オチャメな魔族とキャラメルプリン

フィステリアタナカ

オチャメな魔族とキャラメルプリン

 僕の名前はジン。シャロー王国で王様をしている。先月、妻のシャルロットとの新婚旅行を終え「列車の旅は良かったな」と旅行先の国々を思い出していた。


「おい、ジン」


 そう話しかけてきたのは修道士モンクのロンだ。彼は(護衛? 新婚旅行に勝手についてきた)僕のよき友人で、この世界に転生してから、困ったことを相談できる頼りになる人物だ。


「何を描いているんだ? またスタバとか描いているのか?」

(前に描いたのスタバじゃなくてバリスタね)


「バリスタじゃない。戦争が終わったから武器の設計図はもう描かないよ。今描いているのは自転車っていうヤツ。人力で動く移動する道具かな」

「移動する道具か――オレ、バリスタで空を飛びたいんだよね」

(相変わらずチャレンジャーだな)


 ロンは不思議なヤツだ。修道士モンクなのにまったく修行をしない。僕とよく〇×ゲームなどで一緒に遊んだり、ふざけあったりしている。


「タンヤオに頼めば? ワープできるでしょ」

「おっと、そうだ」


 ロンは懐から黒い板状のモノリスを取り出し、スマホを使うように電話をかける。


「――出ねぇ。あっ、もしもしタンちゃん。ジンが用事があるらしいから、悪いんだが、今すぐ来てくれ。何? 五人目のお爺さんが死んだから葬式で来れないって? そんなこと言わずにさぁ。キャラメルプリンやるから」


「ふぉふぉふぉ。待たせたな」


 召喚して呼ばれたのは上位魔族のタンヤオ。彼女はロンとの石取りゲームに負け、ロンの眷属になっている。戦争で勝利に導いた彼女は甘い物に目がなくて、いつもロンのいいように扱われていた。


「おう。おつかれ、タンちゃん」

ぬし、プリンはどこじゃ?」

「ああ、冷蔵庫にあるぞ」

「わかったのじゃ」


 タンヤオは冷蔵庫を探している。プリンの場所を聞く前に、「ジンが用事があるから」というロンの言葉を思い出して――って無理か。


「主、冷蔵庫はどこじゃ?」

「あっちの食堂にあるぞ」

「おお、そうじゃった」


 タンヤオは食堂へと向かう。しばらくすると彼女の「キャラメルアーモンドプリンが無いのじゃぁぁ! どこにあるのじゃぁぁ!」という叫び声が聞こえた。


「おっかしいな。ちょっと見てくる」


 ロンはそう言い、食堂へ行く。僕はマズいなと思いつつ彼について行くことにした。


「タンちゃん。そこどいて」


 ロンはタンヤオに代わり冷蔵庫の中を見る。


「本当だ。プリンが消えている」

「主、プリンは何処じゃ?」

「おっかしいなぁ。お歳暮用のプリンセットを1ダース買ったんだけど」


(お歳暮用に12個も買ったの? 僕が見たときにはプリンが2つしかなかったよ。っていうかプリンセットって何個入りなのよ?)


「これは事件だな」

「ほう、主、次元とは何ぞや?」


(次元じゃなくて、事件ね。ワープできるからって次元を超える認識はあるんだね――って、賢くないからその認識は無いか)


 僕はプリンを食べたことがバレないようにするには、どうしたらいいか、頭を回転させていた。


「あっ、そうだ。タンヤオさ、3階の会議室にチョコレートクッキーがあるよ」

「王! それはまことか!」

「うん。でも全部は食べちゃダメね――って!」


 タンヤオの姿が消え、僕はしまったと思った。チョコレートクッキーを全部食べられてしまう可能性を考えていなかったからだ。


「タンちゃんは単細胞だな。ところで、ジン。プリンが消えた心当たりは無いか?」

「無いかな」

「ルーセントに聞くしかないか……」


(誰? ルーセントって――お義父さんじゃん!)


「っと、その前にお嬢だな」


(シャルと一緒にプリンを食べたのがバレる――マズい)


「わかった。じゃあ、シャルを呼んでくるね」


 そう言って僕はシャルのもとへ行くことにした。「先回りして口裏合わせをしておかないと」と、焦る気持ちがロンにバレないように急いだ。


「シャル」

「どうしました?」

「ロンがプリンを食べた犯人を捜しているんだ。僕達が冷蔵庫の中のプリンを食べたことを内緒にしてくれないか。タンヤオが何をしでかすか、わからないんだよ」


 シャルはキョトンと頭を傾げている。僕は事情を説明し、彼女を連れてロンのところへ向かった。


「ロン。呼んできたよ」


「おっ、お嬢聞きたいことがあるんだが」

「ロンさん。何でしょうか?」

「冷蔵庫の中に入っていたプリンを探しているんだが、まさかお嬢は食べていないよな?」

「私、プリンは食べていません。キャラメルプリンなら食べましたけど」


(オーマイガー!)


 僕は思わず天井を見る。


「そっか」

「はい」

「タンちゃんをプリンで釣ったからなぁ。まあいいや、適当に言いくるめるか」


「ロン、ごめん。実は僕もキャラメルプリンを食べていたんだ」

「ほう」

「ウソをついてごめん」

「まっ、知っていたがな」 

「えっ」

「バレバレなんだよ。いつも一緒にいるからジンのウソくらい分かる」


 ロンが僕にそう言うと、タンヤオが姿を現した。


「王。チョコレートクッキーが見つからないのじゃ」


「タンちゃん。シャローの森にお菓子の家があるらしいぜ。探しに行かないか」

「主! それを早く言うのじゃ!」


 こうして、ロンは空を飛んでみたいという当初の目的を忘れ、タンヤオを森へと連れていったのだ。

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