第3話 見た目は外国人、だけど中身は日本人。

「磯崎さんのお宅であってますか? 今日からお世話になります!」


既に太陽の主張も激しい月曜の朝7時半過ぎ。

やたら爽やかで場違いな少年がそこに居た。

派手な金色の頭の半分は綺麗なピンク色で、白人特有の抜けるような白い肌にそれがよく似合っている。

少し開けた引き戸から顔を覗かせたまま、蓮花は少し固まった。

両サイドに反射板でもついてるのかと思う程無駄にキラキラした相手に対して、今の蓮花は着古してヨレヨレのTシャツにウルトラストレッチのスウェットパンツ、化粧もしてない、髪は一つに束ねてバンスクリップで留めただけ。

だが出ない訳にも行かない。

どうにか外に出られる格好に今から着替えるというのも時間がかかる。

はあ…と蓮花は溜息をついてから、思い切って玄関を開けた。

「とりあえず、ドウゾ…」

門扉を開けると、大きなキャリーバッグが1つ見えた。目に痛い程に派手な濃いピンク色のキャリーバッグには、たくさんのカラフルなステッカーが貼られている。

「お邪魔しまーす!」

ガラガラと大きな音をたてるキャリーバッグに重なるように、よく通る声が響く。

靴を脱ぐように…と知らせる間もなく、彼は器用に靴を脱いで手で揃えた。

「とりあえず、そっちへ」

手で台所がある方を示す。

奥の和室に荷物を置いて、お茶でも出そうかと台所へ行く。

「適当に座ってて」

そう言うと彼はちょこんと台所のテーブルについた。

くりくりとした大きな目を興味津々といった風にあちこち見まわしている。

目が合えばにこにこと微笑む様子はまるで王子様だ。


(本物の王子様を見たことがないから、知らんけど。)


そんなことを思いながら、蓮花はお湯を沸かした。

「玄米茶でもいい? ごめん、紅茶かコーヒーの方が良かったかもしれないんだけど、用意してなくて。あとで買い物に行くから…」

「お構いなく! うちでもずっと日本茶だから、お茶大好き」

「そうなの? ならいいけど。あ…粗茶ですが」

「ありがとう」


月曜の朝っぱらから見知らぬ外国人と玄米茶を飲みながら、ほんの軽く自己紹介などをした。

この派手な頭の少年は優斗と名乗った。

途中の名前は色々と長く、苗字はガルシア。だから普段は優斗=ガルシアと名乗っているのだと言った。

一応日本生まれでメキシコ育ちのアメリカ暮らし、長い夏休みを利用して親戚のツテを辿ってあちこちで「日本体験」をしているらしい。


若いって、いいわね。


そんな年寄じみた言葉がふと浮かび、蓮花は無気力感が増すのを感じた。

「それで、えっと、俺はあなたを何て呼べばいいかな。蓮花さん、で構わない?」

「いいですよ、それで。優斗君でいいのかな」

「はいっ! 優斗君でも、優斗でも。それと、俺すごく奇行が多いけど、あんまり気にしないで。嫌だったら言ってね、やめるから」

「……奇行?」

ぱっと見は礼儀正しい普通の少年に見えるけど。と蓮花は首を傾げる。

なにせ田舎の一軒家。家の中で花火やBBQさえしなければ、少々飛び跳ねようが走り回ろうが許される。

「よくわからないけど、家の中で火を使わなければそれでいいわよ」

そう言って、蓮花は玄米茶に口をつけた。

自分用ではないそれは、いつもよりずっとあっさりと薄く、お茶の香りがするお湯を飲んでいる気分になる。

(少し薄すぎたかな…)

そんなことを思った。

やんわりと眠気がやってくる。普段ならゴミを出したらやっと眠れるとばかりにベッドへ飛び込んでいる時間帯だ。

「移動で疲れてるだろうから、あなたも少しゆっくりするといいよ。閉まってる部屋以外は、1階は好きに使ってくれて構わないから。何かあったら呼んでくれる? 私の部屋は2階。電話の子機で呼び出してくれてもいいし、大声で呼んでくれてもいいから」

「わかりました。しばらくお世話になります!よろしくお願いします」

にこやかに返す笑顔を見て、少しだけ胸が痛む。

自分の物言いが随分と突き放していて、まるで「来られて迷惑してる」と言っているような気がしたからだ。

言い直した方が良いだろうかと一瞬躊躇い、蓮花はただ「こちらこそ」とだけ返した。

今のも不愛想だっただろうか…と自分の態度が自分の心に引っ掛かる。

自分で生み出したトゲが自分に刺さる気がして、そそくさと2階へ上がった。

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【不定期更新】14日間の恋人 なごみ游 @nagomi-YU

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