ダンジョン−3
協会へ輸送をお願いしますと職員に伝えようとすると、服を引っ張られた。
「にーちゃ、お腹すいた」
「昼食を食べていなかったな」
ドリーに言われて、俺もお腹が空いていることに気づく。
露店で何か買って食べても良いのだが、ベスが食べられないかもしれない。捌きたてはあまり美味しくないかもしれないが、今食べる肉だけ解体をお願いできないだろうか?
「今食べるだけの肉を解体お願いできませんか?」
「今でしたら三十分ほど頂ければ可能ですよ」
無理かもしれないと思いながらお願いすると、意外なことに可能だと言われた。というか、解体時間がとても早い。流石解体場だな。
テレサさんに調理したものを食べるのは問題ないか尋ねると、許可が出た。
話を聞いてたであろう解体場のギルド職員から、調理場があるので薪を買えば料理することもできると教えてもらえた。
「他の素材はどういたします?」
「協会へお願いします」
「かしこまりました。こちらの書類に名前の記入をお願いいたします」
書類に名前を記入して、お金を払ったら後は解体待ちとなった。
待っている間に調理場を借りて薪を買う。調理場の使い方を聞き終わったところで解体も終わったようで肉を受け取る。
袋に入った肉は結構な量があるが残ったら持ち帰ればいいだろう。
調理場は解体場のすぐ横にあって、解体場から屋根が伸びているので雨が降っても問題なさそうだ。
俺が肉を取り出して肉を切り分けているとベスも興味を持ったようだ。今回は焼くだけだが、ベスに料理の仕方を教えていく。
ドリーには採取した薬草と塩を混ぜ合わせた調味料を作ってもらう。
薪に火をつけて、ベスと切った肉にドリーが作った調味料をつけて網で焼いていく。
すぐに山羊の肉と、鳥の肉は焼けた。皆に配って食べ始める。
味付けは俺とドリーがターブ村でよく作っていた味で、前世の香草焼きを参考に、薬草を混ぜ合わせた薬草焼きだ。
アルバトロスに来てから作っていないので、二ヶ月半ぶりだ。食べてみると山羊の独特の臭みが薬草で美味しい程度まで抑えられている。
「美味しいですわ!」
「外で調理したとは思えないほど美味しいです」
良かった。ベスとテレサさんにも好評のようだ。
次に魔物の鳥を食べてみると、今まで食べた肉の中で一番美味しいかもしれない。
「魔物の鳥、美味しいな」
「鳥は魔物だったのですか?」
「そうです」
「魔物の素材は高級品です。食べても美味しいですが、魔道具の材料にもなりますので」
知らなかった。
もう調理してしまったし、食べるしかないだろう。それに鳥の魔物ならまた狩れば良さそうだ。
気にせず食べてしまうことにする。
皆、思った以上にお腹が空いていたようで、追加で焼いて結構な量を食べた。
次があるならパンとかも欲しいな。
食べ終わった後は少し休憩する。
お茶なんてないので、各自コップに魔法で水を出して喉を潤す。
「テレサさん、聞いても良いですか?」
「なんでしょうか?」
「鳥の魔物に魔法を邪魔された気がするんですが、そんなことが可能なんですか?」
「可能です。魔法が簡単であればあるほど奪いやすくなります。騎士は魔法の制御を奪われないように魔法を複雑にしています」
やはり魔法の制御を奪う方法があるのか。しかしテレサさんの言った、複雑にするという意味がわからない。
「複雑とはどういうことなんですか?」
「最初に水の玉で練習したと思いますが、そのままの水の玉では簡単に制御を奪えます。少し考え方を変えて、水の玉の温度を変えるだけでも制御は奪いにくくなります。相手に想像されない考え方で魔法を作るのが重要です」
相手に何を考えて魔法を作ったか読まれないのが重要なのか。今日魔物に使った魔法は、石を宙に浮かして飛ばすだけの簡単な考え方で使った。考え方が簡単なので制御を奪うのは簡単そうだ。
「魔法の制御を実際に奪ってみましょう。水の玉を出すので制御を奪ってください」
制御の奪い方は、相手の魔法に魔力を混ぜ合わせて同じ魔法を考えるだけで良いと教えてくれた。相手が魔法に使った魔力を十とすると、一以下の魔力を混ぜるだけで良いようだ。
魔力を出してテレサさんが出した魔法の水の玉に魔力を混ぜ合わせ、水の玉と考える。魔法の制御ができるようになった。
想像以上に簡単に制御を奪えてしまった。
「できたようですね。次は水の玉の温度を変えますので、水の玉とだけ考えて奪おうとしてみてください」
テレサさんが水の玉を出したところで奪おうとするが、制御を奪えない。
「制御を奪えない場合は考え方が間違っているか、魔力量が足りていないかのどちらかです。制御を奪うときに魔力量を増やせば、多少間違っている程度であれば制御を奪えます」
魔力量を増やしてみるようにテレサさんから言われ、試してみると制御を奪えた。
「魔法の制御を奪えなくとも、相手は魔法がうまく使えなくなります。エドが魔法をうまく使えなくなったのは、鳥の魔物が魔力で制御を完全に奪おうとしたが失敗したというのが理由です」
完全に制御を奪えなくても、邪魔することはできるのか。
ベスやドリーも魔法を奪う方法を実践したがっているので、テレサさんから交代でやってみると良いと言われて試してみた。
水の玉に温度を付けるのを試してみると、鳥の魔物と戦った時のように魔法の制御がうまくできなくなった。
魔法を複雑にするのは、対人戦や魔物と戦う場合には重要になりそうだ。
魔法の制御をどう取るのか覚えたところで、協会に帰ることにする。
協会に帰ってくると、エマ師匠に会いにいく。
「エドたちはジョーの部屋に行ってください。私はエレンを呼んできます」
俺たちは言われた通りにジョーの部屋へ向かう。
ジョーへの挨拶もそこそこに、採取してきた天井の石を渡す。
「量はこれでよかった?」
「十分じゃ」
ジョーから石を細かく砕くように言われて、俺たちは石を砕いていく。粉状になった石に水を加えて、型にはめ込み炉で加熱する。
炉から出して冷めたところで型から出したのは、ダンジョンで倒した獲物を回収するときに使った魔道具だ。
「今回これを使ったじゃろ?」
「うん!」
ドリーが元気に返事をした。
ジョーは冷めた魔道具を俺たちに一本ずつ手渡してきた。
「これに後は魔力を込めるだけじゃ」
魔道具に入りきらなくなるまで魔力を入れると完成した。
便利な魔道具なのにとても簡単に作れるようだ。というか魔力を込める工程以外は、魔道具なのに魔法使いが作らなくても作れそうだ。
「簡単すぎない?」
「驚くほど簡単じゃな。その代わりと言ってはなんじゃが、回収するのはダンジョンでしか使えんぞ」
制約はあるようだ。
それでも便利な魔道具なのに作るのが簡単だな。
「エドたちは自分で魔力を込めれば使い回せるので、中身を取り出した後は返してもらうといいぞ」
驚いたことに使い回しまでできるようだ。
魔力をこめてヒビが入ったり、割れたら捨てるようにとジョーに言われた。壊れたら協会に在庫は大量にあるので、言えばもらえるとも教えてくれる。
「それと魔道具の大きさを変えると入る量も変わるんじゃ。普通は今作った大きさじゃな」
ジョーから将来的には倍程度の収納の魔道具を作ることを勧められた。
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