【最終話】第23話 旅立ち
そして今から数年前、地球人たちがあの島に集められてかおよそ10年が経った頃、自然と地球人たちの中から声が上がった。
『そろそろ、この島から出て広い世界を見に行くべきではないだろうか』
この発言に対して、下手に論争を呼んで口論から殴り合いの喧嘩にまで発展すると困るな、と私とマリーは一部始終を見守っていたが、地球人同士の対話はかなり理性的に行われていた。
結果、ドローンを通してこちらに地球人が色々と相談をしてきた。
内容としては大まかに言えば、『この島から他の大陸部とかに移動したい地球人と、この島に残ってこの穏やかな繁栄を享受したいという地球人がいるんだけど、それぞれに好きな選択を取らせてくれないだろうか』というものだった。
少し言い方に違和感を感じて、『あくまで地球人の自由意志の元で行動して欲しいので、そうと決めたならそれで構わない』と言うと驚いた表情をされた。
どうも時折突き放すような言葉を私が口にしていたからか、地球人たちは私が彼らをいつかこの島から追い出すのではないか、と考えていたようだ。
外に出ていく、という話も、いつか追い出されるならサポートのあるうちに、島とは違って危険の溢れているらしい外の世界を見ておいた方が良いのではないか、という会話から発展した話だったようだ。
元が勘違いだった、ということが判明したとはいえ、地球人たちが進んで外に出ていくようになるのは見ている側の私達からすれば都合が良い。
ついでにファンタジーの世界を再現したそこに、私以外に人がいるとは当初の予定では思っていなかったが、いざ彼らが各地に村を作ったりして活動し始める事を考えると、それこそゲームのようでファンタジーの世界に生きているようで、なんだかわくわくした。
結局初回には、十数人が試しとして私達のサポートを受けつつ、島から大陸部の陸地が続いている場所へと移住した。
移動手段は流石に船造りには彼らの知識が足りてなかったので、残る人々にはその教育をするとして私達が探索艇で運んであげた。
その中には既に成人していたシンゴとアイサ、かつてもっとも活動的だった少年と少女の姿もあった。
移住をした住民たちは、いざとなれば私達が助けに入りはするものの、ひとまずは持ってきた石器などを使って自分たちだけの村を作り始め、そして2年と経たないうちに、それなりに立派な村を作り上げた。
またその過程で周囲の探索を行い、時々けが人を出しつつも、地球人たちを守るために作られた環境にある島とは違う、本当のむき出しの自然や生命というものを経験していった。
そして一段落したところで彼らのうち数名が島に帰還し、島の外の様子がどうなっているかを島に残っていた者たちに話す。
島の穏やかんな自然とは違う、ときに表情を大きく変える荒々しい大自然。
そしてそこを闊歩するまるでファンタジーのようなモンスター達。
まさか私のようにファンタジーやゲームの世界に焦がれていたわけでもないだろうが、こうした先駆者達からの報告を受けて、多くの人達が島からの移住を決定した。
そこで私達は、あえて彼らを全く同じ場所まで運ぶのではなく、移動に1日以上はかかる程度には最初の村から外れた場所へと運んだ。
新しい集落が出来る場所と先駆者達の集落を繋ぐルートを作る作業は、これから地球人達がこの世界を開拓していく上で大きな経験になるだろうと思ったからだ。
これには流石に文句を言う地球人もいたが、わずか1月ほどで道を開拓してやってきた先駆者達の姿には後発組の地球人たちも大きく驚いていた。
その逞しさにも、凶暴なモンスターを退ける勇気と実力にも。
その後も定期的に地球人の集団が島から外の世界へ移動し、今では地球人の大半は島ではなく他の大陸部などで暮らしている。
「うーん、さて、どうしようかなあ」
そんな中で私がなぜ地球人と一緒にいるかというと、これは別に深くもなんとも無い訳があるのだが、そのことについてはあえて言及しないでおくことにする。
まあとにかく、今の私は地球人たちと同じ肉体を得て、こうやってシンゴとアイサという2人の特に突出した戦士達と一緒に生活している。
といっても彼らの戦いに私が同行出来るわけでもないので、こうやって村の中をぶらぶらしながら色々と見て回ったり、ちょっと散歩に村の周りを出歩いたりしているのだ。
「おう、シュマーレの嬢ちゃん! 今日は暇そうにしてるな」
「2人がポケト村の方に行くから数日留守なの。だから何か私にも手伝えることは無いかなーと思って」
声をかけてきたのは、一応この集落で村長という地位についている男性だ。
年の頃は50代。
昔はひょろい青年だったのに、生態系の変わった地球で過ごすうちにみるみるうちに筋肉がつき、今では日焼けした精悍な表情の似合ういい男になっている。
ちなみに彼は、アイサとシンゴに次ぐこの村3番手の戦士だ。
「なるほどな。そいつは確かに暇だ。だったらヨボ爺のところに行くと良い。今日は子供たち相手に鍛冶を教えると言っていたぞ」
「ホント? じゃあ私も鍛冶屋に行ってこようかな」
村長に礼を良い、私は鍛冶屋の方に足を進める。
そんな私の隣を、荷を運ぶ青年が、水を運ぶ女性が、短い木の棒を持った少年たちが通っていく。
ああ、この世界は生きているのだな、と今はそう思える。
そんな私の耳元に声が響く。
『リーナ、そろそろ報告書を提出しろとまた連絡が来ていますよ』
「うげ、忘れてた」
声の主は、今は月付近まで移動して待機している宇宙船で待っているマリーからのものだった。
『そもそもリーナは星の復興が終わった後も事後観察の名目で残ってますからね。報告書ぐらいはちゃんと送らないといけませんよ』
「うっ、はーい」
マリーの言葉にがっくり来た私は、鍛冶屋に行くのをやめて一旦2人と暮らしていた家に入る。
そしてベッドで横になって目をつむる。
数秒経って目を開ければ、そこはもう先程までの木材で出来た素朴な部屋ではなく、味気の無い白色が広がる宇宙船の中だった。
長期休眠用のジェルから体を起こした私は、服を纏ってマリーの待つ会議室へと向かう。
「ただいま、マリー」
「お帰りなさい、リーナ。どうでしたか? ファンタジーの世界は」
マリーの質問に、ついさっきまでそれを堪能していた私は答える。
きっと私の表情には満面の笑みが広がっていることだろう。
「楽しいよ! めちゃくちゃ楽しい!」
やっぱり、ファンタジーは面白くて楽しい。
それがこの仕事についてから、改めて私が発見したことだ。
《Fin.》
~~~~~~~
凡庸な終わり方となりましたが、これで本作を完結とさせていただきます。
これまでの応援ありがとうございました。
本作はドラゴンノベルスコンテストというコンテストに応募しています。
そちらで受賞出来れば、長編化して書籍化の機会を得ることも出来ます。
読了された読者の皆様には、是非★評価の方で、本作がどの程度面白かったかの評価と、作者への応援をお願いします。
【完結】TS転生宇宙人の地球改造計画~ファンタジーの惑星を作ろうと思ったらここ荒廃した地球だったってホントですか!?~ 天野 星屑 @AmanoHoshikuzu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます