SSー2 また六人で

 『エルタがアステラダンジョンへ向かった』


 そんな号外が、王都中に出回った。

 

 エルタが地上へ帰還してから数年。

 今や、エルタを知らない者はいないほど、彼の人気は凄まじい。


 そんなエルタが、いよいよ最難関ダンジョン『アステラダンジョン』へ向かったのだ。

 ニュースが一瞬で広がるのは当然だった。


 そして、さらに驚くべきはパーティメンバーだ。


 目立つ金髪をなびかせ、王都の為に剣を振るう『氷の騎士』。

 王都騎士団“団長”──セリア。

 

 学生時代は生徒会長を務め、その後教師となり、史上最速で教頭まで上り詰めた文武両道の鬼。

 王都エトワール学院教頭・・──レオネ。


 魔装の開発者にして、さらに最前を駆け抜け続けるトップ探索者。

 ナンバーワン探索者──ジュラ。


 何人もの英雄的存在を幼馴染を持ち、背中を追いかけ続ける少女。

 王都エトワール学院“教師”──ティナ。


 王都の全てを集めたような、錚々そうそうたる面子だったのだ。

 加えてもう一人いたという噂もあるが、定かではない。

 しかし、そのメンバーに混じれる者となると、相当な実力者だろう。

 

 ただし、反対の声も少なくなかった。

 もし彼らを一気に失えば、王都は大混乱するからだろう。

 そんな反対を押し切ったのは、主に二人が声を上げてくれたからだ。


 色んな意味で伝説を持つ女性。

 王都エトワール学院“学院長”──ビルゴ。


 団長は譲ったが、今なお騎士をまとめ上げる存在。

 王都騎士団“総括”──シュヴァ。


 王都で長らく貢献してきた彼らが、「行ってこい」と後押ししたのだ。

 そして、エルタ達はアステラダンジョンへと向かった。


 ただ、二人も心の中では思っていた。

 たとえエルタ達でも、相当厳しい戦いになるだろうと。

 二人を含め、王都の民は彼らの帰還を願った。




 そんなエルタ達は現在──


「久しぶりのモフモフだ~!」


 モフモフに包まれていた。


 エルタを中心に、思いの外スムーズに進んだ一行。

 最後の扉を開けた先に待っていたのは、エルタのトモダチだった。


「フェン、久しぶり!」

「エルタ、エルタァァァァ!」


 再会を果たしたエルタとフェンは、すぐさま抱き合う。

 また、それをトモダチはじーんとした表情で眺めていた。

 この時をずっと心待ちにしていたのだろう。


 対して、エルタのパーティーメンバーはというと──


「「「……」」」


 後ろで固まっていた。


 普段は人々を引っ張る存在の彼女達が、口を開けてぽかーんとしていたのだ。

 フェンと同じ姿の生物を知っていたからである。


(((いや、フェンリルじゃん……)))


 知っていたとは言っても、それは伝説上の存在。

 エルタが何度か口にしていた「トモダチ」が、まさかそうだとは思うまい。

 だが、それに構わず、エルタは久しぶりの挨拶を交わしていく。


「鬼神さんも久しぶり!」

「ヒ、ヒサシブリ」

「あはは、相変わらず声ちっちゃ!」 


 こうして、彼女達はようやく知ることとなったのだ。

 エルタの友達が、最強種族たちであったことを。 


(((化け物を相手にしてたんだあ……)))


 そう思うと、途端にエルタが大きく見える。

 エルタは変わらないということは理解していても、ここまでの存在だったのかと改めて認識したのだ。


 そんなトモダチは、興味深そうにセリア達へ寄ってくる。


「お主らがエルタの友達か」

「「「……!」」」


 フェンは優しい口調ではある。

 だが、あまりに巨大すぎる体躯に、自然と身が引いてしまう。


「大丈夫だよ、フェンは優しいから。なんなら触ってみる?」

「うむ。存分になでるがよい」

「「「……っ」」」


 しかし、中々一歩を踏み出せない幼馴染たち。

 そんな中で前に出たのは──ティナだった。


「お兄ちゃん、本当にいいんだね」

「お、もちろんだよ!」

「……っ」


 そうは言ったもの、正直怖い。

 伝説上の生き物を前にして、こわばるなという方が無理だ。

 それでも、ずっと強くなりたいと願うティナは、勇気を振り絞った。


「さ、さわります」

「うむ」


 そして、そーっとフェンのあごを撫でた。


「わふんっ」

「……!」


 気持ち良かったのか、フェンも思わず声が出てしまう。

 同時に、ティナの鼓動がドクンと高鳴った。


(か、かわいい……!)


 一度安心を覚えれば、もう止まらない。

 ティナはエルタのように、ガバっとフェンに抱き着く。


「かわいいーーー!!」

「わふーん」

「こ、これがモフモフ!」


 地上では、魔物と触れ合う文化は存在しない。

 すなわち「モフモフ」も初体験だったのだ。

 それは、まさに極上の感触であった。

 

「「「……」」」


 ティナの様子に、周りもごくりと固唾を飲む。

 その幸せそうな顔に、段々と興味が湧いてきたのだ。


「エル君! ワタシもいいか!」

「エ、エルタ! わたしも!」

「お姉さんもお願い!」


 一斉に挙手するセリア・レオネ・ジュラに、エルタはうなずく。


「いいよね、フェン」

「もちろんだ……わふんっ」

「「「わーっ!」」」


 そうして、三人もティナと同じくフェンに抱き着く。

 モフモフのとりこになるのは一瞬だった。


「「「あはははっ!」」」


 モフモフトランポリンで跳ねたり、寝そべったり。

 元々“かわいい”には目がない女性陣だ。

 すっかりハマってしまったようだ。


「……ぐっ」


 そんな女性陣に、完全に出遅れてしまった者がいた。

 最後の幼馴染──カルムだ。

 エルタと少女四人、そこにもう一人いた正体というのは、カルムのことである。


(ち、ちくしょう……)


 そんなカルムには、鬼神が気遣ってくれた。


「サワルカ?」

「……中々良い筋肉じゃねえか」

「アリガトウ」


 ここでも謎の友情が芽生えていた。





「カルム、始めよう」


 ひとしきりトモダチと触れ合ったところで、エルタが切り出した。

 

「ああ、そうだな」


 彼らは闇雲にアステラダンジョンに挑戦したわけではない。

 六人に“共通する目的”があって来ていたのだ。


 本来、成長したエルタ達であれば、もっと早くに挑戦することもできた。

 それでも数年後になったのは、カルムが罪を清算し、エルタ達の前に現れるのを待っていたからである。


 六人揃ってからではないと意味がない。

 そんな目的のようだ。


「持って来たよね、お義母さんの遺骨」

「ああ」


 カルムが取り出したのは、母の遺骨。

 墓荒らしではなく、必要だったものだ。


 対して、エルタはとある花を持ってくる。

 白く透き通った不思議な花だ。


「これが『想い出花』だよ」


 それは、最下層にしか咲いていない花である。

 物に残った最後の想いが浮かぶという。

 つまり、お義母さんと最後の会話を交わせるのだ。


 死者蘇生は叶わないが、それにしても地上ではできるはずもない。

 義母の最後を看取れなかったエルタにとって、これは悲願だった。

 だからこそ、彼らは六人揃って来たのだろう。


「使うよ」


 エルタが、義母の遺骨へそっと花の蜜を垂らす。

 その瞬間、やんわりと今は亡き義母の姿が蘇る。


『あら、どうしたのみんな』

「「「……!」」」


 思わず息を呑む六人だが、これは本物ではない。

 花が見せている幻影だ。

 それでも、かつてのお義母さんの姿に、目元に手を当てざるを得なかった。


『泣いているの? 嫌なことがあったのかな』

「「「……っ」」」


 それから、母は最後の後悔を伝える。


『エルタは、ダンジョンに落ちちゃったんだよね』

「お義母さん……!」

『私が目を離してしまったから』

「違う! 僕が悪かったんだ!」


 幻影とは分かっていても、エルタは答えてしまう。

 それに口を出す者もいなかった。


『でも、またみんなと会えたんだね』

「……!」

『お義母さん、安心したよ』

「うん……よかった!」


 そうして、義母は一人一人に目を向けていく。


『セリアはおてんばだったけど、素敵なレディになったわね』

「……! うんっ!」


『レオネ、その銀髪すごく似合ってるわよ』

「エルタが……言ってくれたんだ!」


『ジュラはしっかりお姉さんをやってるのね』

「もちろん……私はみんなの、お姉さんだから……!」


『ティナはびっくりするぐらい、成長したんだね」

「お義母さん……ありがとう!」


 対して、みんなが口を詰まらせながら感謝を伝える。

 みんなにとって、それほど大きな存在だったのだ。

 そして、実子のカルムへも。


『カルム』

「……!」

『ごめんね。母だったのに、しっかり面倒を見てあげられなくて』

「そんなこと……!」


 カルムは自分がやってしまったことに対して、悔いる。

 しかし、母は優しく声をかけた。


『でも大丈夫。あなたは昔からできる子よ』

「母さん……」

『どうか人のために。見守っているから』

「ああ……ああ、見ていてくれ!」


 そうして、お義母さんは両手を広げた。


『もう、最後みたいね』

「「「……!」」」


 幻影が消えかかっているのだ。

 寂しさが拭えない六人は、すぐさま駆け寄った。


「「「お義母さんっ!」」」


 お義母さんの元に六人が集まる。

 その光景は、まるで孤児院時代の時と同じだった。

 

 そして、すーっと消えかけながら、お義母さんは笑顔を見せる。

 

『いつまでも、六人で助け合って過ごすのよ』

「「「はい……!」」」


 幻影が見えなくなっていく。


『お義母さんは見守っているからね』


 最後に残したのは、よく聞いたあの言葉だった。


『みんながすこやかに生きられますように』


 こうして、エルタ達は義母と最後の会話を交わした。

 『想い出花』は一度しか使えないが、義母の最後を看取れなかったエルタも、後悔は取り除けたことだろう。

 

 これでまた、エルタ達は前へと歩みを進めるのだった。




 ただ、これで満足した彼らはすっかり忘れていた。


「「「発掘物は!?」」」

「あ」


 アステラダンジョンを制覇したエルタ達一行は、何一つ持ち帰らなかったという──。





───────────────────────

SS二本目は、六人の幼馴染回でした!

数年後なので、役職や立場も上がってます!

実は、エピローグとして本編に入れるかも悩んだほど、やりたかった回でした。


やっぱり“幼馴染”って、なんかエモいですよね。

ただの友達でもなく、思い出なども含まれていると言いますか。


あと、ビルゴが学院長は心配になりますね笑。

教頭にレオネ、教師にティナがいるから大丈夫かな?


SSネタは随時募集中です!

必ずお応えすると約束はできませんが、参考にさせていただきます!


そして、まだ押してないよという方、よければ★★★の数でご評価お願いします。

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『推し悪役令嬢のモブ兄に転生しました~努力して最強になった俺が妹の破滅フラグを折りまくっていたら、ついにデレてブラコンツンデレ令嬢に成長しました~』

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【本編完結】ダンジョン最下層に落ちた少年、最強になって10年ぶりに地上へ帰還する~ほそぼそと生きたいだけなのに、出世した幼馴染たちが放っておいてくれません~ むらくも航 @gekiotiwking

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