???日目

 佳奈との監禁生活から3年後。僕は高校には行かず、就職していた。お母さんの残したお金はそう多くなかったし、高校に進学できるような身分じゃなかったから。それに、お姉ちゃんが出てきたときに恥ずかしくないようにしておきたかった。


 僕は小さな会社の営業職をしている。彼女がくれた気力をどこまで使えるか、それでどこまで行けるか試してみたいと思った結果、最近の僕は成績優良者になっていた。若いというのが武器になっているのも、あるんだろうけど。


 そんな僕の眼の前には、刑務所がある。


「あの……今日出てくる予定の守口佳奈さんは……」


 僕が尋ねると、目の前の男の人は「ああー」と言って眉を下げて笑った。


「ちょっと前に出ましたよ」

「え、早くないですか? この時間だって聞いてたんですが」

「彼女はよく務めてましたからね。少しだけ早まったみたいです」

「そうですか、わかりました」


 一礼してから、頭を掻く。出迎えに来たつもりが、とんだことになったもんだ。


 だけど、行き先はわかっていた。彼女はきっと、あそこにいるんだろう。


 昔彼女とよく遊んでいた遊歩道に向かうと、久しぶりに見る後ろ姿があった。髪は短くなったけど、間違いない。佳奈お姉ちゃんだ。遊歩道で黄昏れている彼女の背後からゆっくりと近づき、深呼吸をする。


「あ、あの! 僕はあなたにたくさんのものをもらいました! 生きる気力とか希望とか夢とか愛とか! それで今はしがない営業職をしています! あ、でも最近は成績が良くて上司に褒められます! 今の僕があるのは、あなたのおかげです! ありがとうございます!」


 一息に、言いたいことを捲し立ててしまった。こんなに喋るつもりじゃなかったのに。


 振り返った彼女の顔は、少し赤く見えた。見慣れた笑顔で、瞳に涙を浮かべている。


「あ、それと……愛しています」

「もう、突然なんだから」

「あはは、イメトレしてたんだけどな」

「……凪くん」


 突然、彼女が胸に飛び込んできた。僕の背中に回された腕が、以前よりも細く感じる。お姉ちゃんの顔が自然と僕の胸の位置にきていた。僕は目頭が熱くなるのを堪えもせずに、思い切り抱きしめ返す。


「私も、愛しています」

「佳奈……おかえり」

「ただいま、凪くん!」





 『甘々お姉ちゃんに監禁されて暮らすだけ』完。

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甘々お姉ちゃんに監禁されて暮らすだけ 鴻上ヒロ @asamesikaijumedamayaki

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