第7話 脇役、勇者の孫娘と出会う。 上
さて、猛火の祝福を覚えた俺だが……そもそもの話、この『三カ国同盟学園選抜交流試合』では、どんな競技が行われているのかは、無論現世でこの作品を読んでいた読者として知らない訳が無い。
この交流試合では三つの競技に、それぞれの学校の一年生より、代表3名が出て競い合う事になる。競技は『知力競技』『魔法競技』『武術競技』の三つが行われる。
『知力競技』様々な問題、難題を解いて行く競技で、年度により宝探しだったり、脱出ゲームだったり、レクリエーション要素が多い頭を使う競技。
『魔法競技』自らの魔法により、指定されたお題に応えていく。魔法の威力だけでなく、いかに自由に操れるか、それらも採点される演技競技。
『武術競技』これ程単純な競技もあるまい、ただ磨き上げた力と武術をぶつけ合う、戦いの競技。指定された中では魔法も使って良しの戦闘競技。
原作ではナルは魔法競技にて優勝する流れとなっているが、今回は別に何も起こらないだろう。むしろ……ストーリー上で重要なのは『参加する事』にあるのだから。
で……原作ではコイノスが出る筈の武術競技に俺ことギニス・サーペンタインが、代役で出場する事になる。
武術競技、戦い、試合……久々に現世のような戦いができるかもしれない。あ?仮にも享年25歳の大人が、ガキの出る競技で本気になるなんて大人気ないだって?馬鹿言え……精神や魂が大人でも肉体は15歳のガキだ、さらに言えば、俺程度が本気出して1位になれるほど、この競技が甘くあるものか。ここに出場する奴は上澄も上澄、現世で例えるならオリンピックだとかプロに誘われるような化け物揃いなのだから。
そんな化け物の巣窟に飛び込むわけで、此方もコンディションを整えなければなるまい。それはそうと……原作ではもう退場した俺ことギニスが代役で出場するわけだが、じゃあコイノスの成績は?と、なると、確かベスト8あたりだったとうろ覚えだった気がする。
何せナルの魔法競技が主軸にストーリーが動くので、台詞や地の文でのみの描写しか、ユリウスとコイノスの成績は出て来なかったからだ。
じゃあコイノスと同じ、原作通りベスト8止まりになる気か?と言われたら俺は首を横に振るだろう……やるからには一位を取りに行きたい、最初こそ適当に他のやつを出しとけよと校長に吐かした癖して、いざ自分が出るとなり日が近づけば、やる気に満ち溢れて来たのである。
何しろ、メインストーリーでも好き勝手できそうな唯一の章だと気付いたからだ、今の自分がどれだけやれるか試したくもなってしまったのである。
とはいえやる事は変わらない……スタミナを維持して、いつでも動けるよう筋肉痛を残さず当日を迎えるスケジュール管理を徹底して、一年選抜まで鍛えた。その間は正しく平和そのもの、何もアクシデントやイベントも無く、その日を迎えるのであった。
ーーーー
「よーし、集まったな代表3人」
「はい」
「はい!」
「うーっす」
特待クラス担任のウェルが、ナル、ユリウス、そして俺ことギニスに呼びかける。今回の引率は彼らしい、これから代表3名と引率の教師ウェルで、今年の一年選抜開催の国へ前乗りで向かう事になり、全員が朝早くに学校へ集合する事となっていた。
毎年開催国はローテーションで受け持つ形になっていて、去年はベラムだったが今年は他所の国というわけだ。敵国ではないが
「なんだギニス、気が抜けた返事だなぁ?代表としてしっかりしろ」
「あー……ちょっと寝覚め良くなくて、なんとかします」
ウェル先生に指摘を受けたが、それだけ寝覚めが何故かよく無かった。まだ瞼が重い、移動は馬車らしいから寝ておきたいなと感じるくらいに眠気が強かった。
「では、これより私が引率で、キミ達一年代表を隣国のホールダーグ王国へ連れて行く、くれぐれも向こうで問題を起こさないように」
部活の試合みたいだ、まぁ俺は帰宅部でジムに通っていたので想像でしかないのだが。そのままウェル先生に連れられ、俺達は馬車に乗せられる。先生は御者席に乗り、俺達は3人で車内に乗せられた。
なかなか広い、席も柔らかなマットが敷かれている中々にいい車内に王子様と英雄の孫、そして簒奪者の子爵3人が詰められ、これから長旅に揺られるわけである。
ナルとユリウスは隣同士に座り、その対面の席を俺が1人占領する形になった。正直気まずい事この上無い、そもそも王子が広く使うべきではと考え、俺は動き出した馬車の中で尋ねる。
「王子、こちらと替わりますか?広い方がいいでしょう?」
「いや、気にしなくていい……キミは我々より巨軀だからね?」
逆に気を遣われてしまった、その通りである。これは聞いた話だが……俺はベラム王国立魔法学校で一番背が高いらしい……というか……魔法学校の生徒全員見下ろしている程身長差がある。
恐らく今の俺の身長は……185cmだろう、高校1年の時から背だけは高かったのだ。なお、俺のプロ時代での身長は188cmな為、仮に現世の俺の肉体と同じになるまで伸びるならば、残り3cmしか伸びない事になる。
ここまで原作のギニスから逸脱してしまうのか、もしかしたら成長したギニスはここまで背が高くなるかは知らない、図体だけはデカくて別に運動やらは得意では無かったし、部活もやってなかったが、ジムに通ってアマチュア試合には参加したりしていた。女っ気も友人も居なかった学校生活を思い出しながら、しばらく静寂が続く。
「ところで聞きたいのだが……」
「は……」
今、声を掛けられたのは俺か?ユリウス王子の声を聞いて、俯いていた顔を彼に向ければ視線も顔も向けられていて、俺に声を掛けたと理解して、緩んでいた姿勢を正した。
「何ですか、王子」
「本当にキミは……ナルに勝ったのか?ナルを知る私からすれば眉唾な事でね?」
それ……この場で聞くか王子様よ?仮にも当事者2人が同乗しとるんやぞ、聞くならどちらか片方ずつ呼び出して聞いた方がと、多分今俺の顔は面食らって真顔に固まりついていると思われる。
これ、俺が言わなきゃダメか?俺はユリウスの隣に座るナルへ目線を送ると、ナルは溜め息を吐いて言った。
「ユリウス、あれは俺の完敗だよ、俺は驕りたかぶって何も見えていなくてな、その隙を突かれたんだ」
「そうなのか、キミがそう言うなら真実なんだろうな」
すまんナル、後で埋め合わせさせてくれ。こんなの俺もお前も2人して話したくない事だったろうに。ナルが右手で顔を指でなぞる……しっかり治したがやはり思い出して疼くのだろうか、改めてやり過ぎたと俺は自省した。
それ以降……俺達は会話を交わす事は無く、中々の時間が経過した。ナルは窓から景色を眺め、ユリウス王子は知力競技の予習か書物を眺めて、俺は……寝たり起きたりを繰り返す。乗った事は無いが、ネットやSNSで語られる夜行バスはこんな感じなのだろうか?ふかふかのマットすら、意味をなさなくなりそうなくらいに尻が痛くなる。
昼に一度休憩を挟み、また夕方まで止まらず馬車に揺られ……そして、途中の宿場町へ俺たちは辿り着いた。
「よーし、これから朝に出たら昼前には着くからな、宿は取っておいたから休むように」
中々にいい宿なあたり、王子に配慮しているらしい。そんな王子も疲れが見えるのか黙っている、そしてナルは……。
「んー……流石に体が凝るなぁ」
「そんな風には見えねぇぞ?」
身体のあちこちを動かしてはいるが、疲弊してない。こいつもしかして『長旅でも疲れない魔法』とか掛けてたんじゃあないかと疑いたくなった。
「ああ分かってるが、ここには他校の生徒もこの宿や宿場町に居るからな、喧嘩なんてしたら出場取り消しだから気をつけろ?まぁ、無いとは思うが……」
運動部系の部活らしいな本当に、そんな注意をウェル先生が言ってきて、俺たちは解放された。後はもう寝るだけだなと、さっさと俺も部屋に向かった。
部屋まで向かう最中、すれ違う者達も此度の選抜試合に出るらしい学生のようで、同じ服やら校章の制服を見かける。鍵の番号と扉の数字を確認して歩いていると。
「痛っ」
「あっ!すみません」
柔らかい壁にぶつかってしまった。よそ見していたのは自分で、そのまますぐ謝ってぶつかった相手を見る。
「こちらこそすいません……」
「いやいや、俺こそ申し訳……」
ぶつかったのは女性、黒い長髪のその女の子もまた、申し訳なさそうにしてこちらに謝罪をしたのだが……違和感に俺は包まれた。
なーんかおかしいぞ……しばらく互いに無言となりながら、俺は重要な事に気付いたが、それよりも先に俺は口に出してしまった。
「うおっ……でっか……」
そして彼女もまた、呑気に返してきた。
「まぁ……大きい……」
そう、俺はこの世界で久々に、目線を下げずに相手と目がそのまま合ったのである。すなわち、この目の前に居る黒髪の女性も、俺と同じ180cm代の身長だという事だ。
そして『賢者無双』において、こんな巨躯、更には『練炭髪』を持つ美女は1人しか居ない。
彼女の名前は『アイリス・ベルナンデ』
この世界における、ナルのハーレムの1人となる女であり、ナルの祖父エブリスと共に魔神達と戦った英雄の1人……『勇者の孫娘』その人であった。
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脇役憑依の運命打破(わきやくキャラのシナリオブレイク) カズシン @kazjr
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