第22話 時は流れて……

《十数年後》


「おーい、アイサー、早くしないと置いてくぞー」

「待ってシンゴ。……よし、これでOK」

「リボンの位置なんてどこでも良いだろ?」

「そんなわけ無いでしょー? 折角デザインしてもらった防具なんだから」


 室内にそんな声が響く。

 その声にうつらうつらとしていた私は、意識をはっと覚醒させてベッドから起き上がる。


「やばっ、アイサとシンゴの見送り忘れてた……!」


 ドタバタとうるさく音を立てながらドアを蹴り開けて、私は玄関の外に立っている2人へと視線を向ける。


「シンゴ、アイサ!」


 私の声に、玄関先で何やら話していたアイサとシンゴがこちらに顔を向ける。

 そんな2人に笑顔を向けて、私は言う。


「2人共、凄い似合ってるよ」

「ははっ、だろ?」

「ふふっ、でしょ?」


 私の言葉に応える2人の姿。

 その身にまとう服装は、十数年前までのようなただ麻から作っただけのシャツと腰巻きではない。


 アイサは複数の生物やモンスターの革によって構成され、動きやすく設計されている軽装の革鎧の背中に大きな弓と矢筒を背負っている。

 特に目を惹くのは赤々とした腕甲と胸部の鎧。

 つい先日2人と村の戦士達が討ち取った飛火竜の鱗と革で作られた最新の鎧だ。

 一方のシンゴは頑丈な鉱石を使用して作られた重装の金属鎧を身に纏い、その背中に身の丈程もある巨大な剣を背負っている。

 その大剣の刃は赤々とした炎の如き光を帯びていて、一度抜刀すればあらゆるものを焼き切り尽くす様が容易に想像できる。

 そして2人共旅のお供である大きな布袋を背負い、パンパンに荷物を詰め込んでいる。

 

 そんな2人は、今日この村を旅立つ。

 と言っても別にどこか遥か遠い彼方に行くというわけではない。

 それでも、この移動手段も徒歩か限定的なものしか無いこの今の地球では、数日かけて行く程度には離れた他の集落を目指すというのは、十数年前の地球人たちの様子から考えるとなかなかに大冒険の部類に入るんじゃないだろうか。

 

 そんな2人に、軽く手を振りながら私は言う。

 

「行ってらっしゃい」


 私のそんな言葉に、2人は声を合わせて返事をすると、そのまま背中を向けて旅立っていった。


「行ってきます」


 家から離れてそのまま村を囲うモンスター避けの柵からも出て。

 そうやって旅立っていく2人の姿を、私は玄関からいつまでも見守っていた。




******



 

 私が初めて荒れ果てた地球を訪れてからはや十数年。

 地球はその様相を大きく変化させていた。


 まず第一に、自然環境が荒廃前の地球と比べて遥かに荒々しく、そして生命力に溢れている。

 これは私と人工知能のマリーが、地球人からすれば宇宙人であるシュマーレ族の技術力、特にナノマシンを使って生態系に大規模な改造を加えたからだ。

 結果、地上や空には生物だけでなく人よりも巨大で危険一杯のモンスターがはびこっているのが今の地球である。


 そして2つ目に、地球人が大きく変化した。

 十数年前、私達がシェルターやアーコロジーの成れ果てから引きずり出した地球人の数はおよそ150人程。

 文明を再興するための遺伝子の多様性の問題なんかはナノマシンで解決できるとしても、集落を複数作るのがギリギリのたった150名。


 それが今では、あの安全な島に残って穏やかな集落を築いている者たちはいるものの、この広大な地球で狭い島の外に出ていこうと地球の各地の比較的安全な地域に集落を構えることを選んだ者たちだけでも100人近く。

 そして更にその生まれた子供たちが数十人いる。

 そう子供だ。


 人間がいかに知的生命体であるとはいえ、生物の究極の目的は自らの遺伝子、種の子孫を後世へと繋いでいくことである。

 そのためかどうなのか知らないが、1つの島に地球人たちを集めて半年ぐらいした頃から、地球人達が性欲を抑えきれずに夜の運動をおっぱじめる回数が異常に増えたのだ。


 マリーとの話し合い及び分析によってその原因が人類という種そのものの危機感によって本能的に繁殖期に入ろうとしているのではないか、と判断した私達は、流石に赤子を取り上げたりする技術は残っていないだろうと思ったので、多くの女性と一部の男性に対してそうした方法も伝授した。

 また本当に最初期の赤子はこちらの用意した施設で安全に産めるように配慮したが、その後は私たちの手を借りる事なく赤子を世話するための道具すら自分たちで用意することが出来るようにと地球人たちにはっぱをかけた。


 その御蔭か、初年の段階ではほとんど積極的な活動を行っていなかった地球人の大半が一気に活発化した。

 そしてその年のうちに、わずか数キロしか無い島とはいえ森や丘、山さえも踏破してしまい、一気に島の反対側まで至った。


 そして地球人たちが命を繋ぐための食事をシェルターから持ち出してきた保存食に頼らなくなってきたのもこのあたりだろうか。

 私が自立した活動が出来るようにと、適度に突き放していたのもある程度効いていたのだろう。

 カカポやミミナガウサギといった最も接触しやすい食いでのある生物から、それより先に進んだエリアに生息する鹿やイノシシ、果ては恐竜の姿をある程度模倣して生み出した草食性のモンスターなど、多くの命を仕留め、食としていただく事を地球人たちが覚え始めた。


 このあたり、つまり地球人集結から3年が経ったあたりから、地球人たちの環境に対する適応は一気に進んだ。

 私もそれに合わせて順々に寝床代わりになっていた探索艇やその他のサポートのための器具を撤退させていき、地球人たちの環境への適応をサポートしてきた。


 そうやって、地球人たちの大自然の中での生活への適応は、当初こちらが思い描いていた一次関数のグラフのような均一の適応速度ではなく、右上に向かうほど垂直に近くなっていくグラフのように加速度的にすすんでいった。



~~~~~~~~~

6万文字にまとめるのって結構難しいですね……

ということで大幅にスキップしました

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