第14話 勧誘
「……へっ⁉」
急によく知っている人物の名前が登場し、リリーは目を丸くした。
だが、彼女の驚きが引くのを待たずに、オリバーは
「そして、もう一人。私以外の後継者を必要としている者がいるのです。本当ならば、前任者と後任者が
「つまり……、私が『塔の管理者』になるということですか?」
「そういうことです」
オリバーは柔らかな笑みをうかべてうなずく。彼は最初からリリーに「塔の管理者」の勧誘をするために、この話をしたのだ。
いや、そうではない。話は元々祖母から始まっているのだから、二人は
「えっと、光栄ですけど……、それなら最初から『塔の管理者になりませんか?』と言ってくださればよかったように思うのですが……」
随分と回りくどい勧誘の仕方に、リリーは視線を泳がせた。
だが、オリバーは彼女の反応が想定済みだったのか、特に慌てた様子もなく理由を話してくれる。
「一つは、あり得ないようなことを受け止めてもらえるかどうかという資質を、念のため試しておりました。塔のことは、どこかファンタジー要素を秘めていて、信じられるかどうかは実際に話してみないと分かりませんからね。もう一つは、塔に執着する者がいることも知っていただきたかった」
リリーははっとした。
「それがトーマス……」
「そういうことです。私が彼に暴力を振るわれていたことをあえて話したのは、それほどに執着する人間が存在することを示したかったからです。リリーさんは、どうしてトーマスが『塔の管理者』になりたかったと思いますか?」
オリバーの問いに、リリーは眉を寄せた。それは話の最初のほうで教えてくれたことではなかったか。
「おじいさんから話を聞いていて、受け継ぎたかったから……ではないんですか?」
おずおずと答えると、オリバーは複雑そうな表情を浮かべる。
「それもあったでしょうけれど、理由はそれだけではありません。彼は実業家ですからね」
トーマスが実業家であることと、「塔の管理者になりたい」ということがどう関係するのか分からず、リリーは小首を傾げた。
オリバーは気にせず、話を続ける。
「トーマスは、塔の先に別の世界があることだけは分かっていました。塔には八つの扉があって、一つはこちらの世界と塔とを繋ぐもの、それ以外の七つの扉は異世界へ通じます。トーマスは繋がっている異世界がどのようなところかは知らなかったようですが、世界がある限りいかようにも使い方があると考えたのでしょう。例えば、あちらの世界がこちらの世界よりも技術が進んでいたら?」
リリーは彼の問いかけの意味対し、唇を
「……この世界の科学……だけじゃない。経済にだって影響はあるし、政治にだって……」
だが、それ以上は言えなかった。
地球上でさえ、利益になるものの
「そういうことです。ですから、私たちは慎重にならなければなりません。ちなみに現在は、六十年前に当たり前に使っていた、向こうの世界の技術は、逆に使いにくくなりました」
「何故ですか?」
「万が一手に入れられて、分析されたら大変なことになるからです。現在地球上では、量子理論の研究が盛んですが、向こうの世界では私たちの想像以上に、全てのものが先に進んでいます」
「なるほど……。そういえば、オリバーさんが使っていた道具の技術を教えてくれた世界は、どういうところですか?」
気になって尋ねてみると、オリバーは再びあの「それ以上は言えません」という笑みを浮かべた。
「塔の話はこれくらいにしておきましょう。この件について塔の管理者以外の方に語るのはリスクの高いことですからね」
彼はそう言うと、金色の瞳をすうっと細め、リリーを見た。彼女はどきりとして、思わず身を引く。
「さて、改めてリリーさんに問います。私たちの仲間となり、来るべき日まで塔の管理者になるというのはいかがですか? もちろん大変なこともありますし、危険も伴います。ですが、私はリリーさんにはその素質があると思うのです。正義感と好奇心が、丁度良いバランスで存在しているのですから。ああ、もちろん、給与も以前勤めていたところよりもいい条件を提案いたしますし、仲間になっていただけたなら、他の世界についてもお教えいたしましょう」
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