第5話過去

半年前。

居酒屋まさきが暖簾を仕舞った。

直後に入口のドアを叩く者がいた。

「すいません、お客様、今夜は閉店です」

と、利樹が言うなりドアが開いた。

そこには、作業着を着た男が立っていた。

利樹は恵美をかばうように、後ろに立たせて、身構えた。

「お客様、ですから……」

「私、松本健一と言います。寺前邦郎さんと同期でデパートの経理をしていました。立神昇は、あなたのお兄さんに罪を擦り付け、自殺に追い込んだのをご存知ですか?」

「……お兄ちゃんは……」

暫く話すと、松本は帰って行った。

恵美は泣き崩れた。

あのスーパーで働く立神が、横領の犯人だったとは。

恵美の兄は、人生に失望し自殺したのだ。


それから、何食わぬ顔で飲食する立神をどれだけ殺したいと、思ったことか。

恵美は精神を病み、心療内科の小林クリニックを受診して、全てを話した。

小林は、恵美の心中を察した。

犯罪は犯してはいけないと。

それから、半年後、立神昇は変死体で発見された。

黒井川警部は、事件の闇は深いと考えていた。

そして、元同僚の松本の存在を知り取り調べた。



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殺意の羅針盤 羽弦トリス @September-0919

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