第59話 同じこと
「花乃が筒井先生から聞いた話は全部、嘘だ。本当は卒業式の日にこう言うつもりだった。『筒井先生との噂は全部真実とは異なります。僕は茅野花乃さんと真剣に付き合っています』って」
「そんなこと言ったら先生でいられなくなるのに」
「花乃より大切なものなんかないから。あの頃から変わらず、今もずっと花乃のことだけを想ってる。これが指輪をつけていた理由」
桔平ちゃんが寂しそうな顔で笑う。
「花乃のお姉さんに、全部隠さず話せと言われた。そうしないと花乃のためにならないからって。だから話したけど、今更こんな話、ちょっと重いね。だいぶ重いか……」
「ごめんなさい……」
「どうして謝るの? 花乃は何も悪くないのに。そろそろ僕も行かないと。会えて良かった」
「ごめんなさい」
「謝らないで」
「わたし、最後に会った日、桔平ちゃんの言ったこと、自分で勝手に決めつけて、ちゃんと確かめなかった」
「それは、僕も同じ。言わなくてもわかってくれてるはず、って思ってしまってた」
桔平ちゃんがようやく笑顔を見せてくれた。
「花乃、幸せになって」
「わたしの幸せは……」
我慢していた涙がこぼれ落ちた。
「桔平ちゃんが、そばにいてくれること」
我慢していた想いがあふれた。
「あの時、桔平ちゃんから、さよならを言われるのが怖くて……逃げてしまったけど……」
今、手を伸ばせば、届く距離にいる。
「わたし桔平ちゃん以外の人を好きになれなかった。ずっと、好きなのは桔平ちゃんだけ」
すぐ目の前に、ずっと好きな人がいる。
「2年半の間、桔平ちゃんにずっと片思いしてる」
「……僕と、同じ?」
「同じ。同じことあって……嬉しい……」
桔平ちゃんが、わたしの頬にふれる。
「茅野花乃さん、好きです。僕と付き合ってくれませんか?」
両手で桔平ちゃんの顔を包んだ。
「はい。よろしくお願いします」
先生、さようなら。
あの頃のわたし、さようなら。
「花乃、泣かないで」
「桔平ちゃんも、笑って」
もう一度はじめまして。
わたし、あなたが大好きです。
END
先生、さようなら 野宮麻永 @ruchicape
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