第18話 夜の咲く小道
「ねぇねぇ、ここら辺はすごく見晴らしがいいね!」
「そうね。天気もいいし、辺りの山の桜がすごく綺麗」
「う~ん!ほんとにいい天気だねぇ!」
春の木漏れ日の快適な旅路。
辺り一面の大自然は桜色に染まり妖艶とまで言えるほどに美しかった。
「こんな日は歩いてても気持ちがいいね」
「うんうん!弾みながら歩きたくなる!」
そんな事を言いながら私たちが歩いていると……。
「……あれっ!?」
先頭を歩いていたサンが急に大きな声を上げて跳ね上がった。
「どうしたの?」
「ちょっと!もう少し歩いてきて!」
こちらに手招きしながらサンが叫ぶ。
「なによ……」
言われるままにサンの近くまで歩いていった。すると……。
「……え?」
思わず絶句してしまった。辺り一面が闇に包まれたのだ。
「なにこれ?」
「……夜……だね……」
それは夜としか言いようがなかった。
先程までの木漏れ日はどこへやら、あたりは夜の帳が降りたかのように真っ暗で、遠くに見えるはずの太陽が月明かりのようにこちらを照らすこともない。月の無い暗闇。原初の闇のような、深淵を覗くような、そんな深い暗闇だ。
「なになに?どうしたの~?」
「アミィ、もうちょっとこっちにきて」
「はいは~い」
とてとてとアミィがこちらに近づく。
「……どう?」
「うん、夜だね」
落ち着いたようにアミィが言う。
「いやそれはわかったから!」
「でもまあただの夜じゃないよ。毎度おなじみ魔法絡みだよ」
やっぱり。
「なんかユリィズの森のことを思い出すわ……」
私は琥珀のネックレスを握りしめる。
「そうだね。空間を丸ごと夜にしている。近くに魔法の発生源があるはずだよ」
「物なの?魔法使いじゃなくて?」
「うん。今回は魔法使いの気配じゃないよ。そしてなんと!アミィセンサーにも別の反応がある!」
「ということは……この夜の正体を暴けば何か得るものがあるということね」
「その通り!じゃあとりあえず灯りが欲しいね」
「そうね。夜って言っても月の明かりすらないような暗闇だもの……」
正直恐ろしい。この闇は夜とは違う。月の温かみもない心底冷たい闇だ。
「何か火種はある?」
「あ、待って。私がやる」
「お、まさか?」
だから、私が月になる。
「ムーンライト!」
私が叫びながら片手を上げると私たちの頭上に心地よい灯りを放つ球体が浮かんだ。
「すごいね!こんなこともできるんだ!ルナは攻撃的な魔法ってきいたからちょっと意外かも」
サンが感心したように褒めた。
「本当は攻撃用なのよ?これ」
「え?」
「この丸いの、結構硬いのよ」
「ひぇっ……」
さっきまでの様子とは一変して頭を守るように姿勢を低くする。
「大丈夫よ、速度は落としてあるから」
「まあでも攻撃用魔法をうまく活用してるあたりルナは賢いね!」
アミィも褒めてくれた。
「ありがと」
「よ~し、それじゃあ行こう!この小道を進んでいけば答えは見えてくるはず!」
「おー!」
一行は私のムールライトの光を頼りに前に進む。
「あんまり離れないでね。この領域の真ん中で光を失ったら戻れそうにないもの……」
周囲を警戒しつつ進んでいく。
「うん、そうだね。なんだかルナは頼もしくなったねぇ」
「そんなことないわよ」
「僕は?」
「……うん」
「なんだよー!」
サンが喚き出す。
「それじゃあ手を繋いで行こうよ」
「そうしようか」
アミィの提案を受けて私たちは離れないように手を繋ぐことにした。私が真ん中でアミィを左手、サンを右手に迎えた。
「あ、ぷにぷに」
サンが私の肉球をにぎにぎする。
「……離すわよ?」
「うわぁっ!やめて!」
「ルナの手、あったかいねぇ」
アミィが声を漏らす。
「あら、アミィもよ」
「アミィは冷たいじゃんか」
サンがそう言う。
「あったかいわよ」
「えぇー?そうかなぁ?」
「……ちょっと待って」
「ん?」
今の会話には違和感があった。
「サン、あなた私とアミィの手を握ってるのよね?」
「そうだよ?」
「それで、私もあなたの手を握ってて、アミィの手も握ってる」
「うん」
「ボクはルナの手しか握ってないよ?」
「……え?」
「だって私が真ん中でしょ?サンがアミィの手を握れるはずないじゃない。」
「はは……え、だって僕、手を握ってるよ?」
サンが乾いた笑い声を上げる。
「……ちょっと、止まりましょうか」
私たちは立ち止まり、ムーンライトをサンの隣に呼ぶことにした。
「あらら、バレちゃった?」
「誰っ!?」
そこには今まで会ったこともないシャラが立っていた。
「怪しいヤツ……どうしようか」
サンは繋いだ手を離さないように力を込める。
「待って待って!私もあなたたちと同じ魔法使いなのよ!」
そいつは釈明をするかのように自分の身分を明かす。
「……魔法使い?」
「うん。少し前にここに迷い込んで……明かりが近づいてきたからついすがりついちゃったの。……迷惑だったかしら?」
確かにこの暗闇だ。並の手段では右も左もわからない。明かりが見えたらそこに行き着くに違いない。だが……。
「ううん、そんなことないよ!僕たちも怖かったから、多分君も大変だったでしょ。一緒に行こう!」
サンは優しくそう言うとそいつを同行させようとした。
「ありがとう!お言葉に甘えさせてもらってもいいかしら?」
「……アミィ」
「……うん」
私がアミィの手を握るとアミィも合図をするかのように私の手を握り返した。
「あ、いいの?じゃ行こう!僕はサン!君は?」
「私はマハル!とりあえずこの領域から出たい……」
「それじゃあ進もう!」
私たちは暗い小道を進んで行った。
「ねぇサン。他の2匹についてきいてもいい?」
マハルは私たちのことを聞き出そうとしている。
「ああ、ルナとアミィだよ。僕たちはねぇ、ちょっと特別な旅をしてるんだ」
「サンッ!!」
尚も話し続けるサンに大声で呼びかける。
「わっ!なに?」
「……危ないから集中して歩いて」
「わ……わかったよ」
サンはしゅんとした様子で会話を中断する。
「な、なんか怖いね」
「いつもはこんなじゃないんだけど……」
私はサンの手を強く握った。
「いてて……黙るよ……」
しばらく歩くとアミィが声を上げた。
「あれだね。この夜の正体は」
そこにあったのは光で照らして尚闇に溶け込んでしまいそうなほどの漆黒の薔薇だった。
「すごい色……まるで全部吸い込まれそうな……」
「黒渦の薔薇。これは太陽の光を遮断する結界を作ってしまうんだ。ここら辺がずっと真っ暗だったのはそのせい」
「でもどうしてこれがセンサーに反応したの?」
「ルナが持っていた方がいいってことじゃない?」
「でもこんなものを持っていたらずっと周りが暗くなっちゃう……」
「そこは安心して!これを使うから」
アミィは何かが書かれた布を取り出した。
「なにこれ?」
「これは魔法の性質を封じることの出来る布なんだ。これに包んでおけば結界を発生させることなくこれを持ち歩けるよ!」
「それは便利……でも使っちゃっていいの?」
「大丈夫大丈夫。ボクなら簡単に作れるから」
薔薇をいくらか摘んでアミィから受け取った布に入れておいた。
「あなた……すごいわね。そんな魔力を持つなんて……」
マハルが感心したようにそう言う。
「……それほどでも」
「さて、それじゃあさっさと抜けようか。この花から離れれば結界を抜けるでしょう」
「あ、でもちょっと待って?」
ぴたりとマハルが足を止める。
「どしたのマハル」
「うーん、おかしいなぁ。もう少しのはずなんだけど……」
あたりを見回しながら耳を立てている。
「……だから、何が?」
「あ、大丈夫そう。うん。そうそう、この子たち」
マハルは闇に向かって大きく手を振った。
「え?」
「サン!離れて!」
私がサンと手を離して飛び退くと、さっきまで私がいた場所に何かが突っ込んできた。
「うわっ!なんかヒュってした!」
「油断しないで!あとそいつから手を離さないで!」
「え?あれ?手、離れてた……」
既にマハルの姿はない。あたりは闇と静寂に包まれている。
「くッ!じゃあ私のムーンライトに集まって!」
「な……なんだよう……」
わけもわからなさそうにサンはこちらに駆けてくる。
「ルナ」
アミィは目配せするように私を見る。
「うん。やっぱりそうだった」
「ちょっと、ルナたちさっきから変だよ」
「あんたはおとぼけさん!アミィが言ってたこと覚えてないの!?」
「……んー」
この様子ではどうやら本当に覚えていないらしい。
「あのマハルってやつ、魔法使いだけどセンサーに反応しなかったの」
「それが?」
「……崩星信者だよ」
アミィがぼそりと呟く。
「えっ!それって!」
「私たちの、敵よ」
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