きっと2年後に流れ星
幸まる
夕涼み会
『今日は人がいっぱいだねぇ』
キャベツの葉をシャグシャグと頬張りながら、ウサギ小屋で白ウサギのシロが言った。
『そうだね、晴れてよかったよ』
隣のインコ小屋で、とまり木に止まった黄色のセキセイインコのハナが答えた。
国道から一本入った場所にある、幼稚園。
1学年2クラスの約60人。
3学年で全園児200人足らずの小鳩幼稚園は、園庭もそれ程広くはない。
今日その園庭は、色とりどりの浴衣や
園庭の隅にあるウサギ小屋とインコ小屋は、現在園児やその家族で取り囲まれた状態だ。
しかしウサギもインコも、いつも通り餌を食べたり、チュルリと鳴いたりしている。
毎日毎日、園児たちに覗かれて声を掛けられ、時には小屋の網をガタガタ揺らして驚かされたりもしているのだから、今日のような状況だって特には驚かない。
そもそも幼稚園という所は、朝夕の送迎や季節ごとの大小様々な行事で、園児の家族が度々出入りする場所なのだ。
そして今日は、その季節の行事のひとつ。
夏の夕涼み会の日。
夕方から続々と園庭に集まってきた園児とその家族たちは、先生や保護者会が準備した屋台風のゲームで遊んだり、かき氷を食べたりしながら、日暮れを待っていた。
頃合いを見計らって、先生たちの誘導で、園児たちは学年ごとに集まって、うちわを持ち始めた。
キラキラと光を散らすうちわを見て、シロとハナが言う。
『今年も、かわいい星がいっぱいだね』
『本当だね。上手に作ったね』
うちわは、この日のために園児たちが作った。
金色や銀色の折り紙で、大きな星の形が貼り付けられ、下の部分にフリンジのように黄色のセロファンが何本も揺れている。
小鳩幼稚園の夕涼み会では、毎年こうしたうちわを持ち、園児たちが「きらきら星」の歌を歌ってお遊戯するのが恒例なのだった。
多くの保護者たちがスマホやビデオカメラを構える中、最初に歌って踊ったのは、年少組さんだ。
入園して三ヶ月弱経った今、幼稚園には随分慣れてきたけれど、みんなで揃ってのお遊戯は、まだまだハードルが高いようだった。
泣きながらお母さんの所に駆け戻る子、座り込んで砂を
「うちの子ったら、ちっとも踊らないわ…」
そんな落胆の声が聞こえて、シロはふふと笑った。
『大丈夫だよね』
『うん、大丈夫』
ハナはバラバラに揺れる星のうちわを見て頷いた。
次は年中組さんだ。
年少組さんに比べると、とっても上手。
間違える子もいるけれど、笑ってこのお祭りの雰囲気を楽しんでいる。
キラキラと星が輝き、セロファンがゆらゆらと揺れる。
『上手だね』
『うん、去年よりずっと上手になったね』
一匹と一羽は、少しずつ暗くなる空の下、園児達の笑顔を見て言った。
そして最後は年長組さんだ。
彼らは、先生たちが指示しなくても列を正し、構えるポーズも揃っている。
合図と共に始まる、お遊戯。
元気いっぱいの歌声と、息の合った踊り。
大きく揺れるうちわの星は、暗くなった園庭を照らす照明の光を弾き、キラキラと輝く。
『今年の年長さんも、とってもきれいだね』
『うん、今年も、とっても格好良いね』
シロとハナは頷き合った。
『成長したね』
『うん、とっても成長したね』
子供たちは誇らしげに歌い、踊る。
見つめるその子らの保護者は、我が子の成長を実感して嬉し気に目を細め、下の学年の保護者たちは、我が子の将来を想像して胸踊らせる。
年長組のお遊戯を、先生の横で見守る年少組の子供たちは、園で一緒に遊ぶ年長のお兄さんやお姉さんが自信を持って立派にお遊戯する様子を、憧れの眼差しで見つめる。
大きく開かれた黒い瞳に、明るい光が映り込み、どの子もまるで、星の光を宿したよう。
『大丈夫だよね』
『うん、大丈夫。みんな二年後には、きっとこんなふうに立派になるよ』
まだまだ小さな年少組の子供たちを見て、シロとハナは、ふふふと笑い合う。
今お遊戯している年長組さんも、二年前は泣きながら入園してきた。
それが、毎日泣いて笑って、遊んで学んで、いつの間にか、こんなに成長したのだ。
今の年少組さんも、二年後には必ず見違えるようなお兄さんお姉さんに成長して、シロやハナに「またね」って手を振って、春の風と共に卒園していくだろう。
毎年のことだけれど、それはとても、とても、喜ばしくて……。
最後に歌詞を繰り返し、年長組さんが手首を返しながら順番にしゃがんでいく。
星はキラキラと輝きながら、セロファンの尾を引いて、数多くの流れ星となって園庭へ降りていく。
二年後の流れ星達は、その小さな手を大きく開いて、満面の笑みで拍手をした。
《 おしまい 》
きっと2年後に流れ星 幸まる @karamitu
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