痛みを知れ
東京拘置所単独室内にて。
一人の女が、頭を抱えて蹲っていた。低い唸り声をあげながら額を床に叩きつけ、外に向かって獣のように咆えている。
巡回してきた監視職員が部屋を覗くと、女は泡を吹いて倒れていた。足元には血と水を混ぜたような液体が広がっており、一見すると失禁したようにも見えた。だが、排泄物特有の異臭はせず、腐った血の臭いだけが辺りに充満している。
よく見れば血だまりの中にぶよぶよとした塊が落ちているのが見える。
緊急通報が成され、外へと運び出されていくあいだにも、女は激しく痙攣しながらとめどなく低い唸り声を上げ続けていた。
警察病院に運び込まれるも、女は間もなく死亡。
死因は、流産によるショック死。父親は不明。というのもこの女は、不特定多数の異性と関係を持っており、逮捕前に交流があった男性にそれぞれ話を聞いたところ、全員がDNA鑑定を拒んだ。そして全員がこの女に他にも相手がいたことを把握しており、子の親は自分ではない、関係ないと答えたという。父親候補の男性は、大半がホストやマッサージ店の従業員で、女の死亡や流産に関しても迷惑そうにするだけであった。
やむなく警察は女の突然死だけを公表し、不可解な点については秘匿した。
あの日女の呻く声を聞いて対処した職員によると、形相も声も人のそれではなく、まさしく獣のようだったという。
黒猫の気紛れ 宵宮祀花 @ambrosiaxxx
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