第89話 白兵戦…
Oh…!?
私の目の前に現れたソイツは、鎌型の振動ブレードを振り落としてきた。私は急発進で後退し、その一撃を避けるも、30mm機関砲の砲身を断ち切られた。
ソイツはメンテロボではなく、敵のサソリロボだった。
え? こんなデカかった?
よく見れば、メンテロボを腹の下に抱えていやがる、そういう事…
ここで、ホラー映画なら「きゃー!」とか「いやぁ!」と悲鳴を上げて、逃げようとして、捕まり無惨にも切り刻まれる場面なんでしょうけど…(なんでやねん)と自分にツッコミ。
こちとら、そんなやわじゃないわ。
ホラー映画を見た後は、夜中にトイレに行けなくなるほど怖いけど、現実となれば話は別、オバケじゃないなら怖くはない。
私の出身サガミノ国では、最終学位卒業時に、男女問わず、全員参加の軍事教練イベントがある。それは、2日分の食料と一本のナイフを待たされて、「4日以内にヤマキタイヌゴエ路を踏破せよ」という鬼サバイバル。行手を阻むのは、現役サガミノ国国防隊員やOB、それに罠、更には+して、クマとかイノシシとか普通に遭遇するのよね。
血気盛んなOBが考案したらしいけど、それを伝統化し、実行する学校も、生徒会執行部もどうかしてると思ってた。その為に日々の体育に戦闘訓練授業があるんだけど、他国からの留学生が、その授業内容に驚いていたことを覚えてる。
ちなみに私は、時間切れでゴール出来ずでした。
…でも今は、あの時の経験に感謝したい、アレに比べればこんなもの屁でもない。
それにしてもコイツ、やってくれるわ、腹の下にメンテロボ一機を抱え込み、おそらくメンテロボの識別を利用して、偽装してたのね、なかなか見つからないわけだわ。
メンテロボは、充電ステーションを使ったバッテリー駆動による自立式。現在は、無線封鎖しているので、位置マーカーと識別タグだけを各所の端末から有線で発信、情報は一方通信のみにしてる。
サソリロボが端末を使ってハッキングしてこようとしたので、その様に対応を変えたのだけど、逆にその盲点を突かれた形になった。
生意気だわコンニャロ。
でもこっちは宇宙戦艦であって、格闘ロボじゃ、ないんだけどなー、機体はメンテロボだけどね。
壊された30mmバルカンをパージし、対サソリロボ用に設えた火薬式削岩機「パイルバンカー」を前に出す。
さて、これがどこまで通用するか…
こっちは「思考加速」があるとは言え、機体は通常のメンテロボ、若干反応速度が早くなる程度。
ならば先手必勝!、こういう奴の弱点は…
磁力タイヤを唸らせ、私は前に飛び出した、合わせて振り下ろされるサソリロボの鎌を、スピンして紙一重で交わすと、奴の左足前部第二関節部に向かって、パイルバンカーを打ち込む
ドギーンっ!!、火花が散って弾かれた
うわ硬っ!
でもサソリロボはその衝撃で脚が宙に浮く、体勢を立て直そうと鎌を壁に突きさした。
チャンス!、もう一撃!
オートではないので、マニュアルで排莢、煙を吐きながらショットシェルが宙を舞う。サソリの下に入り込むと、再び正確に同じ関節を反対から狙った。
ばきーんっ!!
今度はサソリロボの脚が関節からへし折れ、飛んだ。
ヨシいけるっ!
よろけて左側に尻餅をつくサソリロボ、その隙に捕まっていたメンテロボを、ワイヤーで引っ掛け、サソリロボから引き剥がした。
そして救出したメンテロボに即座に有線で繋ぎ、強制シャットダウンし、通路の端へと放り投げる。
無重力なので、ガガンと壁や天井にぶち当たり弾んで行った。
ごめん、抗議は後で受け付けます。
ギーっ!!
威嚇音らしき音を放つサソリロボ
ガん!、ガガガガん!!
突如、サソリの背後から火花が散った。それは応援に駆けつけたメンテロボの30mm機関砲弾が炸裂した火花。サソリの右の振動鎌が砲弾を受け、弾け飛び、私の真横を素通りして天井に突き刺さった。
あぶなっ
だけどこれで挟み撃ちにしたわ、対戦車ライフル装備のメンテロボも合流した。射撃体勢に入るも、発光信号で「待て」と指示する。
下手に壊すとコイツは自爆する、ここはマテリアルプラントのすぐ側、ナガト艦内にあるいくつかの重要区画の一つ、ここで爆発されるわけにはいかない。
それに、コイツが何者で、どこから来たのか、できれば捕獲して、操っている奴を知りたい。
その為にはあの振動ブレードが邪魔、他に武装は持っていないので、アレを無力化出来ればなんとか行けそう?
囲まれたサソリロボは、飛び道具に警戒してる。鎌をメンテロボ達の射線から、自らの身体で隠してる。
私はタイミングを計り、再びサソリロボの懐に飛び込んだ。
サソリロボが即座に反応し、左の鎌を縦に横にと、振り回してきた。それを見極め、パイルバンカーで受け流し、弾き返す。
メンテロボ達はサソリに銃口を向けているけど、私の邪魔にならない様に撃たずに待機してくれてる。
私とサソリロボのチャンバラ、剣戟が火花を散らす。いやもう、こんなの宇宙戦艦の戦いじゃないわ。
でも、あちら様の方が動きが生物的に滑らかで、ああもう!、動きが速い!、こちらはついて行くのがやっと…
…ん?生物的?
ばがんっ!!
Oh!、ニブイ音を立てて、鋼鉄製のパイルバンカーの先端が砕けてしまった。振動鎌に負けた!?
弾みで私の身体が浮く、そこにサソリの鎌が上から襲ってきた。
ふっ!
でも私はあえて体で受ける、
ドオンっ!!、とそのまま床に叩きつけられ、前輪の左磁力タイヤが車軸から吹き飛んだ。
でも、ブレードは私の左肩口に突き刺さるも、私はロボットアームで刃の根元押さえ込んで、勢いを殺していた。実はボディーには簡易仙術防壁を施してある、それがなければ真っ二つになっていた。
そしてパイルバンカー!、サソリのブレードアームの付け根に向かって連続で叩き込む、先端が無かろうが、機能は死んでいない!
肉を切らせて骨を断つ!
ガン、ガン、ガン、ガン、ガンっ!!
ポンプアクションで、ショットシェルを連続で吐き出す。
バキーンっ!!
加熱したパイルバンカーが爆発し、完全に砕けた!、でも同時にサソリロボのブレードアームもへし折れたのを確認、私は背後のアンカワイヤーを飛ばし、壁に突き刺すと、ウィンチで一気に巻き取りサソリロボから飛び退いた。
Now!
発光信号でメンテロボ達に合図する、メンテロボ達が一斉にネットを発射、次々とネットを浴びるサソリロボ、それはただのネットじゃない。導電性カーボンナノチューブ製の頑丈なワイヤーで編まれたネット。
メンテロボ達は最大電流で一斉に放電した。
未来の世界で宇宙戦艦に生まれ変わったけど、既に人類は滅んでいました。私は宇宙を放浪します。 えうのイダ @shinukichi
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