第19話 星の破滅を願うもの
「ちょっと!どういうことなの?僕たちの敵?」
未だに状況の飲み込めていないサンがおろおろしながら説明を求める。
「あんたはとりあえず襲われたって自覚を持ちなさい!マハルはどこ!?」
「見失っちゃった……この暗さなんとかならないかな……」
「とりあえずムーンライトを高い位置に置いて!」
アミィの指示で私はムーンライトを頭上に移動させる。
広い範囲がぼんやりと照らされる。
「あとは警戒ね……」
あたりは物音もしない。
「さっさと来なさいよ!」
返事は聞こえない。
「まずいね……相手はこちらが気を張り続けて疲れたところを叩くつもりだよ……。持久戦じゃムーンライトを使い続けるルナは不利だ……」
「くやしい……なんとかならないかな……」
「あたり一体を燃やせばいいんだよ!」
サンが思い切った提案をする。
「物騒だけど……確かに有効そうな感じはする……」
「だめだよ!そんなことしたら黒渦の薔薇が燃えてしまう!」
アミィが慌ててその提案を否定する。
「燃えたらだめなの?」
「この薔薇は魔素が強く宿っているんだ。燃やしたら周囲に高濃度の魔素が放出されてしまう……!魔力の高い魔法使いでも正気を保っていられないレベルかもしれない……!」
「危険なものなの……?」
「高濃度なものはなんだって危険さ。例えばボクたちが吸っている空気だってそうだ。魔素も急激に吸収すれば中毒を起こしかねない!」
「じゃあ燃やす作戦はだめね……」
アミィがここまで言うからにはきっと相当な影響が出るのだろう。
「うぅ……僕にも何か……何か……!」
サンが何も出来ない状況にパニックを起こしかけている。
「サン!落ち着いて!ムーンライトはまだまだもつわ!それより隙を見せちゃだめ!」
「わ……わかった!」
ぱしりと頬を叩き気合いを入れ直すとサンは身構える。
「アミィも流石に暗闇は見通せないの?」
「流石ルナ!わかってるね!うん。ボクには見えてるよ。でもあいつらの姿は見えない。隠れてるみたいだ」
「アミィは便利ね……でも一体どこに……」
そう言った瞬間、風を切る音が聞こえた。
「きゃっ!」
私の肩に鋭い痛みが走り、矢が突き刺さっていた。
「う……っ……あぁぁああ!痛い!」
「ルナ!」
すぐさまサンが私を覆い隠すように庇う。
「ついに攻撃をしかけてきた……!」
「痛い!痛いよぉ!」
しかし一度貫かれた肩は治らない。私は身悶えしながら叫ぶことしか出来なかった。
「落ち着いてルナ!集中して!ムーンライトが消える!」
「あ!まずい!光が!」
こんな痛みの中で集中出来るはずもない。
ムーンライトは消えてしまった。
途端にあたりは暗闇に包まれる。
「離れないで!みんな手を繋いで!」
アミィが叫ぶ。
「痛い!痛いっ!」
「どこ!?どこにいるの!?」
だが私も取り乱しサンもはぐれた。手を繋ぐ余裕はない。
「まずい……敵のペースだ……!」
「やっと……俺の出番……!」
唐突に知らない声が辺りから上がる。
「はっ!みんな!敵が来てる!すぐ近くだよ!」
「いやっ!どこ!」
「何も見えないよぉ!」
当然私達はその呼び掛けを受けても対応出来ない。
「くっ……ルナもサンもパニックになっちゃってる……!」
「よぉ……お前は俺が見えるんだな」
アミィとその声の主が対峙した。
「お生憎様、ボクは魔力の干渉を受けないんだ」
「へっ。何も気づかずに終われないのは、不幸だったな」
「いいや!ボクしか戦えない状況に出会ったキミの方が不幸だったよ!」
アミィの声のする方から凄まじい魔力を感じる。
「な……!お前!何者だ!」
その魔力に怖気付くような上擦った声を上げる。
「ボクはアミィ……アミィ・ユノン……。この星を護る者だよ」
「おいマハル!こいつは只者じゃないぞ!」
そいつが大声でマハルを呼ぶ。
「ゲンドー……隠れてる私に話しかけたらバレるでしょうが!」
「うっ……すまねぇ。だがよ!」
「えぇ……そうね。確かにこいつは強い……。他のやつとは比べ物にならないくらい……」
ゲンドーと呼ばれた襲撃者が取り乱すほどの魔力。アミィが牽制になることで確かな隙ができた。
「ムーンライト!」
相手が狼狽えているうちに集中を取り戻した私はムーンライトを呼び出す。
やっとあたりが照らされた。
「はぁっ……!はぁっ……!ちょっと!痛いじゃないのよ!」
「やっと落ち着いたんだね!」
「肩に矢が刺さったら驚くに決まってるでしょ!」
「サンライト!」
「え?」
温かな光が私の肩を包んだかと思うと、肩の痛みが引いて矢がぽんっと抜けた。傷口は塞がっている。
「ふうっ。やっとかけられた」
「サン!あなた!」
「うん!回復魔法だよ!」
嬉しそうにサンが笑う。
「驚いた……弱いと思っていたけれど……太陽光吸収の結界の影響を受けながらにして完全回復……!?」
「油断できないな……こいつら……」
マハルとゲンドーはサンの魔法を目にして顔を見合せている。
「え?なになに?褒めてる?」
「黙りなさいっ!」
マハルが一喝する。
「ひえっ!」
「さ、ご対面ね。もう隠れさせないわよ。」
私はムーンライトをマハルとケンドーの方へ移動させた。
「ふんっ。奇襲だけが能じゃないのよ」
「と……とりあえず自己紹介でもする?」
サンがむちゃくちゃな提案をする。
「ばかっ!」
「私はマハル。崩星信者よ」
「俺はゲンドー。同じくだ」
「なんで自己紹介の流れを飲み込めるのよ……」
「ボクが最初に名乗ったしね!」
アミィが胸を張る。
「あれはちょっと違うでしょ……」
「僕はサン!ルナの付き添い!」
「………」
サンが名乗った後しばらく誰も喋らなくなった。
「……あれ?もしかして、私が名乗るの待ってる?」
「当たり前でしょはやくしなさいよ!」
マハルがうるさく責め立てる。
「なんで怒られてんの私……」
「そりゃそうだよ!セオリーってやつでしょ!」
「そうだよルナ!変身中に攻撃しないでしょ〜!?」
「なんであんたらまで……」
「ほら、はやく名乗れよ。みんな待ってんだよ」
「あーもう!私はルナ!星の巫女!これでいい?」
私はやけっぱちになり名乗りを上げる。
「ほっ……星の……巫女……!?」
「あ……」
名乗りすぎた……。
「はっ……はははっはは……やけに強い護衛がいると思った」
「妙な魔法使いだと思ってしかけてみたが……当たりだったみたいだなぁ……!」
マハルとゲンドーが突然嬉しそうに笑い出す。
「えっ!何急に!?」
「こいつはまだ成長していない……!やるなら今しかない!」
「絶対にやる!我々の悲願のために!」
「うわぁっ!なに急にやる気出してんの!?」
「そりゃそうだよ……。ルナ。キミは彼らの狙いそのものなんだから」
「私しか星を救えないから……そういうこと?」
「そう。だから……今はボクが護るよ!」
アミィが手をかざすして目を閉じた。そして再び開眼した時、緑色の火柱がマハルとゲンドーの足許から飛び出した。
「うあちっ!」
「くっ!なんて火力だ!」
「この火柱はすぐに消えるから薔薇に引火することもない。さ、ダンスを踊るといいよ」
アミィはマハルとゲンドーの逃げる先に次々と火柱を上げていく。
「ぐっ!うっ!あぁぁっ!」
「どうだい?そろそろ降参するかい?」
「くそっ!くそっ!」
「そろそろ歩けなくなるよ?」
火柱が彼らに当たる度にじゅうじゅうと肉の焦げる音が聞こえる。その度悲鳴を上げていた彼らは段々その威勢を削がれていき……遂に動けなくなった。
「……わかった。降参だ」
ゲンドーが手を上げる。
「私はまだ……!」
「降参だ!……もうやめろ」
「うぅ……」
マハルとゲンドーはおとなしくなった。
「さて、話をしようか?」
アミィが動けなくなった2人に近づく。
「殺さないのか?」
「当たり前さ。じゃなかったら降参を促したりしないよ」
「……なぜ拘束しない?」
「もう負けを認めてるでしょ?」
「私の肉球が……ぼろぼろよ。逃げたくても逃げられないわ」
マハルが泣きながら見せた肉球は焼け爛れていた。
「うわぁ……痛そう……はい、サンライト」
マハルとゲンドーの傷が回復した。
「ちょっと!あんたなにしてるの?私たちは敵なのよ!?元気になったらまた襲ってくるかもしれないのよ!?」
マハルはいきなり回復されたことに驚き、敵相手にその行動の迂闊さを諌め出す。
「だって負けを認めてるんでしょ?おかしなこと言うなぁ」
サンはキョトンとした顔でそれを受け流す。
「……ばか?」
「……うん」
そうなんです。
「で?逃げるの?」
アミィがやや圧をかけながら訊く。
「……逃げません……」
もちろん逃げられないことはよくわかっただろう。
「それで、崩星信者のことを教えて欲しいんだけど」
そうしてアミィは崩星信者への尋問を開始する。
「……お前がこの星を護る存在ならば、俺たちはこの星を壊す存在。その時点で相反しているんだ。分かり合えるはずはない」
「うん、そうだね。きっとわかり合うことはできない」
「だが今の俺たちはお前には適わない。しかしここで俺たちを見逃せば、いつかきっとお前たちを倒すぞ」
ゲンドーはキッと殺気の籠った目線をアミィに向ける。
「大丈夫。キミには負けないよ」
それを受けたアミィはにこりと笑う。
「くそっ……」
「でもね、ボクがききたいのはそんなお話じゃないんだよね」
「なんだ?」
「キミたちの拠点について教えてよ」
「……それは……言えない」
ゲンドーとマハルは押し黙る。
「え~なんで~?教えてよ~」
アミィは場の雰囲気に合わないねだるような甘い声で聞き出そうとする。
「当たり前だ!そんな事を易々と吐くと思うか!?」
「いいや、吐くね。そうでなければ……そうだねぇ、ここにはどれだけ傷ついても回復してくれる子がいるんだ。……ね?」
アミィがらしくない残酷な提案をする。
「まさか……そんなこと……できるっていうの……?」
途端にマハルが顔を蒼白させ震え出す。
「ボクはやるよ。だって星を護らなきゃならないんだもの。命を奪うことはしない。でもボクたちはわかりあえない。志を折り合わなきゃならないんだ」
「それって……」
私が挙げた言葉だ。
「ルナ。ボクも覚悟はしたつもりだよ。命を奪う以外は、なんだってする」
アミィは覚悟したようだ。誰も殺さずに活路を見出せる程甘くは無い。
「……そうね。そうするしかないわね」
「ちょっ……ちょっと待て!待ってくれ!」
ゲンドーが声を上げる。
「話す気になった?」
「ぐ……くくっ……」
「もうやめて!」
「マハル!」
「それは命を奪うことでもあるのよ!」
マハルが涙を流して訴える。
「……もしかして」
「デイズさんみたいなこと……?」
私たちは顔を見合せた。
「お前ら、デイズを知っているのか?」
意外そうな顔をしてゲンドーが反応した。
「知ってるの!?」
「ここら辺の支部じゃ負け無しの崩星信者だった男だ。ある時からぱったり連絡が取れなくなった。星に殉じたんだろうが……」
「仲間に粛清されて……それで……」
「禁忌……か。あんなに強かったのに、誇り高い最期は得られなかったか……」
ゲンドーが顔を顰めた。
「あんたに何がわかるのっ!」
私はそれが気に食わなかった。
「いいや、わからないさ。俺たちの誇るものとお前たちの誇るものは違う。それはさっきの話でもわかったはずだ」
「そうだよルナ……ボクたちは全く価値観が違うんだ。怒るだけ無駄だよ」
「……」
「それで、やはり情報を喋ると、キミたちは呪いを受けるんだね?」
「あぁそうだ。喋りたくても喋る前にな。だから喋って死ねと言われてもできない」
「流石にそこまで言わないけど……そしたらじゃあ……もう用済みかなぁ、キミたち」
「帰っていいのか?」
ゲンドーがぱっと顔を上げる。
「ううん、だめ」
「は?」
「だってこのまま放置したら、キミたちまた同じように誰かを襲うでしょ?」
「それはまぁ……」
「リベンジもあることだし……」
ゲンドーとマハルはもじもじと言い訳する。
「そしたらここで見逃すのはだめだよね」
「お……おいおい、話が違うだろ?命は奪わないって言ったじゃねぇか!」
ゲンドーは慌てて先程の言葉を取り上げる。
「うん。そうだよ」
「さっぱりわかんねぇぜ!つまり何が言いたいんだよ!」
「崩星信者をやめてもらいます」
きっぱりとアミィは言う。
「んなっ……!できるわけないだろ!」
「そうよ!それにそんなの押し付けよ!私たちは私たちの意思で崩星信者になったのよ!」
「もうそれは打ち砕かれたってことで。この星はボクたちが救うからもう星は壊れないんだよ」
「ちくしょう……こいつには何を言っても通じそうにない……」
「でも誓約があるから私たちは崩星信者の呪縛から抜けられないのよ?」
「それは大丈夫!」
「何がだよ!」
彼らはむちゃくちゃなことばかり言うアミィに遂に我慢できなくなりそうになっている。
「ボクが解消してあげる」
「そんなことが……できるのか?」
「うん」
崩星信者の呪いの契約を断ち切る……?そんなチカラがあるのなら……。
「アミィ!なんでデイズさんに使わなかったの!?」
私はアミィに問う。
「デイズさんの場合は……既に呪いが完遂されていたからだめだったんだ。あの時既にもう命は尽きていたようなものだったんだよ」
「そう……なの……」
抜け殻に水を注いでももとには戻らない……あれはもう不可逆な程命が尽きてしまった成れ果てに違いなかった。
「それで?どうなの?星に縛られるのと、自由になって星の平和を願うのと、どっちがいい?」
「こいつ……えげつないぜ……」
「私たちはそんな生易しい世界なんかより死を選ぶわ!ねぇゲンドー?」
「え?えぇと……」
ゲンドーは迷うようにその言葉を肯定しない。
「は?ちょっとなんなの?あんたの覚悟はそんなもんだったの!?」
「いや……でもよ……俺が星の破滅を願ったのは……家族もみんな死んじまって……独りになったからでよ……。お前と2人でいるようになってからは……その……なんだ…………未練が……できちまったみてぇだ……」
ゲンドーが自分に確かめるかのように語った言葉は、確かにこの世界への未練を語るものだった。
それがいけなかった。
ゲンドーの足許から黒い渦が巻き起こると彼の足を縛り付けようとした。
「あっ!禁忌だ!」
「し……しまった!」
「アミィ・リフレッシュ!」
アミィが叫ぶとゲンドーの身体から緑色の光が立ち昇った。
「うわっ!もう火柱はやめたげてよぉ!」
サンが懇願するようにアミィにしがみつく。
「いや、これは火柱じゃないよ」
「う……うぅ……俺は……あれ?縛られて……ない?」
光に打ち消されるようにして黒い渦は消えて無くなっていた。
「キミはもう崩星信者じゃなくなったんだよ」
「はっ?えっ?なんで!?」
「ボクが呪いを解いたんだ。誓約もなかったことになったよ」
あっさりとアミィはそう言って笑う。
「……どこまですげぇんだよお前は……」
「そ……それより……あんた……さっき……」
マハルがゲンドーの腕を引く。
「う……」
彼は恥ずかしそうに顔を背ける。
「あ……アミィ!私にもかけて!」
マハルが自分から解呪を頼み込んだ。
「ふぇ?」
「ゲンドー……あんたがそんなこと言うから……私も思っちゃったじゃないの。何もいらないと思ったのに……」
「マハル……」
「アミィ・リフレッシュ!」
再びその光が現れるとマハルを浄化した。
「あぁっ……!これで私も……崩星信者じゃなくなったのね……」
身体を見回してマハルが呟く。
「そうさ。もう自由なんだ」
「マハル……一緒に、暮らさないか?」
「ゲンドー」
彼らはお互いに見つめ合う。その気持ちは既に決まっているようだ。
「アミィ。俺はマハルと幸せに暮らしたい。だから、この星を護るっていう、お前の願い、俺にも願わせてくれ」
遂に彼らはその心をこの星への願いに変えた。
「もっちろん!キミたちの願いのチカラが、ボクたちのチカラになるんだ!」
「ありがとう!」
こうして崩星信者のマハルとゲンドーと和解することが出来た。
「崩星信者がみんなこうなってくれたらいいんだけどね」
「未練を見つけてあげればもしかするといいのかもしれないね」
「アミィ・リフレッシュを直かけしたらだめなの?」
「それはセオリーじゃないよ!」
「いやそんなこと言ってる場合じゃないでしょ……」
「まぁ、解呪に協力的な意思がないと解呪できないんだけどね」
「まあそうよね……」
セオリー関係ないじゃない……。
「でもマハルもゲンドーも幸せそうだったね!」
「本当の意味で全ての破滅を願う者なんていないのよ……ただやけになってるだけ。生きていれば何度だってやり直せるんだから」
「そう!その通り!全てが壊れてしまったら何一つ生まれないんだから!」
「やっぱり命を奪うことよりも、こういうことの方が、私たちらしいわね」
「ね~っ!」
闇の中で出会った絶望が輝かしい希望に変わった。
それは私の抱いていた責任に対する不安や葛藤への答えのような気がした。
星の降る丘へ 瀬戸 森羅 @seto_shinra
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