた入部とどけの紙をわたしてくれた。これでメンバーは、四人になった。残る一人は、紫に期待しよう、と奏也と晃牙は、一組の教室へ向かった。


「男子たちには聞いてみたけど、みんな私が声をかけると逃げていくのよね。なぜかしら」

「いや、そりゃお前がこわいからだろ。ってか、なんで女子に声かけないんだよ。

 オレだって、いやだったけど、とりあえず声はかけたぞ、声はっ」

「何言ってるのよ。奏也のそばに、私以外の女をおくわけないでしょ」


 胸を張って言う紫に、晃牙が顔を引きつらせる。


「なんか楽しそうね。何の話?」


 三人が話しているところへ、桂木かつらぎ 加奈子かなこが声をかけてきた。

 奏也が冒険クラブの話をすると、加奈子は、とても残念そうな顔をした。


「うーん……おもしろそうだけど~……私もうミニバスケット部に入ってるのよねぇ。……あっ、それじゃあ代わりに、この子が入るわ」


 加奈子は、そばにいた女の子のかたをつかむと、奏也に向かって差し出した。


「え? え? え? わ、私が入るの?」

「しぃちゃん、どこの部活に入ろうかって、まよってたわよね~」


 差し出された花野井はなのい 詩乃しのは、とまどったように加奈子を見る。


「大丈夫、大丈夫。私も、時々様子を見に行くから。それに……」


 加奈子は、詩乃の耳元にこっそり何かをささやいた。

 とたん詩乃の顔が、ぽっと赤くなる。

 その目が奏也の方を向くのを見て、紫がまゆをしかめた。


「……なんか、いやな予感がするわ」


 詩乃が冒険クラブへの入部を決めると、奏也は、両手をあげて喜んだ。


「やったー! これでもう五人メンバーが集まったぞ!

 早速、先生のところへ行こう!」


 こうして奏也と晃牙と紫は、五人の名前が書かれた用紙を持って、職員室へ向かった。


「へぇ~……すごいじゃない! 昨日から今日で、もうメンバーが集まったの?」


 五年三組の担任である河合かわい先生は、奏也の差し出した紙を見て、目をかがやがせた。


「ふふ……一時は、どうなることかと思ったけど……柏崎さんのおじいさまが言っていたとおりね」


 先生がふっともらした言葉に、紫が真っ先に反応する。


「え……おじい様が? 先生、私のおじい様は、一体何て言っていたのですか?」

「この前、あなたたちの親御さんたちと顔を合わせて、今後のことについて話し合いをしたでしょう。先生が間に入ってね。

 でも、なかなか話が進まなくてねぇ。そうしたら、入院していたはずの柏崎さんのおじいさまがいらっしゃって言ったの……」


『子供というのは、ほうっておいても勝手に育つ、草木と同じだ。

 でも、たまに大人が手入れをしてやらなければ、ゆがんで育ったり、いつしか植物の育たない暗い森になってしまう。

 私たち大人に出来ることは、子供という木が、明るく真っすぐ空を目指して成長できるように、見守ることじゃないのかね』


「おじい様がそんなことを……」

「おじい様のことは、残念だったわね。あんなに立派な方は、大人でもなかなかいないわ。私も見習わなくちゃって思ったもの」


 河合先生の言葉を聞いて、紫の目に、なみだがうかぶ。

 その話し合いの後のことだ。一時は持ち直したと思えた正幸は、急に容体が悪くなり、息を引き取った。おそう式には、たくさんの人が顔を出したという。

 しんみりした空気のまま、三人は、職員室をあとにした。

 せっかく目的の冒険クラブが作れたというのに、紫は、正幸のことを思い出してすっかりしょげている。

 奏也が何と言ってはげまそうかと考えながらろうかを歩いていると、前方から、石田 厳太げんたがあわてた様子でかけてくるのが見えた。


「厳ちゃん、そんなにあわててどうしたんだよ」

「奏也、大変だ! 学校の裏山で、死体が見つかったんだって!」

「なんだって?!」


 三人は、顔を見合わせた。


「奏也、まさか見に行くなんて、言わないわよねぇ?」

「おい、死体って本当かよ。オレ、血とかそういうのは、ちょっと……」


 顔を引きつらせる紫と晃牙に、奏也は、不敵ふてきに笑った。


「何言ってるんだよ、今こそ冒険クラブの出番じゃないか!」

「いや、それは冒険じゃなくて、警察けいさつの仕事だろっ」


 すかさず晃牙がツッコむが、奏也は、聞いていない。


「よーっし、これからオレたちの本当の冒険が始まるんだ!」


 そう言って、ろうかを走り出す奏也を、晃牙と紫があわてて追いかける。

 前を向いて走る奏也の目は、きらきらと希望に満ちていた。



 ***(作者より)**********

 ここまでお読み頂き、ありがとうございます!

 本作品は、一旦これで完結となります。

 いかがでしたでしょうか。

 こちらの作品は、第13回つばさ文庫小説賞へ応募予定でいます。

 もし良ければ、率直なご感想を頂けましたら大変うれしく思います(*ᴗˬᴗ)


 最後までお読み頂き、誠にありがとうございました!!!

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ソーヤの大冒険~宝の地図を見つけたので、スローライフのため宝探しに出かけます!~ 風雅ありす @N-caerulea

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