第15話 通信

     ☆


 オリバーは、リリーが帰るのを見届けたあと、南側の窓際に立った。彼女が来たころは、太陽が一番高い位置辺りに来ていたが、西のほうに三十度ほど傾いている。


 空は心地の良い午後の雰囲気を作り出しており、オリバーは僅かに笑みを浮かべながら、ゆったりとした心地で庭を眺めていた。

 特に何かをする様子はない彼だったが、おもむに服の下に隠していたペンダントを出すと、その表面を指で二回タップする。


 一瞬だけ、ペンダントが金属の部分の縁をなぞるように光が駆け抜けたが、それ以外の変化はない。オリバーは、ペンダントから手を離すと話し始めた。


「やあ、フェリー。元気にしているかい? 今、君はどこにいるの? ああ、日本ね。ついに、時が来たんだね」


 相手の声は部屋には聞こえず、オリバーの耳の辺りにも、特に音声器具は見当たらなかった。

 だが彼には聞こえているようで、気にせず話を続ける。


「上手くいくことを祈っているよ。え? 僕? ああ、今日は良い報告をするために連絡をしたんだ。そう、管理者の話さ。君に代わって、後任者を探したんだ。少しはねぎらってほしいね。え? そうだよ、適任の子を見つけたのさ。そうじゃなきゃ君に連絡しないよ。誰かって? アンのところのお孫さんだよ。僕の後任も一人いる。今の世の中難しくて、本当に秘密を守れる人って少ないからさ。うん、遺伝の研究も使わせてもらってね。まあ、考えが近すぎる可能性は否定できない。でも、二人くらいは大丈夫じゃないかなって思っている。駄目なら、あの人が何とかしてくれるよ。……え? ああ、女の子だよ。確か、二十三歳くらいだったと思うけど? うん。若いよねぇ。名前は会ったときに直接聞いてよ。話は今日、付けたからさ。ええ? そんなことないよ。善は急げっていうだろう? それを実行したまでさ。うん、うん。彼女からの返事? 一旦保留にすることになったんだけど、彼女は『Yes』と言ってくれるよ。絶対さ。……僕がそうなるように願っているだけだって? もちろん、それもある。万一断るようなことがあれば、彼女の場合は塔の話について記憶を消さなくちゃいけないからね。僕としてはつまらないけど、好奇心というのは危険だから。……ちょっと、六十年前の話を持ち出さないでくれる? これでもすごく反省しているし、傷ついてもいるんだから。まあでも、ジョンの自由さも相まって、管理者にのいい薬になったよ。そうそう。このことを話したんだ。良い題材か。まあ、一理あるけど今はもっと複雑で大変だよ。君も分かるだろう。え? ああ、後任の子のこと? ふふ、きっと君も気に入るよ。飲み込みも早いしね。彼女のお陰で仕事の負担が少し減るんじゃないかな。あとは運だけど、君がいるうちに、『あの世界へ行った彼が残したもの』を片付けられるといいよね。そうすればさ、僕たちの後を継ぐ子たちの負担が、少しでも楽になると思うから。あはは、そうだったね。それは君が今一生懸命にやっているんだった。少しでも早く舞台が整うことを祈るよ」


 そのとき、ドアが三回ノックする音が聞こえ、開いたかと思うとクロエが顔を出し、ぶっきらぼうに言った。


「オリバー、時間ですよ」

「ああ、今行くよ。ありがとう」


 オリバーはカーテンを閉め、ポケットに入っていた鳥をデスクトップパソコンが置いてある机の引き出しに入れる。


「クロエに呼ばれたんだ。このあと予定が入っていてね。フェリー、また近いうちに会おう。うん、じゃあね」


 彼はペンダントの表面を軽く一回叩くと服の下にしまい、自分の部屋を後にするのだった。


(完)

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オリバー・スミスの謎 彩霞 @Pleiades_Yuri

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