第20話 自然と触れ合う少年少女

本日4話目です

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 森に入った2人は、早速ずんずんと奥へと進んでいく。

 のではなく、服のポケットに入れていた石器のナイフで進路上の木に時々印をつけながら、ゆっくりと森の中を歩いていく。


『森の中に入るのは良いけど、いつまでも私達が助けると思わないでね? 森に入って迷わずに出てくる。これだって自然の中で生きていくための技術だよ』


 そうイリーナに言われた事を実行しているのだ。

 

「いないかなー、ミミナガウサギ。あ、カブトムシ!」

「おー、珍しいな。前見たの結構前じゃないか?」

「うん、あんまり見ないと思う」

「虫は数が多すぎて全然覚えられないよなあ」

 

 ちなみに動物などの名前については、イリーナ達の方針から、森に入ってすぐの場所で接触できる動物や虫などはイリーナ達があらかじめ命名しているが、それ以外の動物については自分たちで発見し名前をつける経験をしてほしい、ということで地球人たちで決める事になっている。

 まあまだその名付けられる動物に出会った人はいないのだが。


 この島に地球人が集まって1年ほどが経つが、元々イリーナの前世より未来の技術力の中で生きてきて、更にシェルターに籠もっていた地球人たちが野生での生活に慣れるのにはやはり時間がかかっていた。


 イリーナ達はそれについては仕方の無いことだと思っている。

 10何年も完全に整えられたシェルターの中に籠もっていたような人達が、いきなり地上に出て健全に動くことが出来るはずがない。

 だが同時に、そこに現れる若干の消極性については少しばかり懸念していた。


 地球人たちの中からリーダーシップを取ろうとするような人も現れず、あちこちでグループを作っては交流をしてはいるものの、積極的に屋外で眠ってみようなどと踏み出す者はまだ少ない。


 そんな中で、若さからか自ら森の中へと突入していく2人の姿は目立っていた。

 2人につられて少しだけ森に入ってみたりする者も現れ始めている。

 時々サバイバル術や自然の中での文明や科学の基本について講習を開くだけで、基本的には地球人の自主性に任せているイリーナ達も、地球人達の先駆者になってくれないだろうかと2人の様子を見守っている。


「あ、カカポだ!」


 そんな2人の目の前に、近くの茂みから1羽の飛べない鳥が姿を現した。

 カカポという、荒廃前の地球にも生息していた鳥である。

 2人にはそんな知識はないが、そんな2人でも知っていることがある。


 それは、カカポが異常に人懐っこいこと。

 今アイサが執心しているミミナガウサギと違って警戒心が一切無いのか、普通に2人に対しても近づいてくるのだ。

 実際のところはそういうカカポの生態を知っていたイリーナが、似た生物を生み出して地球人が最初に触れる動物として最適だとして森の浅い所に生息させるようにしているのだが。


「よーし良し、おいでー」


 そう言いながらしゃがみ込むアイサにカカポがトトッ、トトッと軽く跳ねるようなリズムで近づいてきて、そのままアイサの広げた腕の中におさまる。


「あー、柔らかくて可愛い~!」

「こいつらホント人懐っこいよな」

「ね! それに比べてミミナガウサギと来たらすぐ逃げるんだから」

「いや、それはアイサがあんな勢いで行くからだと思う。そっと行けば大丈夫だって」

「ほんと~?」


 アイサがもふもふのカカポの体を愛でつつ、シンゴも隣からその頭を撫でたりしながらアイサと話す。

 アイサは自分から突っ込んでいってしまうので、多分ミミナガウサギがビビっているのではないか、とシンゴは考えていた。

 実際シンゴが1人でミミナガウサギに接触したときは、そっと近づけば特に逃げることもなくシンゴに撫でられていたし、身体を擦り付けたりしてきた。


 もちろんそんなことアイサに言えば面倒なことになるのは目に見えているのでシンゴは口にしていないが。


「良し、じゃあミミナガウサギ探しに行こう!」


 しばらくしてアイサがカカポを解放し、立ち上がる。

 ちなみに他の地球人の中には、カカポがかわいすぎるために寝床まで連れて帰っている人もいる。

 

「アイサがずっと愛でてる間俺は待ってたんだけどな」

「うっ、でもカカポが可愛いのが悪いんだよ」


 年齢はアイサの方が上だが、シンゴの方が1人で育った分精神的に成長しているのか、外から見れば兄妹のように見えることもある。

 

 話をしつつ森の中を目印をつけながら進んでいると、2人は今度こそ目的の動物をに遭遇した。


「ミミナウッ!」

「アイサ、静かにって言っただろ。そうっと、そうっと近づけば逃げないから」


 ミミナガウサギを見つけて叫びそうになったアイサの口をシンゴが抑えて耳元に囁く。

 その行動にアイサの耳が真っ赤になるが、シンゴは気づかずにコクコクと頷いているアイサの口からそっと手を離した。


「そっと、そっとだよね」

「そう、ゆっくりゆっくりだ」


 シンゴが見守る中で、ちょっとだけ体勢を低くしてそっと感を出しているアイサがミミナガウサギに近づいていく。

 そして飛び出しそうになる勢いを抑えた手のひらが、そっとアイサの方を見上げるミミナガウサギの頭を撫でた。


「~~~~~!!」


 思わず叫びそうになったアイサは慌てて自分の口を塞ぐ。

 その様子を見ていたシンゴは後ろからサムズアップしながらその姿を見ていた。

 こうして初めて、アイサはミミナガウサギに触ることに成功したのだった。

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