第2話 私と『アナタ』
『――て――して』
(あ、また聞こえてきた)
番組への集中が切れたタイミングを見計らったのだろう。いちいち小賢しい。
『――ねぇ――いてよ――』
うるさいな。
化け物のくせに、そんな必死な声出さないでよ。はっきり言って耳障りだよ。
『――たく――ないよ――』
懇願するような声で、絶えず私の神経を逆撫でしてくる。束の間の息抜きが台無しだ。迷惑ったらありゃしない。
私は知っている。
こいつらは、乗っ取ることでしか生を得られない。だから必死に人間の感情を真似るのだ。成り代わった後に、ボロを出してしまわないように。
(まぁ……別にいいけど)
お世辞にも、恵まれた家庭環境とは言えない。学校でもろくな目に遭わない。
いっそ、このろくでもない人生を『ワタシ』に押し付けるのも悪くないとすら思っている。だから、人から見たら絶望的なこの状況も、全部どうでもいいのだ。
『――して――ない――』
あぁ、もう分かってるって。
でも、どうしようもないんだよ。どうせ近い内に『アナタ』が私になるんだから、ちょっと待ってよ。最期くらい、静かに過ごさせてよ。
「番組の途中ですが、臨時ニュースです」
番組との温度差に冷めて、私はヘッドフォンを外した。ニュースをわざわざヘッドフォンで聞く趣味なんか持ち合わせていないし、そもそも『ワタシ』が騒いでいて、もう付けてる意味がない。
「現在、猛威を振るっている『ドッペルゲンガー症候群』の病因は長らく不明とされてきましたが、五年に渡る解析の末、脳を侵す寄生虫によって引き起こされることが判明しました。WHOはこの寄生虫を『ドッペル虫』と命名し――」
「…………へぇ」
なんだ、
ていうか名前ダッサ。
「ドッペル虫に関しては未だ詳細は分からず、WHOを中心に、撲滅に向けて更なる研究と解明を進めており――」
まぁ、少なくとも、
「ね、そうでしょ?」
頭の中で喚き続ける『ワタシ』に向けて、言葉を投げかけた。
助けて。
出して。
お願いだから。
死にたくない。
消えたくない。
「…………はぁ」
呆れるあまり、溜め息がこぼれ出た。
本当に馬鹿な生き物だ。私がさっき、
「無理だよ。だって、『アナタ』はもう『私』じゃないんだから」
ドッペルゲンガー・シンドローム 片隅シズカ @katasumi-novel
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