スウィートクリーム 〜甘くとろける私を貴方に〜
下東 良雄
スウィートクリーム 〜甘くとろける私を貴方に〜
ようやくこの時が来た。
乙女ゲーム『スウィートクリーム』のヒロイン・
ただ、悪役女子・
推しの攻略キャラ・
あら、麗華さん。今頃何しに来たの? 爽介くん、もうケーキ食べてるわよ。ふふふ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一年前――
「爽介、おはよう」
「おぅ、麗華。今日も不機嫌そうだな」
高校への通学路を歩きながら、私の顔を見てクスクス笑う爽介。
「こういう顔なの!」
「そんなに目を吊り上げて怒るなよ」
「ツリ目なのも生まれつきよ!」
ケラケラ笑っている爽介と、それを見て笑う私。
朝のいつものやり取り。爽介が本気で言っていないのは分かってる。
好きな男の子とのこんな楽しい時間がずっと続くんだって思っていた。
あの時まで――
「はじめまして、
長い黒髪のすごく可愛い転校生。
でも、なぜか私を見る目が怖い。そんな気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ここまではシナリオ通り。
爽介は麗華と嫌々付き合っているはず……なんだけど。
何か変だ。
早めに行動を起こして、麗華を排除した方が良さそうね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「キャーッ!」
階段を二、三段残したところで、背後から麗華を押してやった。
「麗華さん、大丈夫!?」
転んだ麗華に駆け寄る私。そして――
「……爽介くんに近づくな……」
――耳元で囁いてやったら、死ぬほど怖がっていた。
それでも誰も私を疑わない。これぞヒロイン補正だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「麗華さん、何でこんなことするの!?」
教室で突然優美さんに怒鳴られる。
何事かと驚いていると、切り刻まれた数学の教科書を突きつけられた。
「麗華さんが教室から一番最後に出てきたじゃない! 犯人はアナタしかいないのよ!」
私、そんなことしてない。
「ほら、またそうやって私を睨む! どうしてそんなに意地悪するの!?」
睨んでない! 意地悪なんて……
でも、みんな私を怪訝な目で見ていた。
「爽介くん、怖い!」
爽介の後ろに隠れる優美さん。
爽介は、悲しげな瞳で私を見ている。
私は一縷の望みさえも奪われた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
もうすぐ爽介の誕生日。
あれからいつも優美さんと一緒にいるし、一緒に通学することもなくなった。でも、毎年恒例の手作りケーキを贈りたい。それでこの恋を終わりにしよう。
誕生日当日、爽介の大好物・いちごのショートケーキを作り、保冷容器に入れて慎重に学校へと持っていった。昼休みに食べてもらおう。そう思っていた。
でも――
爽介は、優美さんが買ってきた高級なフルーツタルトを食べていた。
勝ち誇った顔の優美さん。
私は絶対に泣かない。笑顔で爽介とお別れするんだ。
私は爽介の前にフラムフラムのリーフィなランチョンマットを敷いた。
覚えてるかな、爽介が私にくれた誕生日プレゼントだよ。
席に戻って、保冷容器から紙皿にショートケーキを移した。
崩れないように、そっと爽介の下へと運んでいく。
「きゃっ」
さりげなく優美さんに足を引っ掛けられた私は、そのまま転んでしまう。床には潰れたショートケーキ。
「こんな貧乏臭いモノ、私の爽介くんに食べさせないで!」
優美さんの言葉に涙が溢れてくる。
泣かないって誓ったのに。
爽介が席を立ち、私のところへゆっくりとやって来た。
無様だと笑われるのかな。こんなお別れしたくなかったな。
爽介は腰をかがめ、手を伸ばしてくる。
思わず目をつむる私。
「うん、美味い」
爽介は、私の鼻の頭についた生クリームを指ですくい取り、そのまま口へと運んだ。
「やっぱり麗華のケーキが世界一だ」
優しい笑顔を浮かべる爽介に、私は抱きついた。
「ようやく証拠が揃ったんだ」
「えっ?」
「学校側が防犯カメラの映像を出すのを渋ってね」
「カメラ?」
「清瀬さんが麗華を階段で突き落とした映像が残っていたよ」
優美は顔を真っ青にしていた。
「オレが清瀬さんと一緒にいたのは、麗華を危険から遠ざけるためだ」
「爽介……」
「でも、もうそれも必要ない。これで清瀬さんとの関係もジ・エンドだ」
「おかしい! 私がこの世界のヒロイン! その女は悪役女子よ!」
激昂する優美。
「その悪役女子は、決してヒトを傷付けたりしないぜ? まぁ、学校からの処分を待つんだな、ヒロインさん」
優美は、絶望の表情で膝から崩れ落ちた。
「ケーキ、ゴメンね……」
「新しいケーキを作ってくれるか?」
「いいよ! どんなケーキがいい?」
「そうだな……麗華の身体にクリームを乗せて……」
「もう! 爽介のエッチ!」
スウィートクリーム 〜甘くとろける私を貴方に〜
SECRET HAPPY END
待って、待って! ハッピーエンドじゃないよ。
私たちの物語はこれからも続くんだから!
スウィートクリーム 〜甘くとろける私を貴方に〜 下東 良雄 @Helianthus
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