第58話 桔平---side6
卒業式の日、花乃はもういなかったけれど、筒井先生との誤解は解かないといけないと思い、先生や生徒の前で言った。
「僕と筒井先生のことが噂になっていますが、それは事実とは異なります。僕には他に大切な人がいます。筒井先生と付き合っているという事実はありません。誤解を受けるような態度であったことは反省しています。申し訳ありませんでした」
筒井先生との約束を守ったつもりが、後に問題になるとは思ってもいなかった。
生徒が春休みに入るの待っていたかのように、久保先生の奥さんだという女性が学校にやって来た。
そして、校長室に、久保先生と久保先生の奥さんがいる中、筒井先生も呼ばれた。
「何かあったんでしょうか?」
隣の席の藤原先生にそっと尋ねた。
藤原先生は小声で教えてくれた。
「久保先生、筒井先生と不倫してたんですよ」
「嘘でしょ?」
「久保先生の奥さん、前にこの学校で先生をしてた人で、久保先生と筒井先生の仲をずっと怪しんでて、さりげなく聞いてまわってたんです。それでついに証拠を掴んで乗り込んできたんです」
「まさか……」
「久保先生、借金あるみいたいで、不倫がバレて離婚になったら慰謝料払わなきゃいけないからって、何とか隠そうとして……」
藤原先生がそこで一瞬間をおいた。
「何ですか?」
「向坂先生を利用したんですよ。筒井先生は向坂先生と付き合ってるって噂を広めて、不倫を隠そうとしたんです」
ようやく理解した。
なぜ指輪の件があんなに早く先生や生徒達に広まったのか。
なぜ筒井先生が僕との噂を執拗にまで否定しようとしなかったのか。
全部、自分のためだったんだ。
筒井先生が隠していた交際相手というのは、久保先生だったのか……
「藤原先生はどうしてそんなにご存じなんですか?」
「わたし、久保先生の奥さんと友達だから。卒業式に向坂先生がされた話を教えたんです。それで結局、興信所に頼んで不倫が発覚したんです」
「そう……なんですか……」
「筒井先生、前は男子校にいて、その時、生徒と恋愛関係持ったけどうまくいかなかったみたい。筒井先生の方は本気だったけど、生徒の方はそうでもなかったのね……そんな恋愛ばかりしてる人だったってこと」
生徒と恋愛関係……
校長室から出て来た筒井先生は、職員室を出る前に、僕の耳元で言った。
「そんな顔しないでよ。生徒と恋愛なんてありえないってこと教えてあげたんだから。あなただけうまくいくなんて思わないで」
筒井先生はずっと、生徒と恋愛している僕を憎んでいたことを初めて知った。
結局、久保先生は奥さんと別れ、学校も辞めた。
筒井先生も学校を辞めたけれど、他の人と結婚したと聞いた。噂では、久保先生と同時期に付き合っていた相手だということだった。
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