ダンジョン−1

 ジョーが調整してくれた防具を身につける。

 武器防具の調整や、エリザベス商会での仕事、他にもベスが忙しかったりとダンジョンに行こうと思ってから一週間ほどがたった。

 今日は初めてダンジョンに向かう。


 ジョーから錬金術の基礎で使う物を採取してくるようにと言われている。指定された物はダンジョンの天井ならどこにでも生えている物らしい。

 ダンジョンは動物、魔物、薬草、壁まで全て一定時間で元に戻るようだ。元に戻ることを冒険者たちはリスポーンと呼んでいるらしく、前世の知識にあるゲームのようだ。


 ドリーと着けた防具が問題ないか確認して部屋を出る。

 今日はダンジョンに行くということで、魔法の練習は無しだ。ベスが大きめの馬車に乗って来たので一緒に乗り込む。


「エド、アルバトロスのダンジョンは一番手前が動物のウサギですので、出会わない限りは無視して構いません」

「ウサギは森でも狩っていますし避けます」

「いえ、出会ったら襲ってくるので倒す必要があります」


 テレサさんに言われて思い出た、ダンジョンの動物や魔物は人を見たら襲いかかってくるのだった。

 誰かが戦っているなら、邪魔にならないように横を通ったりもできるらしいが、誰もいない場合は倒すしかないようだ。


 俺たちの乗った馬車はアルバトロスを出た。ダンジョンは街の外にある。

 アルバトロス以外の街も大半が同じようにダンジョンと街は別々になっているようだ。

 非常に稀だがダンジョンから魔物が出てくることがあるのだという。


 アルバトロスを出て意外とすぐにダンジョンへとたどり着いた。

 あまり離れても不便だと街とダンジョンはそう離れてはいないようだ。

 馬車が止まったところで俺たちは馬車から降りる。


 俺たちはダンジョンの入り口まで歩く。ダンジョンの周囲には露店があったり、馬車が待つ場所などが整備されている。街とは違った独特の活気はあるが、兵士が巡回していたりと治安は良さそうだ。

 初めてのダンジョンということで高揚してくる。


 ダンジョンの入り口は城壁のように囲われているようで、門の奥に小山があって山には洞窟の入り口のようなものが見える。

 あの先がダンジョンか。

 ダンジョンの入り口は兵士が警備しており、ダンジョンに入る人にギルド証を提示するように言っている。


「テレサ、行って参りますわ」

「お気をつけて」


 テレサさんは馬車で待っていてくれるらしい。

 俺たちはテレサさんと別れて、兵士にギルド証を提示して中にはいる。

 洞窟のような穴は下り坂になっていて、俺たちは坂を進んでいく。


「以前に話し合ったけど、先頭は俺、ドリーは真ん中、ベスが後ろで良いかな?」

「問題ありませんわ」


 ベスは槍を持って来ているので、前衛は盾を持っている俺になる。

 ドリーは弓なのだが進む時に一番後ろは不安があるので真ん中だ。


 ダンジョン自体は横に広く、三人で横に並んで歩いたとしてもまだまだ余裕がある。

 奥に進むほど天井も上がっていき、想像以上に広い空間になった。奥に進んでも暗くなることはない、理由は天井に生えている鍾乳石のようなものが光っているからだ。


「天井で光っている石をジョーが取ってくるようにって言ってたな」

「想像以上に天井が高いですわね」

「魔法で壊して状態が良いの持ってくるようにって言ってたし、適当に壊せば良いんだと思う。だけど荷物になるから帰りに採取しようか」

「分かりましたわ」


 俺たちは更に奥へ進んでいく。

 驚いたことにダンジョンには所々に草まで生えている。草を確認すると割とどこでも生えているが薬草だった。


「地図に薬草が採取できる場所は書いてあったけどこんな風に生えているのか」

「これも薬草ですの?」

「アルバトロスの道端にも生えてるけど一応薬草だよ」


 地図にも書かれていなので冒険者が採取しても売れないのだろう。

 ベスは知らなそうなので、採取して虫除けになるのだと説明する。食べると痺れるような辛味があって実はそこそこ美味しい。

 少量だけ鞄に入れておく。


 テレサさんに手前にはウサギが居ると言われたが、ウサギには出会わない。むしろ出会うのは俺より年齢が低そうな子供ばかりだ。

 たまに熟練ぽい冒険者にも出会うが、俺たちと逆向きに歩いて行くので帰って行くのだろう。


 更に奥に進んでいくと、大きめのニワトリみたいな飛ばない鳥だったりが出てきた。俺たちと同年代か少し下くらいの子供が戦っているが、簡単には倒せないようだ。

 戦っている子供は腰が引けていたり動きが悪いので、戦い方を知らないのだろうと分かる。俺たちはまだ行けそうだと邪魔にならないよう大きく避けて進む。


 誰も戦っていない動物はいないかと歩き回っていると、遠目に戦っていなさそうな動物がいた。


「あれは山羊かな?」

「山羊に見えますわ」


 山羊は大きいので遠くからでも何となく分かった。

 狩猟をした森で山羊は倒しているので、ダンジョンでも倒すことは可能だろう。魔力の節約も考えて、魔法は最低限にしておく。


「ドリーが弓で牽制して、俺が盾で山羊を止めるから、ベスが槍で攻撃して。危ないと思ったら魔法を使おう」

「分かりましたわ」


 作戦が決まったところで配置につく。ドリーがまず山羊に矢を射ると、足のいい場所に当たったのか動きが鈍い。それでもドリーの向かって走って来たので俺が前に出る。

 ドリーが連続で射ると山羊の走る速度は更に落ちて、これなら余裕で止められそうだ。


「はっ!」


 俺が盾で山羊を止める前にベスが鋭い声を出すと、槍が山羊の腹を横から刺し込まれ、素早く抜かれた。

 山羊は痙攣すると横に倒れ込んだ。


「ベス凄いな」

「森での狩猟で慣れましたと言いたいですが、直線的な動きでしたから簡単でしたわ」

「確かにドリーしか見てない感じだったな」


 普通の山羊であれば逃げ出す状況だが、最初に攻撃を当てたドリーしか見ていないように突進してきた。攻撃的になっているが故に、行動が読みやすくなっているようだ。


「この山羊どうしよう? 持つには大きすぎるな」

「ジョーからもらった魔道具でしまうのですわ」

「そういえば、ジョーから持って行くように言われた魔道具があったな」


 鞄から石でできた十センチもない円柱の棒を取り出す。大きな獲物を倒した場合に使うようにと言われた魔道具だ。すっかり忘れていた。

 使い方は簡単で、十秒ほど魔道具を倒した獲物に触れさせておけば回収されるらしい。試してみることにする。


「おお、消えた」

「すごーい!」

「回収するところを見るのは私も初めてですわ」


 回収した後の魔道具は重さも変わらないので持ち運びが楽だ。問題があるとすれば、回収した後も見た目が変わらないのでどれに何を入れたかが分からない。

 獲物が入れてある魔道具と、何も入っていない魔道具は分けて入れておいた方が良さそうだ。


「山羊が入った魔道具をベスかドリーが持っててくれないか、俺が何も入っていない魔道具を持つから」

「それならドリーがいいと思いますわ。私は動き回りますし」

「いいの!?」

「もちろんですわ」


 今日はドリーの鞄に入れておいてもらうことにした。

 ドリーの鞄に魔道具を入れると、ドリーは鞄を大事そうに抱えている。とても嬉しそうだ。

 ここまで分かりやすい魔道具を始めてみたので、ドリーが嬉しそうなのも理解できる。


「山羊をしまえるなんて凄い魔道具だな」

「しまうのはダンジョン限定ですが便利な魔道具ですわ」

「ダンジョンだけなのか」


 ダンジョンの中だけでしか使えないとしても凄い魔道具だ。

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