桜の木の下で、あの頃と同じように

リュウ

第1話 桜の木の下で、あの頃と同じように

 川沿いに見事な桜が咲いている。

 僕は、車からそれを眺めていた。

 薄いピンクと濃いピンクの二通りの桜。

 桜の咲く季節。

 入学式と卒業式。

 出会いと別れ。

 相反することを同時に体験する季節。

 明るい未来に希望を持った笑顔が分かれと言う悲しい心を覆い隠す。

 僕は、車を止め、桜の元へと向かう。

 桜を観に人々が集まる。

 写真を撮る者や桜に見とれる者

 桜の木の下に座り、香りや花びらを楽しむ者が集まる。


 テレビやSNSで見るものと違って、生で見る桜は心を癒やしてくれる。

 最後にこの桜を見たのはいつだろう。

 高校の卒業式の日だ。

 ああ、彼女と一緒に観たんだ。

 お互いの進む道は違っていた。

 僕は、彼女のことが好きだった。

 彼女は、僕のことを好きだったと思う。

 たぶん。

 僕は君の、君は僕の夢に近づくのを願っていた。

 君は、どうしているだろう。

 もう、夢を掴んだのだろうか?

 それとも……。

 いや、きっと夢に向かっているはずだ。

 僕は、桜を見上げる。

 綺麗な花を見つめる。

 花の間から見える蒼い空を見つめる。

 やさしい風が、花びらを運んでいく。


 僕のシャツが引っ張られた。

 シャツの先を白い細い指が引っ張る。

 その指をたどる。

 そこには、大人になった彼女が居た。

 綺麗になったけど、僕にはすぐわかった。

「元気だった……」

「ああ、君は?」

 彼女は軽く頷いて、僕の横に来て桜を見上げた。

「綺麗ね」

「ああ、綺麗だ」

 僕は、そっと彼女の腰に手をまわした。

 彼女は、驚いていたけど、微笑んで同じように僕の腰に手をまわした。

 しばらく、二人はじっとしていた。


 あの頃の二人と同じように。

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桜の木の下で、あの頃と同じように リュウ @ryu_labo

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