ダンジョン−4

 ジョーと話していると、部屋にエマ師匠とエレン師匠が入ってきた。

 ダンジョンの話をして、テレサさんに魔法の制御を奪う方法を教わったことを伝えた。


「では次に協力魔法を覚えた方が良さそうですね」


 先ほど作った収納するための魔道具をエレン師匠が手元に寄せながら、そう言う。

 協力魔法か。まだ教わっていなかったな。


「協力魔法は魔力の制御を奪う方法の応用です。順番に魔力の制御を人に移していくのです」


 複数人で同時に魔法を使うのかと思っていたが、魔力を人に移すのか。


「エドたちはまだ魔力がありますか?」

「はい。ほとんど使ってません」

「それなら今から練習してみましょう。先に訓練場へ向かっていてください」


 エレン師匠はそういうと、ジョーとエマ師匠を連れてどこかに行った。

 俺たちは協会の訓練場へと向かう。


 訓練場で待っていると、箱を抱えたエレン師匠たちがやって来た。

 エレン師匠たち以外のも箱を運んできた人が居て、運んできた箱をおくと去っていった。


「エレン師匠なんですかこれ?」

「箱を開ければ分かります」


 箱を開けると、中には大量の収納するための魔道具が入っていた。

 一つ手に取ってみる。


「協力魔法は大量の魔力を制御するのが重要です。制御した後に大量の魔力を消すだけでは勿体無いですから、魔道具に吸収させます」


 魔道具は魔力の有効活用のためだったのか。

 箱は十個ほどあり、中身は全て魔道具だと言う。数え切れないほどの魔道具がありそうだ。

 エレン師匠が箱を開けて等間隔に並べていく。


「魔力は増えれば増えるほど制御が難しくなり、暴走する可能性が高まります。魔力を制御ができないと思ったら、魔力を魔道具へ近づけて吸収させます」


 魔法が暴走してしまうのか。

 魔道具を使うのは魔力が勿体無いからだけではなく、暴走を止めるためでもあったようだ。


「元々持っている魔力が多いほど、大量の魔力を扱えます。三人とも魔力量が普通の魔法使いより多いですから、魔法の制御を担当することが多くなるでしょう」


 魔力の多い俺たちには重要な練習のようだ。

 順番をどうするかと言う話になって、最初は俺が協力魔法を試すことになった。

 エレン師匠から無理に魔法に変える必要はないと言われる。今回は魔力を制御することに注力することにする。


 魔法の制御を奪いやすいように事前に使う魔法は決めておいた。

 ベスが全ての魔力で魔法を使い、俺がベスの魔法に魔力を混ぜて制御をもらった。同じようにドリーから魔力をもらう。

 三人分の魔力だが思ったより制御は大変ではない。まだ魔力を増やせそうな感覚がある。


「最初から随分と安定していますね。エド、まだ魔力を増やせそうですか?」

「はい」

「私の魔力も渡したいところですが、今日は使ってしまっています。近いうちに建築魔法を使う魔法使いに協力をお願いしましょう」


 今日のところは魔力を増やすのを諦めて、魔道具に魔力を移す。

 魔法を箱に近づけると、魔力が吸われていく。八つ目の箱で魔力は無くなった。


「こんなに魔力を込められるとは流石ですね。収納の魔道具に魔力を補充するのは協会の仕事です」

「それでこんなに魔道具があるんですか」

「そうとも言えますが、皆魔力を補充するのを忘れているだけです」


 エレン師匠が、魔法使いは自分の研究に魔力を使い切ってしまうので、魔力の補充を忘れ気味なのだと教えてくれた。

 魔道具が無ければアルバトロスの食料が減ってしまうので、当番を決めて魔力を補充しているほどのようだ。俺たちが魔道具に魔力を大量に補充したので、エレン師匠だけではなく、エマ師匠やジョーも喜んでいる。


 ジョーはまだしもエマ師匠まで喜んでいるということは、よっぽど魔力が補充されないのだな。

 明日も練習がてら魔道具に魔力を補充することになった。驚いたことに協会の倉庫にはまだ大量に収納の魔道具があるようだ。


「そんなに魔道具がいっぱいあるのか」

「収納の魔道具は作るだけなら簡単じゃからな。予備は大量にあるんじゃ」


 魔道具を大量に必要になった時に作っていたら遅くなる。余分に作っておくのは当然だろう。それに魔力効率はかなり良い魔道具だとは思うが、冒険者が毎日使う魔道具の量もかなり多そうだ。


「では今日のところはこれで終わりましょう」


 明日はトリス様にダンジョンについて報告をするため、屋敷に向かう必要がある。協力魔法の練習は屋敷ですることになった。

 収納の魔道具を皆で運んで一日が終わる。




 翌日。

 屋敷に着くと、まずは協力魔法の練習を終わらせてしまうことにする。協会から箱に入った収納の魔道具を持ち出してきている。

 箱を並べて待っていると、ベスがやってきた。


 ベスに挨拶をしようとして、違和感を感じた。

 何の違和感か分からずベスを見る。


「エドどうしましたの?」


 ベスに不思議そうにされながらも、ベスの顔を見ていると目線が合った。同時にベスの瞳孔が変なことに気がついた。


「ベス、目を怪我してる?」

「え?」


 テレサさんとエマ師匠が慌ててベスの目を確認し始めた。


「これは……。エリザベス様、獣人化が進んでおります」

「え!」


 獣人化? ベスは獣人の血を引いていたのか!

 俺が驚いている間にもテレサさんは動いており、侍女に鏡を持ってくるように言っている。

 侍女の持ってきた鏡を受け取ったベスが確認して驚いている。


「本当ですわ!」


 テレサさんがトリス様に報告するように侍女に言うと、侍女たちが慌ただしく動き始めた。

 エマ師匠が一応ベスを調べると、何の問題もないことが分かった。


「ベスって獣人だったんだ」

「お父様や弟と違って見た目には変化がありませんでしたわ」

「お父様って、辺境伯は獣人の部位が多いの?」

「お父様はライノと同程度の獣人ですわ。見た目はライオンですの」


 ライオン……? いや、ライノと同程度って凄くないか?

 アルバトロスに来てからギルドで、一部だけ獣人だろと予想できる人は見かけたことがある。しかしライノと同じくらいの獣人って見かけたことがほぼない。


 確か獣人の部位が多ければ多いほど身体能力が上がると聞いたし、かなり強いのでは?

 ……あれ? ベスってお父様を目指してるとか言ってなかったか? 獣人の部位が多い人を目指してたの?


「これでお父様にさらに近づけますわ!」


 やはり目指していた。

 獣人の血を引いているのなら普通より身体能力は高そうだが、獣人の部位が多い人を目指そうと思ったら必死に鍛錬する必要があるだろう。ベスが強さを求めていた理由が理解できた。


 驚いていると、侍女が戻ってきてトリス様が今すぐ部屋に来るようにとの伝言を伝えた。俺は喜んでいるベスを落ち着かせてトリス様の元へ向かう。


「ベス、獣人化が進んだとは本当ですか?」

「本当ですわ!」


 部屋に入るとトリス様から早速問いかけられた。普段なら椅子に座ってから話し始めるのに、随分と急いでいるようだ。

 トリス様がベスに近づいて瞳を確認している。


「本当のようですね。ダンジョンでは獣人化が進む場合があるとは聞いていましたが、浅瀬で進むとは思ってもいませんでした」


 確かに俺たちはダンジョンの草原にまだ出ていない。まだダンジョンの入り口付近といっても良い程度だろう。そんな場所で獣人化が進むとは普通思わなそうだ。


「ベス、しばらくダンジョンは禁止です」

「何でですの!?」

「獣人化が進むと身体能力が上がり、体の動きが悪くなると聞いたことがあります。問題ないと分かるまでは禁止です」


 上がった身体能力に体がついて来れなくなるのか。そんな状態でダンジョンに行くのは危険だ。トリス様の言う通りに一度ダンジョンに行くのをやめることにする。

 ベスもトリス様の説明に納得したようで同意している。


「分かりましたわ。ダンジョンに行けるまで、エドと別のことをしていますわ」


 ベスと話していたトリス様が俺の方を向いた。


「エド、申し訳ありませんがベスを頼みます」

「はい」


 エリザベス商会の仕事もあるし、魔法の勉強もまだ途中だ。それにダンジョンは逃げることがない。しくじらないように、ゆっくり進めればいい。





ーーーーーーー


ダンジョン−4で一区切りとして改稿版の更新を止めます。

改稿作業をしながら、元の連載に繋がるようにならないかと試してみようと思っています。

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しくじり転生 〜うまく転生できてないのに、村まで追い出されるってどう言うこと神様?〜 [改稿版] Ruqu Shimosaka @RuquShimosaka

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