SSー4 エルタ、最弱の魔物と友達になる

 「今日は新しい発見があるかな~」


 エルタがルンルンで林道を歩いている。


 ここはアステラダンジョンの“とある森林”。

 最近、エルタが探索にハマっている場所だ。


 エルタがダンジョンに落ちて、約八年。

 未だアステラダンジョンに閉じ込められているが、すでに最強クラスになっていた。


「ふんふふ~ん」


 木の棒をプラプラさせながら、エルタはスキップをしている。

 いかにもご機嫌な様子だが、周囲は全くそうではなかった。


「グギャ……」

「ギャオ……」

「グオォ……」


 獰猛どうもうな魔物たちは、いつでも襲いかかる準備が出来ている。

 無防備なエルタを虎視こし眈々たんたんと見つめ、機会をうかがっているようだ。


 常に弱肉強食の世界において、魔物が呑気な者を見守るはずがなかった。

 最強と噂されるエルタが油断しているなら、首を狙うのも当然だ。


 そうして、魔物たちが一斉に襲いかかる。


「「「ギャオオッ!」」」


 対して、エルタは一言。


「ほんとにる?」

「「「……ッ!」」」


 エルタは、ただチラリと目を向けただけ。

 それだけでとてつもないオーラを発し(無自覚)、魔物たちはピタっと止まった。

 それから、ブルっと体を震わせて退いていくのだった。


「……あれ?」


 ただし、エルタは本当に尋ねただけだった。

 かくの意思はまるでなかったが、勝手に魔物が退いていったため、拍子抜けになってしまった。

 

 と、そんなエルタの元に、一匹の魔物。


「ぷるっ!」

「ん?」


 足元にぴょんっと、水色の球体のような魔物が飛び出してきた。

 体はぷるるんっとしており、小さい。


「これはもしかして、スライム?」

「ぷるるっ!」


 出てきたのは──スライムだ。

 師匠であるフェンリルのフェンによると、最弱の魔物だ。

 だが、戦闘の意思を示している。


「僕と戦うの?」

「ぷるっ!」

「んー……」


 威勢を張っているが、エルタはどうしてもきょうに感じない。

 むしろ“かわいい”と思ってしまった。


 そこで、しゃがんで手を伸ばしてみる。

 

「おー、よしよし」

「ぷるぅっ!?」


 しかし、スライムは攻撃されたと感じたようだ。

 スライム視点ではあまりに強大なエルタに、スライムは逃げ出した。


「ぷるーっ!」

「あ、待てー! って、あれ!?」


 だが、走る途中でパッと姿が見えなくなる。

 スライムの能力なのかもしれない。

 ただし、その程度ではエルタからは逃げられない。


「むむむ……そっちか!」

「ぷるっ!?」


 足音、気配、進行方向、まさに“野生の勘”で正確にスライムを追う。

 姿は見えていないはずなのにだ。


「ぷるるーっ!」

「逃がさないぞー!」




 そうして、追うことしばらく。


「多分、この先に行ったよね」

 

 巨大な石壁を眺めながら、エルタはつぶやいた。

 スライムは見失ってしまったが、最後の気配はここで途切れていたのだ。


「あ、隙間がある」


 すると、下の方にほんの少し隙間を見つける。

 サイズ感を考えれば、ちょうどスライムが出入りできそうだ。


「ははーん」


 スライムの逃げ先を勘づいたのだろう。

 ピンと来たエルタは、ぐっと拳を後ろに引いた。

 

「そこに隠れたんでしょ!」


 そのままボカーンと巨壁をぶっ壊した。

 すると、そこには大量の・・・スライム達が。


「え!」

「「「ぷるぅっ……!?」」」


 巨大な壁の向こうには、スライムの集落が広がっていたのだ。

 ただし、家々はスライムにサイズ感に合わせて小さめだ。


(か、かわいい……!)


 それがまた愛おしく思えた。

 しかし、スライム達はエルタにおびえている。


「あ、あの……」


 急に集落を隠していた壁をぶっ壊されたのだ。

 恐怖を感じるのも無理はない。

 そんな中で、白い髭を伸ばしたスライムが話しかけてきた。


「わしは村長スライム! 一体何をしに来られたのだ!?」

「あ、話せるんだ。僕はエルタです」

「存じております」

「え?」


 スライムにもエルタの名前は知れ渡っていた。

 エルタも少し戸惑うが、質問に答えた。


「ごめんなさい、襲いに来たとかじゃくて。ただスライムを追ってたらこんな場所に着いちゃって……」

「攻撃の意思は無いと? あの・・エルタ殿が?」

「うん。どのエルタかは分からないけど」

「ふむ……」


 この魔境でも“最強”と噂されるエルタ。

 スライムからすれば、とんでもなく恐ろしい人物に思うだろう。

 だが、実際に目にしたエルタは確かに優しそうだった。


「僕はそんなことしないよ」

「ほ、本当でございますか……」

「本当だよ。それにしてもここは?」

「……うっ」


 エルタを信頼したのか、誤魔化す方が怖かったのか。

 とにかく村長スライムは話し始めた。


「ここはスライム達で密かに暮らす集落です。どうか秘密にしてもらえたら」

「わかったよ」

「ですが、最近危機に陥っておりまして」

「危機? 詳しく聞いても?」


 そうして話を聞くと、集落の状況は悪かった。


 スライム達は、単純に弱い。

 直接魔物を倒せないので、普段はコソコソと死骸などを漁っているらしい。

 途中で姿を消したのも、生き抜くために身に付けた技能だそうだ。


 しかし、最近はなぜか死骸すら取れなくなってしまった。

 そのため集落全体が食料危機になっているという。


 それを聞き、エルタは思い当たる節がある。


「あー、もしかして僕のせいかも」

「エルタ殿が?」

「うん。最近よくこの辺に来るんだけど、魔物たちがなぜか逃げてしまって。それで争いが減っちゃったのかなあって」


 普段ここで争う魔物たちは、エルタから逃げるのに必死だった。

 無自覚にオーラを発しているエルタは、散歩をしているだけで生態系を変えてしまっていたのだ。


 そうして、エルタがスライムの行動の意図を知る。


「だから、さっきのスライム君は遠出をしていたんだね」

「そうです。彼は勇気を振り絞って、獲物を探しに行ってくれたんです」

「ぷるぅ……」


 すると、そのスライムが近寄ってくる。


「あ、スライム君。さっきはごめんね」

「ぷるっ!」


 エルタはスライムを撫でながら、少し考える。

 生態系を壊したのも、集落を突き止めてしまったのも、自分が悪かったと。

 それから、かわいいスライム達を救いたいと思ったようだ。


「じゃあ僕が協力しようか?」

「エルタ殿が!? い、いいんですか!?」

「僕も悪かったし、暇だし」

「では、ぜひお願いします!」


 村長スライムに合わせて、スライム達もペコリと頭を下げる。

 球体なので分かりにくいが、多分下げた。

 それから、村長スライムは様子をうかがいながら提案する。


「よければですが、我々の念話に入りますか?」

「会話できるってこと!? うん、お願い!」

「では……【念話の輪おしゃべり】!」


 かわいいスライム達と話せると、エルタはウキウキで答える。

 すると、途端にスライム達の声が聞こえてきた。


『こんにちはー』

『あのエルタさんだ』

『怖かったけど優しそー』


「わあ! かわいい!」


 さっきまで怯えていたが、村長が認めたからか友好的になっている。

 この警戒心のなさが最弱の所以ゆえんかもしれない。

 それでもエルタは、かわいいからどうでもよかった。


「よろしくね! みんな!」


『うんー!』

『よろー!』

『友達ー!』


 こうしてエルタは、スライム達と共に自給自足の方法を考えることにした。




「これを土に植えたらどう?」


 まずエルタが持ってきたのは、とある実。

 この種を植えるだけで、時間が経てば色んな種類の果物になるという。


『これは“鬼ヶ山”で採れる実ですか!? こんな貴重なものをいいんですか!?』

「いいよー、鬼神さんに言えばくれるから」

『ええ!?』


 スライム達は、果物をゲットした!




「近くの川から水を引いたらどうかな?」

『我々では難しそうで……』

「フンっ!」

『ええ、できたあ!?』


 スライム達は、水源をゲットした!



 それからも、エルタはとことん集落を手伝った。


「安全な道を考えよう!」

「狩りを覚えよう!」

「みんなで必殺技を作ろう!」


 そうして一か月が経つ頃には、スライム達の自給自足が成り立つようになっていた。


『『『今日もいっぱい獲れたねー!』』』

「すごーい!」


 かわいいスライム達、と精神年齢が同じのエルタ。

 彼らは今日も食料を持ち帰ったみたいだ。

 そんな夢のような状況に、スライム村長さんは涙を流していた。


『エルタ殿、本当にありがとうございました!』

「ううん! 僕も楽しかったから!」


 だが、そこに魔物の影が現れる。


「グオオオオオ!」

『『『ぎゃあー!』』』


 とてつもなく大きな魔物に、スライム達は悲鳴を上げる。

 魔物は間髪入れずに襲いかかってきた。

 だが、魔物は後ろから・・・・気絶させられる。


「ふむ、エルタはここに出入りしていたか」

『『『え!?』』』


 魔物が倒れ、後ろから姿を見せたのは、高貴なただずまいをした白い神狼。

 エルタの師匠であるフェンリルのフェンだ。


「あ、フェン……」

「最近帰りが遅いと思えば、こんなところにいたか」

「う、うん。ごめんね」


 寝食を共にする二人だが、エルタはスライム達との約束を守り、フェンにも集落のことを伝えていなかったようだ。


「で、お前達がエルタを……」

『『『ひいー!』』』


 チラリと覗き込んだフェンに、スライム達はビビる。

 だが、エルタがバっと間に入った。

 

「ダメだよフェン! スライム君たちは困ってたんだ!」

「フッ、わかっておる。エルタが大切にしているものを無下にせんわ」

「え?」


 だが、フェンはむしろ提案をした。


「この場所はバレ始めている。ならば、魔物が近寄らないように我らの縄張りとしよう。スライム達は食料を得る手段は得たのだろう?」

「フェン……!」


 先ほどの魔物もスライム集落を狙ってきた。

 もうそんなことが無い様に、フェン自らが守るという。


「だが、たまに植物を我らに分けてくれ。その分、我らからは肉を差し出そう」

『『『お肉ー!?』』』


 さらに、集落で採れた物と、フェン達が倒す魔物の肉と交換する。

 スライム達にとっては、これ以上ない条件だった。

 エルタとスライム達は、共に感謝をする。


「ありがとうフェン!」

『『『ありがとー!』』』

「フッ、我は高貴な種族。その程度で別に嬉しくなんか……ワオーン!」


 感情が高ぶったフェンは、嬉しそうに遠吠えを上げた。

 スライム集落は、もうこれで心配ないだろう。


「じゃあ定期的に遊びに来るね!」

『『『うん-!』』』


 ひょんな出会いから、最弱の魔物スライム達と仲良くなったエルタ。

 エルタとスライムが協力して、一件を起こすのはまた別の話である。


 こうして、エルタに新たな絆が生まれましたとさ。





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久しぶりのSSですが、お読みいだたきありがとうございます!

まだの方、面白かったらぜひ★★★で評価をお願いします!


今回はエルタ君がダンジョン最下層にいる時のお話でした!

スライムってかわいいなと思って書きました笑。

読者の皆様も癒されていると嬉しいです!


そして、今回の話のような新作を上げてます!

少年テイマーとスライム達が活躍する物語です!

下記URL↓、もしくは作者ページよりご覧いただけます!

新作もどうぞよろしくお願いします!


魔境の森に捨てられたけど、最強のテイマーになって生還した~外れギフト【スライムテイム】はスライムを“無限に”テイムできるぶっ壊れチートみたいです~

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【本編完結】ダンジョン最下層に落ちた少年、最強になって10年ぶりに地上へ帰還する~ほそぼそと生きたいだけなのに、出世した幼馴染たちが放っておいてくれません~ むらくも航 @gekiotiwking

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