第6話



「やっぱり、やめとく」


 お茶を飲みながら彼女は言った。


「ねぇ、ハルが居なくなって、もう半年よ。いつまでも悲しんでいちゃ良くないよ」


 彼女の言葉に対して幼馴染が言った。


「うん、でも、ハルのこと、やっぱり忘れられない」


「そうかぁ」


「でも、時々、あの子達に会いに来ても良い?」


 そう言って別れた日は一週間前のことである。

あの子、私をじっと見つめてた。

亡くなったハルを思い出すと同時に、あの小さな子犬を思い出す。

彼女は幼馴染に電話をかける。


「お茶を呼ばれに行っても良いかな?」


 幼馴染はもちろん快諾である。

幼馴染の家に行く途中でケーキ屋さんに寄ろうとするが、その近くにペットショップを見つけたので、子犬用の缶詰をいくつか買う。


 呼び鈴を鳴らすと、


「いらっしゃい」


「うん、これ」


 と言ってお土産の缶詰を手渡し、招かれるままに家の中へ入る。

幼馴染は、


「まぁ、座って」


 とキッチンへ案内するが、


「五匹ちゃんに会いに行っても良い?」


「あ、良いよ。その間に紅茶を淹れておくわ」


 彼女はそそくさと子犬達がいるリビングへ向かうが、幼馴染はその背中に向かって、


「五匹じゃないよ、今は三匹だから、里子先が見つかったの」


 その言葉を聞いた途端、足が止まり、心臓が高鳴る。


「うそ、でしょ」


 そう一人で声を漏らしながらも、リビングへ恐る恐る歩を進める。


 リビングの扉を開けると、母犬のお腹に顔を埋めて、三匹の子犬達が眠っている。

彼女が近づいても静かに眠っている。

そっと呼んでみる、


「ハル?」


 と、突然、頭を持ち上げた子犬がいる。

子犬は、お母さんを見つけると、小さな足で、何度も転げながら彼女めがけて走ってくる。


 彼女は両手を広げて正座する。

その膝に飛び乗ろうとした子犬を抱き上げて、


「ごめんね、待っててくれたんだよね」


 その姿をリビングの扉にもたれながら見ていた幼馴染が言う、


「電車で来たんでしょ? 家まで車で送るわ、それで良いわよね、お二人さん?」


                 



                 終わり

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わんわんのお里 2 織風 羊 @orikaze

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