第39話:エピローグ

(悠斗視点)


 数週間後の夏休み。


 俺の家にて。


「ちょっと何やってんのよ、悠斗! 久々に来てみたら家の中に物とか散乱してるじゃん! 夏休みだからってだらけすぎでしょ!」

「うっさいなー、俺の勝手だろ!」


 今日は幼馴染の桜が久々に俺の家に来ていた。どうやら先日に友達と一緒に遊園地に遊びに行ったとかで、そのお土産を俺の家に持ってきてくれたんだ。


 そしたらお土産を持ってきた桜が俺の家の中が散らかっているのを見てぷりぷりと怒り始めたというわけだ。


「はぁ、全くもう……夏休みで時間もたっぷりあるんだし、家の中くらい毎日ちゃんと掃除していかなきゃ駄目でしょ! それに家が汚れてたら気分も落ち込んじゃうじゃないの!」

「い、いやそこまで怒る事じゃないだろ? まぁ確かにちょっと汚れてるかもだけど、でも俺だって時々掃除してんだよ。だから大丈夫だよ。むしろ全然綺麗な方だって、あはは」

「もう、ふざけないでよね! 私も手伝ってあげるから家の掃除していくわよ! ほら、立って立って!」

「う……わ、わかったよ……」


 という事で今日は久々にやって来た桜と一緒に家の掃除を始めていった。まぁ確かに桜のいう通り……俺の家はちょっとばかし汚れていたようだ。


 そしてそれから数時間後……。


「ふぅ、ざっとこんな所かしらね」

「おぉ……!」


 数時間後には俺の家は桜の手によってピカピカ状態となっていった。


「うん、やっぱり桜って掃除能力だけは高いよなー」

「“だけは”って何よ? ふふん、私は家事能力は全部高いのよ? もしかして幼馴染のクセに知らなかったの??」

「あはは、何いってんだよ? 家事能力が全部高いって言ってるけど、桜の料理スキルは壊滅的だろ? あはは、さっさと料理の腕を磨けよなー??」

「ふふ、相変わらず酷い事言うわね? まぁ別に良いけどさ」

「いやいや、別に酷い事なんて言ってないだろ。だって本当の事なんだからさー。あはは」


 俺達はいつものように笑いながら煽り合って話をしていった。そしてそれからすぐに俺はとある提案を桜にしてみた。


「あ、そうだ。そういえば桜の家って今日は両親どっちも出張でいないんだよな? だったら今日の晩飯は俺ん家で飯食べねぇか?」

「え?」


 昨日の夕方に桜のおばさんと外で偶然会った時にそんな話を聞いたんだ。だから今日は桜の家には両親はいないはずだ。


 それなら久々に桜に飯を作って貰おうと思ってそんな提案をしていった。


(まぁそれに……流石にこれだけ日にちが空いたら飯も作ってくれるようになってるだろうしな)


 実はちょっと前から桜は俺にご飯を作ってくれなくなったんだ。もう一ヶ月以上は飯を作ってくれなくなっていた。


 まぁでも流石にこれだけ日にちが経ったらもうそろそろ桜も俺に料理を作ってくれるよな。


「あぁ、ごめん。今日はこれから彼氏が私の家に遊びに来るから無理」

「……え?」


 そう思っていたら……桜の口から衝撃的な言葉を貰ってしまった。でも俺にはその言葉の意味が理解出来なくて一瞬動きが固まってしまった。


「え、えっと……えっ!? か、かれしって? ど、どういう事だよ……?」

「え? あぁ、うん! 実はちょっと前にね……冴木君と付き合い始めたのよ」

「え……えぇぇぇぇっ!?」


 桜はとても嬉しそうな笑みを浮かべながらそんな報告を俺にしてきた。


(そ、そんな馬鹿な!? だって冴木君って最近転校してきたばかりだろ!?)


 そ、それなのに……な、なんで桜が冴木と付き合ってるんだよ?? 関係性だって幼馴染の俺と比べたら冴木なんてまだまだ圧倒的に薄いはずだろ!?


「さ、冴木って……も、もしかして俺達と同じクラスの?? あの最近転校してきたばかりの冴木の事か……?」

「うん、そうだよ! あ、だからこれからは悠斗にご飯を作ってあげたり、今日みたいに家の掃除の手伝ったりとかはもう二度と出来ないからね? 他の男の子のお世話なんてしてたら大好きな彼氏に凄く申し訳ないしさ」

「え……あ……だ、大好きな……彼氏? 冴木の事が……大好きなのか?」

「ふふ、そんなの当たり前でしょー? お互いに大好き同士だから付き合ってるのよ。まぁそんなわけで、これからはちゃんと一人で料理をしたり掃除をしたりするのよ? あんまり家が汚いと今度からは悠斗のおばさんに言いつけるからね??」

「そ、そん……な……」


 俺は桜のその言葉を聞いて愕然としてしまった。


「え……い、いや、でもさ! 彼氏が桜の家に来るって……だって今日は桜の両親いない日だろ!? そ、そんな日に彼氏が桜の家に遊びに来るなんて……そ、それって、その……」

「あぁ、うん、だから私から冴木君を誘ったのよ。今日は両親がいないからその……良かったら私の家に泊りに来ない? ってね。そしたら絶対に泊まりたいって言ってくれたんだ! ふふ、だから今日は大好きな彼氏とお泊りデートなんだー」

「なっ!? お、お泊りデート!?」


(遊びに来るんじゃなくて、お泊りデートなのかよ!?)


 桜は顔を赤らめながらそんな事を言ってきた。そして桜は滅茶苦茶嬉しそうにしながら今日のお泊りデートの話をしてきていた。


 でも俺はそんな嬉しそうに話をする桜を見て酷くショックを受けていった。だって桜はずっと俺と付き合うものとばかり思ってたのに……。


 それなのに……何で俺の許可なく勝手に彼氏なんて作るんだよ……。


「え、えっと……い、いやそもそも桜に彼氏が出来たなんて俺、そんな話聞いてないんだけど? な、なんでそんな重大な話を俺に言わなかったんだよ……?」

「え、聞いてないって言われても……別にそんなプライベートな事まで悠斗に言う必要ないでしょ? 私に彼氏が出来た事を悠斗に言う必要ってあったの?」

「い、いや、それは……全然必要はないんだけど……」

「だよね? それなら別にいいじゃん。あ、冴木君が来る前に今日のご飯の用意しなくっちゃ! ふふ、それじゃあ私は家に戻るわね。ちゃんと戸締りはしときなさいよ?」

「え……!? あ、あぁ……わかったよ……それじゃあな……」

「うん、じゃあね!」


 そう言って桜は満面の笑みを浮かべながら俺の家から出ていった。


◇◇◇◇


 それから数時間後の夜。


 時刻はまだ8時を過ぎた頃だ。


「二人きりで何をしてんだろう……」


 俺は自分の部屋のカーテンを開けて窓の外を眺めていた。


 俺の家のお隣は桜の家だ。だから窓の外を見れば桜の家が見える。


 そして桜の部屋が何処かも俺はちゃんと把握している。だって桜の部屋で一緒に遊んだ事なんて何度もあるしさ。


「えっと、桜の部屋の明かりは……ついているな」


 他の部屋の明かりはついてないので、おそらく今は桜と冴木は一緒に桜の部屋の中にいるんだろうな。でもあの二人は桜の部屋で一体何をしているんだろう……。


「うーん、まぁ時間的には晩御飯を食べ終えたくらいかな……って、あっ!?」


 そんな事を呟いていたら急に桜の部屋から明かりが消えた。でも時刻はまだ夜の8時だぞ? まだ寝るには流石に早いよな……?


「何でこんな早い時間帯なのに部屋の明かりが消えたんだよ? ……って、ま、まさか!? もしかしてあいつら……エッチな事をし始めてんのか!?」


 俺はその時、数時間前の桜の様子を思い出した。


―― うん、だから私から冴木君を誘ったのよ。ふふ、今日は大好きな彼氏とお泊りデートなんだー


 桜は顔をちょっと赤くしながらそんな事を言ってきた。


(つ、つまりそれって……桜の方から冴木をエッチに誘ったって事だよな……?)


 な、なんだよ……それ……。


「そ、それじゃあ桜は今……俺以外の男と桜の部屋でエッチをしてるのか!? い、いや、そんなわけ……ないよ……だ、だってさ……」


 俺はその事実を受け入れる事が出来ずに頭が爆発しそうになってきた。


「だ、だってさ……そ、そんな……だって桜は幼稚園の時に俺に言ったじゃん。将来は俺と結婚するって……そ、それなのに……俺以外の男とエッチを……してんのかよ……う、うぁ……うぁあっ……」


 その瞬間、俺は今までの桜との思い出が一気に頭に蘇ってきた。


 俺と桜は物心がつく前からずっと一緒だった。幼稚園も小学校も中学校も高校もずっと一緒の学校に通ってきていた。


 そしてそんな桜とは子供の頃から毎日一緒にご飯を食べたり、二人きりで遊んだり、誕生日を祝い合ったり、バレンタインにチョコを貰ったりと……本当に色々な事を桜と一緒にやってきた。


 だから俺達は子供の頃から今日までずっと仲良く一緒に過ごしてきたし、俺達は何でも話せる最高の幼馴染だったんだ。だから俺達の仲は絶対に誰にも負けないはずなんだ。


 それに……幼稚園の頃には桜は俺と結婚するって言ってきてくれてたのに……。


「そ、それなのに……それなのに……俺以外の男とセックスをしてるなんて……そんな……うう……うぁ……あぁ……うぁあああああああっ……」


 俺は今までの桜との楽しい記憶を思い出しながら大粒の涙を流していった。俺の方が絶対に桜の事を幸せに出来るはずなのに……どうしてなんだよ……。


(どうしてなんだ……どうして桜は俺じゃなくて冴木を取ったんだよ……全然意味がわからねぇよ……)


 結局俺には桜が俺ではなく冴木を彼氏にした理由が全然わからず、そのまま俺は自分の部屋で一人で泣き続けていった。


◇◇◇◇


(冴木視点)


 今日は水島さんの家にお泊りにやって来ていた。今日は両親が出張で家にいないという事で水島さんが家に泊まりに来ないかと誘ってきてくれんだ。


「ごめん、なんか部屋の電球が切れちゃったみたいで……いきなり暗くなってごめんね」

「ううん、全然大丈夫だよ」


 今は水島さんの部屋で中学の頃の卒業アルバムを見させて貰ってたんだけど、でも急に部屋の明かりが消えてしまった。どうやら電球が切れてしまったようだ。


「うーん、でも替えの電球は買ってないから今日はずっと暗いままになっちゃうなぁ……本当にごめんね、冴木君……」

「大丈夫だから気にしないで良いよ。あ、それじゃあ明日は一緒に家電量販店に行って電球買ってこようか?」

「あっ、うん、そうだね! ふふ、それじゃあ明日も沢山デートしようね?」

「うん、もちろんだよ。それじゃあ部屋の中はちょっと暗いしリビングの方に戻ろうか?」


 俺は水島さんにそう提案をしてみた。リビングに戻れば明かりもつくだろう。でも水島さんはちょっとだけ恥ずかしそうな顔をしながらこう言ってきた。


「う、うーん、でもあと少しだけ私の部屋で話さない? や、やっぱりちょっとさ……彼氏を私の部屋に招待するのってちょっと憧れのシチュエーションだなって思っててね……」

「あぁ、なるほどね。うん、わかったよ。それじゃあこのままここで話をしていこうか」

「う、うん! ありがとう、冴木君!」


 という事で俺達はそのままちょっと暗い雰囲気を味わいながら、水島さんの部屋で一緒に話を続けていった。


「それにしても昨日の遊園地は本当に楽しかったね」

「うん、そうだね! 私は久々に行ったけどすっごく楽しかったよー」

「はは、それなら良かった。俺も都内の遊園地は初めてだったから凄く楽しかったよ」

「そっかそっかー、冴木君も楽しんでくれたのなら本当に良かったよ! あ、そういえばさ、確か大阪にも物凄く有名な遊園地があるよね? 冴木君はあの大阪の有名な遊園地には行った事はある?」

「あぁ、うん、もちろんあるよ。関西に住んでた頃は長期休みの時に友達とかとよく行ってたなー」

「へぇ、そうなんだ! いいなー、私もいつかは大阪のあの遊園地に行ってみたいなー」

「あはは、そうだね。あ、それじゃあさ……いつか一緒に大阪に旅行とか行ってみない?」

「え? 旅行?」


 俺はそんな提案を水島さんにしていった。


「うん。まぁ流石に今すぐとかは無理だけどさ、でもいつかお互いにお金を貯めたら大阪に旅行に行こうよ。俺も水島さんと一緒に大阪の遊園地に行きたいからさ」

「う、うん! 私も一緒に行きたいよ! それじゃあ頑張ってお金貯めるから……だからそしたら絶対に旅行に行こうね!」

「わかった。それじゃあ約束だよ。お金を貯めたら一緒に大阪旅行に行こうね」

「うん、約束だよ! ふふ、冴木君と二人きりで旅行かぁ……すっごく楽しみだなぁ」


 そう言って俺達はお互いに笑みを浮かべながら指きりをしていった。そしてその後も俺達は他愛無い話をずっと続けていった。


「あ、そうだ。そういえばさ……あの時に聞き忘れた事があったんだけど……」

「ん? 聞き忘れてたって?」

「うん、あ、あのさ……その……冴木君って……具体的にいつくらいから私の事を好きになってくれたの?」

「え?」


 すると水島さんは俺にそんな事を言ってきた。どうやら水島さんに告白した日の事を尋ねているようだ。


「うーん、いつくらいかって聞かれるとちょっと恥ずかしいな。だって……俺は転校してきた初日に水島さんに一目惚れをしちゃったんだもん」

「え……えっ!? 一目惚れだったの? そ、そっか……ふふ、そうだったんだ。そんなにすぐに私の事を……好きになってくれたんだね」


 俺がその事を伝えていくと桜はふふっと嬉しそうに笑ってきた。


「あ、そうだ。それじゃあ俺も聞きたい事があるんだけどさ、水島さんに告白した時さ、水島さんは俺の事を大好きだって言ってくれたけど……具体的に俺のどういう所を好きになってくれたの?」

「え? 佐伯君の好きな所? ふふ、もちろん冴木君の好きな所は沢山あるけど、でもその中でも一番はね……」


 俺がそう尋ねていくと桜は嬉しそうな顔をしながらこう言ってきた。


「その中でも一番……私が冴木君の事を大好きだなって思った一番の理由はね……私の事を大好きだってちゃんと口に出して伝えてきてくれた所だよ」

「え? それってどういう意味?」

「うん、私はさ、元々自分の事にはそんなに自信が無かったんだ。図体もデカいし、ガサツだし、女子力も低いと思ってたし……でも冴木君は……冴木君だけは私の事を毎回褒めてくれたでしょ? だから私はそのおかげで自信がついたの。それに私はちゃんと口に出して伝えてくれないと全然わからないからさ……だから……」


 そう言ってそこで一息ついて、そして水島さんは柔和な笑みを浮かべながら俺にこう言ってきてくれた。


「だからさ……私の事を大好きだってちゃんと伝えてくれてありがとう。そして……私も大好きだよ……佑馬君」


 そう言った水島さんの……いや、桜の笑顔は誰よりも美しく素敵な笑顔だった。


【完】


――――


・あとがき


ここまで読んで頂きありがとうございました。

読者の皆様のおかげでここまで書く事が出来ました。


本作品の総括については本日中に作者ノートに投稿しておきますので、もし気になる方はそちらもチェックしてみてください。


今後につきましては、他の小説も書いている手前、“いつ”とは明言出来ませんが、いつか時間が出来たら冴木君と水島さんが付き合った後のイチャイチャ話を番外編として投稿したいなと考えております。海にデートに行く話とかも書きたいですしね。


という事で以上、本作品のあとがきでした。


そしてこれからも私は色々な作品を投稿し続けていこうと思っていますので、今後も応援して頂けるととても嬉しいです。


それでは改めて最後に、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

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子供の頃からずっと一緒だから何をしても大丈夫だと思って調子乗ってるヤツから可愛い幼馴染を奪い取ってみた話。 tama @siratamak

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