ダンジョン−2
山羊を倒した後ももう少し進んでみることにした。
まだ魔法を使っていないので、かなり余裕がある。
山羊を超えてから冒険者の数が減って、年齢層が上がった気がする。冒険者は戦うのに慣れているのか、腰が引けているような人を見かけなくなった。
ダンジョンは順番に敵が強くなって行くようだ。
戦っている冒険者を避けながら先に進むと、前方に魔力があるのが分かった。だが魔力は地面近くではなく、空中にあるのが不思議だ。
「魔力が飛んでる?」
「ですわね。魔力の大きさからして人ではありませんわね?」
山羊と比べたら随分と小さい。
魔力を感知できる範囲だと相手が何なのか判別ができない。慎重に進んで相手がどんな魔物なのか確認してみる。
「鳥かな?」
「飛び回っていてよく見えませんが、多分そうですわ」
大きさは鳩かカラス程度だろうか? 飛んでいて大きさの判断が難しいが、そこそこ大きい鳥のようだ。
「これが魔物か。魔法使いになると、はっきり分かるな」
「鳥の魔法使いとは変な感じがしますわ」
「確かに」
山羊に比べたら小さい魔物の鳥は飛んでおり、どうやって倒すかが問題となる。矢が当たるとも思えず、ドリーが牽制に矢を射った後は魔法で落とすことにする。
山羊同様に近づかれた場合は俺が盾で防ぐことにした。
「鳥は小さいから、魔法は強さより精度を優先しよう。石を飛ばす程度で良さそうだ」
「分かりましたわ」
鳥に気づかれる前に先制する。
ドリーが射った牽制の矢はもう少しで鳥に当たりそうだった。惜しいと思いつつも魔法を打ち込む。俺とベスの魔法は鳥に掠って、ドリーの魔法が直撃した。
鳥は地面に落ちて動かない。
「やった!」
「凄いですわ」
盾を構えながら鳥に近づいていくと、動かないので死んでいるようだ。
「何か魔法を使ってたみたいだけど、攻撃はしてこなかったな」
「飛ぶ速度を上げていたのかもしれませんわ」
「なるほど。でも直線で飛んできたから簡単に落とせたな」
「ドリー、かんたんだった」
ドリーに向かって飛んでいたので、直線とはいえ飛んでいるので予想と違って外してしまった。ドリーは真っ直ぐ打てばいいので簡単だったようだ。
魔物が出たし戻ろうかという話にもなったが、まだ余裕があると進んでみることにする。
慎重に歩いているのもあって、数時間は歩いていそうだ。
洞窟を進んでいくと、一定だった洞窟の横幅と高さがさらに広がっていることに気づいた。洞窟の奥には草原のようなものが見え始めた。
「……外?」
俺は草原を眺めていると、ベスが声を上げた
「これもダンジョンの中ですわ」
ベスに言われて、ダンジョンの中には外と同じような環境が広がっていると教わったのを思い出す。
これもダンジョンの中なのか……。
草原が見えた位置まで進む。まるで外に出てしまったかと錯覚してしまうような草原が広がっている。
外と違いがあるとすれば太陽がなく、空は一面の光っている。天井には先ほどと同じ鍾乳石のようなものが目を凝らせばかろうじて見える。天井の高さが更に上がっているのがわかる。
「アルバトロスのダンジョンは草原だと聞いていましたが、実際に見ると凄いですわ」
ダンジョンによって森、砂漠、湿原など様々な環境があるらしい。アルバトロスは草原なので入りやすいダンジョンと評判だと聞いた。
少しの間、草原を三人で眺める。
この先進めないことはないだろうけど、流石に引き返した方が良さそうだ。
「今日は帰ろうか」
「そうですわね。むしろ進みすぎた気がしますわ」
「確かに、俺も初めてのダンジョンで興奮してたのかも」
洞窟内は通り道になっているからか、他の冒険者が戦っておりここまで二回戦っただけでたどり着いてしまった。魔物の鳥でも苦労した感じはないので、まだ余裕だとは思うが初日なので万全を期して帰るべきだろう。
帰り道もやはり冒険者が戦っているので邪魔にならないよう横を通って進む。戦うだけなら脇道にそれればいいのだろうが、地図を見ると先は行き止まりか迂回しているだけのようだ。
草原にまで行く道では最短なので、冒険者は皆この道を通るのだろう。
「また鳥の魔物ですわ」
「本当だ」
誰も戦っていないので戦う必要がある。
先ほどと同じ戦法で戦うことにした。ドリーが矢を討った後、俺は魔法を発動しようとするが、うまく魔法が使えない。
魔法が使えない理由が何故か咄嗟に理解できなかったが、盾を構えて鳥の攻撃に備える。しかしベスが打ち出した石が鳥に当たって地面に落ちた。
俺は盾を構えながら鳥が死んでいるかを確認する。
「死んでるよ」
「前回の修正がうまくいきましたわ。ところでエドは何故魔法を使わなかったんですの?」
「うまく魔法が使えなかったんだ」
落ち着いて考えられる状態になったので、魔法が使えなかった状況を思い出してみると、何となく感覚が近い状況を思い出した。
魔法を教わった時に魔力が暴走しそうになると魔法を消してもらっていたが、その時に感覚が非常に近い。ベスにも感覚を説明してみた。
「魔物は魔法使いですから、同じことができるのかもしれませんわ」
「確かに。でもどうやってやるんだ?」
三人で同じように勉強しているから、ベスとドリーは俺の疑問に答えられる訳もなく、帰ってから聞いてみることにした。
入り口付近まで戻ってくると、忘れずに天井の光っている石を破壊して回収する。
「壊すと光が消えるんだ」
「そのようですわね」
壊した石は近くで見ても鍾乳石のようで、腕ほどの長さのものを持ち上げても想像以上に軽い。中身は詰まっていそうなのに、軽石のような軽さだ。
軽いが持てる量には限界がある。持ち運びしやすいように、折れないかと剣の柄で殴ると簡単に割れた。
石は少しで良いとは言っていたがどの程度か分からない。割った鍾乳石一個分を鞄に詰めて持ち帰ることにする。
大きくなった鞄を背負ってダンジョンを出る。
ダンジョンに来た時は朝だったが、今は昼を超えているようで太陽が少し傾いている。
太陽の具合からして、六時間くらいはダンジョンに入っていたのかもしれない。
「エリザベス様、おかえりなさいませ」
テレサさんが門の前で待っていた。
初めてのダンジョンなのに長すぎたかもしれない。
「テレサ、戻りましたわ」
「ダンジョンはどうでしたか?」
「想像以上でしたわ」
テレサさんは俺たちの話を聞きながら、近くにある解体場へと案内してくれた。
解体場はダンジョンの近くに存在した。解体場は倉庫のような建物で、荷物を乗せた馬車が出入りしている。中は受付がある部分はそう大きくなく、受付の奥に解体するための場所が広がっているようだ。
解体場はギルド職員によって運営されているようで、職員の指示に従って山羊や鳥の入った魔道具を渡す。
職員が魔道具を台の上に乗せると、山羊と鳥の魔物が取り出された。
「このまま買い取ることもできますがどうされますか?」
「買取以外にも方法があるんですか?」
「解体されるのをお待ちになるか、アルバトロスのギルドへ輸送は無料で請け負っております。今は比較的空いていますので解体をお待ちになってもそう時間はかかりません」
どうしようか?
解体されるまで待っても良いが、ギルドで受け取っても良さそうだ。
「もしくは少々手数料を必要としますが魔法協会や薬師組合への輸送も請け負っております。お高くなりますが個別の配送も手配は受け付けております」
協会にも輸送してもらえるのか。手数料が少しならお願いしても良さそうだ。
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