第21話 一方その頃仕掛け人達は

 イリーナとマリーが見ているモニターには、少年と少女が森の中で野生の動物と触れ合っている姿が映し出されている。


「やはりあの2人は、なかなか積極的に動いてくれますね」

「そうだね。でも他の人達はちょっとなー。集団になって閉じこもっちゃってる人が多いよね。まあ不安な場所で群れを作るっていうのは人間以前に動物の本能なんだけど」


 イリーナ達が地球人をほとんど1つの島に集めて、大自然でのサバイバル能力を叩き込み始めてからおよそ1年が経った。

 この期間の間に、シェルター籠もりで鈍り青白い程に日の光に接していなかった地球人たちも、ある程度健康的な上体を取り戻してきている。


 特に食料の確保などはまだまだその段階に到達していないが、石器や植物の蔦、蔓を利用した道具の作成や、それを利用した自然の活用法など、多少こなれてきている部分はある。

 特に手先が器用な数名の人間は、麻から繊維を取り出してはそれを編み、シャツや腰巻きなどの簡素な服を作り出していたりする。


 他にもゼロから薪を集めたり火を焚く方法については大勢が習熟していたり、また一部には自発的に文明を進めようと色々実験のような事をしている集団も見受けられる。


 だが一方で、自然の中に踏み込んでの開拓については、まだまだ及び腰な人が多い。

 イリーナは地球人たちが接触する生物のレベルとして、島の生物をレベル1からレベル5までわけている。

 レベル1の生物程今地球人たちが寝泊まりしている草原のすぐ近くの森に出現し、レベル5程島の反対側に生息するように生態系を操作しているのだが、そのうち地球人たちが接触しているのがまだレベル1だけだ。


 それも積極的に接触しているのは、今まさに画面に映し出されている少年少女の2人だけ。

 他は少年と少女を真似て森に入ることはあるものの、すぐに尻尾を巻いて森から逃げ出してしまう。

 一部なんかカカポの魅力に取り憑かれて全力で追いかけたまま夜になって寝床に帰れなくなった人達もいたけど。

 そのときは仕方ないからマリーの操作するドローンで道案内をして寝床まで帰してあげた。


 さておき、そんなわけで、地球人たちの活動はあまりかんばしいとは言えない。

 ただ、身体能力などに関しては、大気中から取り込んでいるナノマシンなどのおかげで、本人達も気づかないうちにそれなりなものになりつつある。

 少なくともいきなりファンタジーな世界観に放り込まれても、逃げ惑うことぐらいは出来るだろう。


 そして一方で順調なのが、イリーナ達が考え続けていた、地球人島(イリーナ命名)以外の場所の生態系の構築と、そこに生息する生物やモンスター達。

 そして、イリーナ達が去った後に自然の具現として環境維持の役割を担う予定の格のあるモンスター達の配置である。


 特に強大な存在として力を振るうことになる自然の具現者、維持機構であるモンスター達はかなり早期にあちこちに配置した結果、見事に広がりつつあった植物などの自然環境に干渉し、ごく局所的に全く環境が違うという自然の有り様が不自然になるファンタジー特有の状態を引き起こしている。


 一番わかり易いところで言うと、砂漠北部の岩山が丸ごと緑地化された上に寒冷化されていることなどがあげられる。

 本来ならば砂漠近くの岩山として荒れた様相を呈していたのだが、植物の成長を加速させる能力を持つモンスターと、周囲に極端な寒冷化を引き起こすモンスターがそれぞれに訪れてその力を開放した結果、灼熱の砂漠の中に何故か極寒の緑あふれるエリアがあるという少々わけのわからない事態になっている。


 が、イリーナはそれでこそファンタジーの世界だと思っているので、そういうのは当然のように手を出すことなく傍観している。


 他にも既に自然環境がまだ完全に普及していない中で多数のモンスターを地上に放ち続けているので、あちこちで生存競争らしきものが起き始めている。

 格のあるモンスター達は、その自然の具現であり維持機構であるという特性上かなりの不死性と食事等の不必要性をナノマシンを最大限に活かすことで付与されているが、通常のモンスターや生物はその限りではない。

 まだ広がりが不十分な自然に対して草食性の生物やモンスターは十分に繁栄することが出来ず、それに合わせて肉食性の生物やモンスターもまた煽りを受けて厳しい生存競争の真っ只中にいる。

 ごく一部鉱物食とかいう変態モンスターをイリーナが入れているがそいつ等はそいつ等で結構好き勝手にあちこち掘ったりしている。


「つまるところ、後は時間が問題を解決してくれれば、そのときこそファンタジーの世界が姿を現す、ってわけよね」

「私達が2人で考えたところで限界はありますからね。後は、自然の淘汰がどう働くかと、ナノマシンに後押しされた自然がどこまで広がるかです」


 後はイリーナとマリーは時々手を加えつつもこの地球という惑星に命が溢れていく様を見ているだけでいい。

 まあそれに十年近くかかることになるわけだけど。


「ファンタジーのためなら、それぐらい待てる、ってものよね」

「ひとまず、今日も惑星に異常が起きていないか観測していきましょう」

「うん、そうだね。頑張ろう。いつかこの星が完成したとき、最前列でそれを楽しむためにもね」


~~~~~~~~


後2話です。

今日中に完結となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る