とあるチート持ち転生者の話

秋空夕子

とあるチート持ち転生者の話

 お待たせいたしました、ただいま審査が終わりあなたの冒険者ランクが決定しました。

 ええ、はい。あなたは試験においてこれまでの成績を大きく上回る結果を出しました。

 本来であれば新しく冒険者になった方は一律でDランクからのスタートとなるのですが、それではあなたの実力に対してあまりに不釣り合いだということもあり、特例としてBランクからのスタートにすべきだという声があります。

 ……そうですか、それでいいと。

 ですが、決断される前に少し私の話を聞いていただいてもよろしいでしょうか? そう時間はとらせませんので。

 ありがとうございます。

 では、まず初めにあなたのこの膨大な魔力や特殊な魔術はどのように身につけられたのでしょう?

 個人的な付き合いをしている魔術師は何人もいますが、魔術の鍛錬というのは成果が現れるまで時間がかかると聞きます。

 にも関わらず、あなたはその若さで、しかも独学でそこまでの魔術を習得されています。

 率直に聞きますが、その魔術は本当にあなた自身の手で習得したものですか?

 気を悪くされたなら謝ります。

 ですが、あなたのその力はあまりに常識外れなのです。

 まるで、超常的な何かがあなたに特別な力を与えたとしか思えないほどに。

 ……そうですか、そんなはずがない、ですか。

 …………。

 では最後に、とある冒険者についてお話させていただいてもよろしいでしょうか。

 その冒険者は、非常に優秀な方でした。

 まだ十代という若さでありながら、すでにAランクの冒険者として名を馳せておりました。

 次々に功績を打ち立て、国の重鎮たちとも交流を持つ彼はやがて多くの女性から好意を向けられるようになり、その中でも優秀で見目麗しい数人の女性と関係を持つようになりました。

 やがて土地をもらい領主にまで上り詰めたのです。

 これといった失態やトラブルもなく、多くの女性を侍らせながら充実した順風満帆な日々。

 ……ですが、彼はある日突然部屋に閉じこもるようになったのです。

 恋人である女性たちが声をかけても、彼は決して出てきませんでした。

 それどころか食事を運ぶ時以外は誰も部屋に近づかないようにと厳命される始末。

 何かあったのか心配になった彼女たちでしたが、今まで様々な問題を一人で解決してきた彼のことですから、今回もきっと大丈夫。

 そう思い、彼の言いつけ通りに距離を置いていました。

 ところが、それから一週間後。

 突如、彼は部屋の窓から飛び降り自殺してしまったのです。

 残念ながら、ほぼ即死だったようです。

 周囲は悲しみに包まれましたが、どうして彼が自殺したのかわかりませんでした。

 先ほど言ったように、彼は充実した順風満帆な日々を送っていたのです。

 自殺する理由がわかりません。

 そこで、彼の部屋を捜索したところ、何枚かのメモが見つかったそうです。

 そのメモには、「何故かチートが使えなくなった」「どうして神様」「せっかく異世界に転生したのに」「どうしよう」「誰か助けて」「嫌だ、怖い」などと書かれていたとか。

 ここに出てくるチートや異世界、転生という言葉がどういった意味なのかはわかりませんが、彼は突然力を失ってしまい精神的に追い詰められた結果自ら死を選んだ。

 そういうことなのだろうと結論付けられました。

 ……顔色が優れませんね。やはり、これらの単語に見覚えがあるのですね?

 でしたら、悪いことは言いません。

 その力に頼らず、一から勉強し直すことをお勧めします。

 あなたがどうしてその力を得ることになったのかは存じ上げませんが、突然誰かの都合で与えられたものなど、突然誰かの都合で奪われるものですから。

 では、冒険者登録もキャンセルということでよろしいですね?

 わかりました。ではそのように手配しておきましょう。

 それでは、お元気で。

 あなたのこれからに、幸多からんことを。


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とあるチート持ち転生者の話 秋空夕子 @akizora_y

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