第44話 今日は楽しかったね

 (すーすー……)

 安藤さんは疲れてしまった様で、電車の中で眠ってしまっていた。

 流石に帰りの地下鉄は迷わないように、しっかりと確認をしたから迷走する事はなかった。結構、遅い時間になってしまったが、とても充実した時間を過ごせて満足している。


「安藤さん。もうそろそろ降りるから」

「う、う~ん……」

「あ、ほら、もうすぐ駅に着くよ」

 安藤さんは、なかなか目を開けてくれない。困った……。

「ねぇ安藤さん、着いたよ。降りないと」

「ふわあぁ、おはよう……です」

 ようやく、起きてくれたかと思いきや欠伸をしていた。なんか可愛いな。

「もう、しょうがないなぁ」

(なでなで……)

 冬馬は、思わず安藤さんの頭をなでなでしてしまった。

「ふにゃああん♡」

「ほら、駅ついたから。忘れ物ない?」

 三人は急いで電車を降りた。このまま安藤さんが寝ていたら乗り過ごすところだった。危ない、危ない。


「それにしても、安藤さんの『ふにゃああん♡』は可愛かったな」

「先輩、私、そんな事言いました?」

 安藤さんは、その時は半分寝ぼけていたようで、 思わず口にしただけで覚えてなかったかもしれなかった。

「うん、録音して皆に聞かせたいぐらいだったな」

「それは絶対いやです!やめてください!」

 流石の安藤さんも拗ねてしまった。普段、言いたい放題言われているから、これぐらいはいいよね?

「美里ちゃんにはなでなでするのに、わたしにはしてくれないのね」

 何故か知らないけど、夏子まで拗ねだした。

「今度やってあげるから……」

「絶対だよ」

 何だかなぁと思う冬馬だった。



「今日はありがとうございました。また三人で遊びたいですね」

「安藤さんもお疲れ様。仕事行ったら石塚さんにもお礼言わないとな。でもまた何かチケットとか持ってきたらどうしようか?」

「それじゃ石塚さんに悪いですからね。彼氏がいるって言っておいてくれませんか?」

「まあ、その方が無難かな。お土産渡すときに伝えておくよ」

「流石、先輩。助かります♡」

 にこやかな表情で言われるから、安藤さんは憎めないんだよなぁ。本当、得な性格ですこと。

「夏子さんもありがとうございました。本当のお姉さんが出来たみたいで楽しかったです」

 冬馬と夏子は、顔を見合わせてキョトンとしている。

「あの、安藤さん……」

 安藤さんは、へ?といった感じの表情をしている。

「夏子は、安藤さんや自分よりも年下だぞ」

「うそぉぉぉぉぉ!?」

 大人っぽい雰囲気や、『冬馬くん』っていう呼び方から、安藤さんは夏子を冬馬よりも年上だと思っていたようだ。

「私の事も『美里ちゃん』って呼んでいるし、てっきり先輩よりも年上だとばかり……」

「夏子はそういう性格なんだ。受け入れてやれよ」

「嫌だったら呼び方変えてみる?」

「嫌じゃないですよ。今まで通り『美里ちゃん』でいいです。それにしても意外というか……」

「見かけは大人でも中身は子供だ。どこぞの名探偵とは真逆だな」

「酷い、冬馬くん!」

 夏子は冬馬をポカポカ殴っていた。もちろん痛くも痒くもないが。


 最後は意外な展開になったが、安藤さんとはここで別れた。

 そして夏子を自宅まで送る事にした。

「夏子は安藤さんとホント仲いいよね」

「うん♡美里ちゃんって可愛いし優しいし、それに明るくて面白い人だから♡」

(確かに……安藤さんは不思議と憎めない人なんだよな……)

「ふ……冬馬くんも、優しいよ」

 夏子がポツリと呟いた。その顔は紅潮しており、視線も合わせてくれない。

「うん……ありがとう……」

(夏子には感謝してるな……俺を支えてくれてるし……)

 そんなことを考えているうちに夏子の家に着いた。

「冬馬くん、今日は楽しかった。ありがとう。荷物置いたら……、もうちょっと一緒に過ごしたいな♡」

「わかった、夏子さえよければ……」


「夏子、おかえり。冬馬君とラブラブしてきた?」

「冬馬君、いらっしゃい。晩御飯作ってあるの。食べるでしょ?」

 いきなり玄関が開いたと思ったら、夏子の母と夏子の姉である朱美が出てきた。

 それも晩御飯を食べて行けと。どうして彼女の母親と姉にこんなに好かれているのか、どうしても冬馬にはわからなかった。押しの強さは血統なのかと、冬馬は半ば諦め、南田家の面々と晩御飯を一緒に食べるのだった。夏子と二人きりにはなれなかったけれど、南田家での団欒は,それはそれで楽しく過ごせたのだった。


(ん?何かメッセージかな?)

 家に帰った冬馬がスマホを見ると〇インから通知が来ているようだった。どうやらグループへの招待らしい。とりあえず承諾はしてみた。

(それにしても、グループ名が『アンドーナツ+1』って、俺はオマケかよ)

 どうやら今後もこの3人で出かけることがあるんだろうなぁ。

 冬馬は、期待と不安が一緒になった複雑な気持ちになった。



 ○○○○


 PHASE4はこれで終了となります。ありがとうございました。楽しさが伝わっていればいいのですが、どうでしょう?

 次は冬馬にとって家族とは何なのかという、やや重い話になります。



※※※※


カクヨムコンが盛り上がる時期の間、更新を休止します。再開は未定ですが、来年以降、落ち着いたら復活したいと思います。

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【IF】情熱彼女に振り回される日々。クールを気取っているつもりでもタジタジです。もしも冬馬くんが石頭だったらバージョン 榊琉那@Cat on the Roof @4574

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